表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/51

25.台車作り

 わたしは護衛士館に行き、台車づくりを始めた。

 大工用具を借りて、木材を集め、頭の中にある設計図を、なんとか再現しようと思った。


 イメージは、スーパーなどのお店で使われているお買い物カートだ。運ぶ時はガタガタと揺れても、水樽が倒れることがないように作りたい。


 でも、そのイメージを共有することが難しくて、デイヴィスとラッセルには「そこでゆっくり見ててください!」と言って、手を貸してもらわなかった。


 でも気になったのか、すぐ近くで訓練している護衛士さんが、まわりに集まってきてしまった。


 ハーシーが買ってくれた綺麗なワンピースを着て、片足で板を押さえ、のこぎりで板を切るわたしの姿を、みんな苦笑いして見ていた。


「あんた、切るのは上手いけど……それじゃあ日が暮れるぜ」


 ひとりの護衛士さんが、わたしの持ってるのこぎりを問答無用で奪うと、ものすごい勢いで板を切り落としてくれた。


「どんなのを作ろうとしてるんだ?」

「えっと……説明が難しいんですけど……」


 わたしは近くの木に落ちている枝を拾って、地面に絵を描いた。

 みんな輪になって、わたしの周りに集まってきてくれた。


「ここは、固定した方がいいんじゃないか?」

「子供が載せるには、台が高すぎるだろう」


 みんな真剣にアドバイスしてくれて、何もお願いしていないのに、手伝ってくれた。

 木に釘を打ち付けるのは、実に何年ぶりだろう。中学校の時に、技術で椅子を作ったから、10年ぶりくらいだろうか。


 あれよあれよと、ほとんど護衛士さんたちの力で、台車が完成してしまった。


「す、すごい……!!ありがとうございます!!」

「いやいや、あんたの発想のおかげだよ」


 わたしが頭を下げると、みんな謙虚に笑った。

 ラッセルは目を輝かせて、「押してみてもいいですか……?」と聞いてきた。


「もちろん!ラッセルが使うために作ったんだよ」

「あ、ありがとうございます……!!」


 彼は泣きそうな顔で、カートを押してみた。するとうまく車輪が動いて、非力な彼の力でも、重たいものを運べそうだった。


「これで、花壇にたくさん水が運べます……!!」

「その前に、仕事で使えよ」


 デイヴィスの言葉に、みんな「その通りだ」と笑った。みんなが快く手を貸してくれたのは、ラッセルのためだと分かっていたからなのかな。


 彼はその台車を押しながら「みんなに見せてきます……!」と言って、厨房の方へ行ってしまった。



 わたしはもうひとつ見つけた木材をとって、デイヴィスに尋ねた。


「あの……彫刻刀ってありますか?」

「あぁ、あると思うが……まだなにか、作りたいのか?」

「はい」


 わたしは彫刻刀を借りると、ちょうどいい大きさに切った板に、傷をつけて印を書いた。

 木の中にいくつもの、器のような穴を開けたくて、ひたすらに彫刻刀で掘った。


 これも、力が弱くてなかなか掘れないわたしを見かねて、護衛士さんたちが代わる代わる、板を回して掘ってくれた。


「あんた……服に、木屑がいっぱいついてるぞ」


 護衛士さんに言われて、わたしははっとして、木屑を叩き落とした。


「大事にしろよ。せっかく団長に買ってもらったんだろ?」

「はい……すみません」

「あの団長がなぁ。女に贈り物をしてるとこなんか、見たことないけどなぁ」


 その言葉に、わたしは苦笑いをした。


「着のみ着のままだったので……気を遣われたんだと思います」

「いや、それにしてもだよ……まるで、貴族のお嬢さんみたいだ」

「ほら、あんた、あれなんだろ?

 伝説の聖女様っていう……」

「そうみたいですけど……まったく自覚は無いんです。ただ、それで命は狙われましたけど……」


 わたしの言葉に、年配の護衛士さんが唸った。


「寝込みを襲われたんだろう?よく無事だったなぁ」

「はい……団長が戦って、助けてくれました」

「ということは、やっぱり夜は……」


 そう言いかけた護衛士さんが、口を噤んだ。

 彼がデイヴィスを見ていたので、わたしもその視線を追うと、横に首を振っていた。


「無用な詮索は、するなと言われただろう」

「あぁ……すまん」


 彼は後ろ頭をかいて「そろそろ訓練に戻るか~!」と、わざとらしく離れていった。すると他の護衛士さんたちも、流れるように挨拶をして去っていってしまった。


「……すみません、なんだか、皆さんに気を遣わせてしまって」


 デイヴィスは、彫刻刀を器用に使いながら、穏やかな声で言った。


「……あなたが来てから、みんな興味津々で知りたがってる。

 なかには、色めき立っている者もいる……だから団長は、なるべく団長室から、あなたを出したくなかったんだろう」


 えっ?デイヴィスは、何を言ってるんだろう……ちょっと、言ってる意味が分からない。


「だが、安心しなさい……その服も、あなたにかかっている守護魔法も、あいつの気持ちが見えるから、誰も手を出しはしない」


「ちょっ、ちょっと待ってください……わたしに、なにか魔法がかかってるんですか!?」


「あぁ。魔力のない俺でもわかる……あなたの肌に誰か触れようものなら、すぐあいつが目を覚まして飛んでくるだろう」


「あっ……なるほど。でもそれは、命を狙われたからですよね。だってハーシー、言ってましたもん。

 わたしがもし攫われて、聖女の力を悪用されるなら……自分は敵になるって。

 そんな事態を避けるための、防衛策だと思います」


 するとデイヴィスは、ちらっとこちらを見て言った。見た目もだけど、何か言いたいことがあるときの仕草も、義父そっくりだ。


 そして、その言いたいことをあえて口にせず、飲み込んでしまうところも。


 沈黙が続いてしまって、気まずくなった。

 わたしは何を話題にしようか、必死に考えて、言葉を押し出した。


「……あの、デイヴィスさんは、ご結婚されていますか?」


 その瞬間、びっくりしたデイヴィスは、彫刻刀で自分の 指を切ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ