27.マンカラカラハ
わたしは外が真っ暗になっても、無心で木を削っていた。
食堂の隅で、ろうそくをひとつだけ灯して、手元を照らしている。
周りでご飯を食べに来た護衛士さんたちが、手元を覗きに来る気配がしても、わたしは構わず削り続けた。
「あんた……夕飯、食わんのか?」
誰かに話しかけられても「はい」「そうですね」しか答えられなかった。
今は何も、言葉にしたくないし……食欲などなかった。
でもそろそろ、ろうそくが短くなってきた。
ある程度研磨できたし。指先を木に滑らせて、触ってみた感触も悪くない。
削り終わった板から、トントンと木屑を払い落とした。掃除用具を持ってきて、綺麗に掃除を終えると、わたしはポケットに入れていた石ころを取り出した。
「それ、どうするの?」
いつの間にか、数人の子供たちが、わたしの後ろのテーブルに座っていた。
ずっと、わたしのことを見ていたのかな……みんな、子どもとは思えない静かさだった。
その中にはラッセルもいて、彼らは興味津々で、わたしの手元を見ている。
「……聖典に書いてあった、魔法を試そうと思って」
「へぇ、どんな魔法なの?」
「ただの石ころを、宝石に変える魔法」
わたしは、聖典で読んだとおりの呪文を唱えた。するとただの石ころが、色とりどりのおはじきのように、澄んだ色の石に変わった。
これは、人の傷を治すのとは違って、簡単に発動できた。
「わぁ〜〜すご〜〜い!!」
「きれ〜〜い!!これ、1つちょうだい!!」
一人の子が手を伸ばしてきて、わたしは「だーめ。これぜーんぶ、わたしのもの!」と言ってみせた。
「ケチな聖女様だな……」
男の子の軽口に、わたしは思わず吹き出して笑った。
「うそだよ。でもこれ、せっかく作ったから、みんなの遊びに使ってもらいたいと思って」
「遊び!?」
子供たちは、目を丸くした。
「これはね、わたしの元いた世界に古くからある、マンカラカラハっていうゲームなの。
1つのポケットに4つずつ石を入れて、横に動かしていくんだよ。一番端の、大きなポケットに入れたら、もう1回動かせる。
先に自分の陣地から、石をなくせた方が勝ちだよ」
一通り説明をすると、ラッセルが「やってみたいです…!」と、目を輝かせて言ってくれた。
最初は慣れない手つきだった彼が、負けても負けても「もう1回!」と挑んでくるたびに、どんどん上手くなっていく。
そのうち「ぼくもやりたい!」「ぼくも!」と声が上がり、色んな子とかわるがわる対戦をした。
中には負けて不機嫌になる子もいたけど……。
「わたしに勝ったら、宝石ひとつあげるね」と言うと、やる気を出して「もう1回!」と挑んできた。
いつの間にか、子供たちが周りに増えていって、ついには、まだ保育園くらいの小さい子が、わたしの膝の上に乗ってきた。
「ねぇねぇ見て、これがぼくのお友達。お姉ちゃんは、こっち使っていいよ」
男の子が、布で作られたぬいぐるみのようなものを差し出してきた。わたしは苦笑いしながら、「このゲームが終わったら、遊ぼうね」と言った。
わたしが外れると、子供たち同士でマンカラをやり始めた。そこには、あの唯一女の子のアビーも混ざっていて、真剣にやり方を覚えようとしていた。
「おねいちゃーん、おなかすいたよーー」
男の子が、ぬいぐるみを操って喋り始めた。
わたしはそれに合わせて、借りたぬいぐるみを揺らしながら答えた。
「はーーい、パン、今焼けますからねーー。
生地をこねてーー、焼いてーー、はーーいできあがかり!!」
「わーーい、いただきまーーす!!」
そんな平和な会話をしていると、お腹がぐうっと鳴ってきた。
ハーシーに食べさせてもらったパン、美味しかったな……あの時も腹ぺこで、恥ずかしげもなく、あーんして食べさせてもらったっけ。
「これは……全部おれのだ」
わたしの言葉に、男の子は目を丸くした。
「でも、口を開けていたら……間違って、入るかもしれない」
すると男の子も「あーーん!!」と大きい口を開けて見せた。
「……何をしている」
わたしが、エアーでちぎったパンを口に入れようとしたところに、誰かが声をかけてきた。
「帰るぞ」
その声の方へ、わたしは顔を向けなかった。
あの時を再現してたのを見られてしまって……恥ずかしさでいっぱいだった。
「……今日が、最後なので。もう少し、お話させてください」
「えっ!?おねいちゃん、ここに来るの最後なの!?」
男の子の言葉に、みんながこちらを向いた。
「どうして、さいごなの……?
ずっとここでくらせばいいのに」
「ハーシーとけっこんすれば、ずっとここにいられるんじゃない?」
周りにいる子供たちから、そんな言葉をかけられて、わたしは苦笑いするしかなかった。
「……お前たちも、もう遅いぞ。早く寝なさい」
小さい子供たちは「はーい」と返事して、ハーシーに抱きついた。彼は、ぎゅうっと抱きしめてきた子の頭にキスをした。
「ハーシー様、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
ハーシーは、穏やかな声だった。
それはいつか、わたしにもやってくれた仕草……そうか。あの時ハーシーは、彼らに対する気持ちと同じ気持ちで、わたしにもやったんだろう。
部屋の隅でうつむいているわたしに、一人の子がまた近づいてきた。それは、赤毛でそばかす顔のアビーだった。
「これ……もらってもいい?」
おそるおそる言う彼女に、わたしは「もちろん、あげるつもりで作ったんだよ」と笑いかけた。
「……ありがとう。あなたに勝てるように、がんばってみるわ」
「うん。でももう明日には、ここを出ていくから……みんなで仲良く遊んでね。
あなたが訓練しているところ見たよ、とてもかっこよかった」
わたしの言葉に、アビーの凪いだ瞳が、少しだけ揺れたような気がした。
彼女は何かを言おうとしたけど、飲み込んで、くるりと背を向けて食堂から出ていった。
わたしが後ろを振り向くと、そこにハーシーの姿はなかった。




