25.台車作り
わたしは護衛士館に行き、台車づくりを始めた。
大工用具を借りて、木材を集め、頭の中にある設計図を、なんとか再現しようと思った。
イメージは、スーパーなどのお店で使われているお買い物カートだ。運ぶ時はガタガタと揺れても、水樽が倒れることがないように作りたい。
でも、そのイメージを共有することが難しくて、デイヴィスとラッセルには「そこでゆっくり見ててください!」と言って、手を貸してもらわなかった。
でも気になったのか、すぐ近くで訓練している護衛士さんが、まわりに集まってきてしまった。
ハーシーが買ってくれた綺麗なワンピースを着て、片足で板を押さえ、のこぎりで板を切るわたしの姿を、みんな苦笑いして見ていた。
「あんた、切るのは上手いけど……それじゃあ日が暮れるぜ」
ひとりの護衛士さんが、わたしの持ってるのこぎりを問答無用で奪うと、ものすごい勢いで板を切り落としてくれた。
「どんなのを作ろうとしてるんだ?」
「えっと……説明が難しいんですけど……」
わたしは近くの木に落ちている枝を拾って、地面に絵を描いた。
みんな輪になって、わたしの周りに集まってきてくれた。
「ここは、固定した方がいいんじゃないか?」
「子供が載せるには、台が高すぎるだろう」
みんな真剣にアドバイスしてくれて、何もお願いしていないのに、手伝ってくれた。
木に釘を打ち付けるのは、実に何年ぶりだろう。中学校の時に、技術で椅子を作ったから、10年ぶりくらいだろうか。
あれよあれよと、ほとんど護衛士さんたちの力で、台車が完成してしまった。
「す、すごい……!!ありがとうございます!!」
「いやいや、あんたの発想のおかげだよ」
わたしが頭を下げると、みんな謙虚に笑った。
ラッセルは目を輝かせて、「押してみてもいいですか……?」と聞いてきた。
「もちろん!ラッセルが使うために作ったんだよ」
「あ、ありがとうございます……!!」
彼は泣きそうな顔で、カートを押してみた。するとうまく車輪が動いて、非力な彼の力でも、重たいものを運べそうだった。
「これで、花壇にたくさん水が運べます……!!」
「その前に、仕事で使えよ」
デイヴィスの言葉に、みんな「その通りだ」と笑った。みんなが快く手を貸してくれたのは、ラッセルのためだと分かっていたからなのかな。
彼はその台車を押しながら「みんなに見せてきます……!」と言って、厨房の方へ行ってしまった。
わたしはもうひとつ見つけた木材をとって、デイヴィスに尋ねた。
「あの……彫刻刀ってありますか?」
「あぁ、あると思うが……まだなにか、作りたいのか?」
「はい」
わたしは彫刻刀を借りると、ちょうどいい大きさに切った板に、傷をつけて印を書いた。
木の中にいくつもの、器のような穴を開けたくて、ひたすらに彫刻刀で掘った。
これも、力が弱くてなかなか掘れないわたしを見かねて、護衛士さんたちが代わる代わる、板を回して掘ってくれた。
「あんた……服に、木屑がいっぱいついてるぞ」
護衛士さんに言われて、わたしははっとして、木屑を叩き落とした。
「大事にしろよ。せっかく団長に買ってもらったんだろ?」
「はい……すみません」
「あの団長がなぁ。女に贈り物をしてるとこなんか、見たことないけどなぁ」
その言葉に、わたしは苦笑いをした。
「着のみ着のままだったので……気を遣われたんだと思います」
「いや、それにしてもだよ……まるで、貴族のお嬢さんみたいだ」
「ほら、あんた、あれなんだろ?
伝説の聖女様っていう……」
「そうみたいですけど……まったく自覚は無いんです。ただ、それで命は狙われましたけど……」
わたしの言葉に、年配の護衛士さんが唸った。
「寝込みを襲われたんだろう?よく無事だったなぁ」
「はい……団長が戦って、助けてくれました」
「ということは、やっぱり夜は……」
そう言いかけた護衛士さんが、口を噤んだ。
彼がデイヴィスを見ていたので、わたしもその視線を追うと、横に首を振っていた。
「無用な詮索は、するなと言われただろう」
「あぁ……すまん」
彼は後ろ頭をかいて「そろそろ訓練に戻るか~!」と、わざとらしく離れていった。すると他の護衛士さんたちも、流れるように挨拶をして去っていってしまった。
「……すみません、なんだか、皆さんに気を遣わせてしまって」
デイヴィスは、彫刻刀を器用に使いながら、穏やかな声で言った。
「……あなたが来てから、みんな興味津々で知りたがってる。
なかには、色めき立っている者もいる……だから団長は、なるべく団長室から、あなたを出したくなかったんだろう」
えっ?デイヴィスは、何を言ってるんだろう……ちょっと、言ってる意味が分からない。
「だが、安心しなさい……その服も、あなたにかかっている守護魔法も、あいつの気持ちが見えるから、誰も手を出しはしない」
「ちょっ、ちょっと待ってください……わたしに、なにか魔法がかかってるんですか!?」
「あぁ。魔力のない俺でもわかる……あなたの肌に誰か触れようものなら、すぐあいつが目を覚まして飛んでくるだろう」
「あっ……なるほど。でもそれは、命を狙われたからですよね。だってハーシー、言ってましたもん。
わたしがもし攫われて、聖女の力を悪用されるなら……自分は敵になるって。
そんな事態を避けるための、防衛策だと思います」
するとデイヴィスは、ちらっとこちらを見て言った。見た目もだけど、何か言いたいことがあるときの仕草も、義父そっくりだ。
そして、その言いたいことをあえて口にせず、飲み込んでしまうところも。
沈黙が続いてしまって、気まずくなった。
わたしは何を話題にしようか、必死に考えて、言葉を押し出した。
「……あの、デイヴィスさんは、ご結婚されていますか?」
その瞬間、びっくりしたデイヴィスは、彫刻刀で自分の 指を切ってしまった。




