22.護衛
目を覚ました時、私の周りには、たくさんの人がいた。
すぐ近くにいたのは、メリッサだった。彼女は、綺麗な緑の瞳を濡らしていた。
わたしは、ベッドに寝かされているらしい。あまり、体の感覚がない……意識を失った時に感じた、あの背中の痛みもない。
わたしと目が合ったメリッサは、声を上げた。
「……フィオ様が、目を覚まされました!」
するとハーシーや先輩、ほかの護衛士さんたちも、いっせいに顔を覗いてきた。
「良かった……顔色が戻ったな」
「あぁ、薬が効いたんだ」
「ひよ……怖い思いしたな。もう離れないからな!」
先輩が、覆い被さるように、抱きしめてきた。
「のど……かわいた…… 」
その言葉に、メリッサが「どいてください、お水を飲ませます」と言った。先輩は「辛辣だなぁ……」と苦笑いしながら、わたしの体から離れた。
ハーシーが、体の下に、手を滑り込ませてきた。
そうしてゆっくり抱き起こしてくれると、阿吽の呼吸で、メリッサがわたしの口に水差しをつけた。
こく、こく、と喉を鳴らしながら、水を飲んだ。喉が潤うと、ふうっと息を吐いて、体の力が抜けた。
「……一日中、ずっと熱で寝こんでいたんだ。
しばらく体も動かないだろう」
ハーシーは、優しくベッドの上に寝かせてくれた。
そうして掛物をすると、他の護衛士たちに言った。
「アパト、マスルは、この屋敷全体の警備を頼む。デイヴィスは、部屋の護衛。ハルマサは、おれと一緒に来い」
「いや。おれはもう、ひよの傍から離れねぇよ」
そう言った先輩は、ハーシーを睨んでいた。
「護衛するって言って……結局ここまでの大怪我させて。もうおれに指図してくるな」
「ちがっ……」
わたしが口を挟もうとした時、唾が気管に入って、咳き込んでしまった。わたしは半身を起こして咳き込むと、メリッサに「無理しないで。背中の傷が開きますよ」と言われた。
「……襲ってきたやつらの身元は、まだ分かっていない。だが、貴族たちに聖女の存在を明かしたことで、さっそく襲ってきた。
聖女お披露目まで、あと2日……それまでに、躍起になって、ひよを奪いにくるだろう」
ハーシーの言葉に、先輩は眉をはね上げた。
「ひよを奪いに?命を狙われたんじゃないのか」
「奴らは、おれを殺そうとはしたが、ひよのことは連れ去ろうとしていた。狙いは……聖女をさらうことだ。さらって、どうしたいのかは知らないが……とにかく、奪われるわけにはいかない」
ハーシーの言葉に、わたしは、あの戦闘を思い出した。いきなり窓が割られ、数人の男に襲われ……これからまた、あんなことが突然起こるんだろうか。
「ハルマサは、この屋敷に初めて来ただろう。いざという時、逃げ道が分からないだろうから、案内しておくだけだ。あとは好きにしてくれたらいい」
「わかった。それなら、案内してもらおう」
わたしは、傍から離れようとした先輩に「待って!」と言って、引きとめた。彼は兄のような、優しい表情で、わたしの顔をのぞきこんできた。
「どうした?」
「……帰りたい……」
わたしは、先輩の袖を掴んだ。
「わたしたちを召喚した人を、早く見つけて……元の世界に、戻してもらいたい。
命を狙われてまで……ここにいたくない……」
子供のように泣くわたしに、先輩は手を握ってくれた。
「大丈夫。召喚したやつを見つけて、必ずボコボコにするからね」
「やり返されないといいな」
ハーシーの冷たい言葉に、先輩はギロッとにらんだ。だけどハーシーは、わたしの寝ているベッドの横で、膝をついた。
「……今回は、おれが未熟なせいで怪我をおわせてしまい、本当に申し訳なかった。
これからは、おれたち護衛士団が、命をかけて守る。あんたに、刃を届かせない」
「……嫌です」
その言葉に、ハーシーは目を見開いた。
わたしは、嗚咽の中で、言葉を押し出すように言った。
「みなさんが、わたしに、命をかけたところで……なにも、お返しできるものは、ありません……。
ましてや、赤の他人です……ここにいて迷惑をかけるのなら、わたしが、ここを出ていきます」
「……出ていって、どうするつもりだ」
ハーシーが、怒ったような口調で言ってきた。
「わたしを、召喚した人を探します……そしてその人に、元の世界に帰してもらうよう、頼みます。もう、あんな思いをするのは……」
「……ひよ、まだ寝てないとダメだ!」
起き上がろうとするわたしを、先輩は押さえ込むようにして止めた。
「正直、あの惨状を見たら……襲ってきたやつらの本気度がわかる。おれ一人で、あれを撃退するのは無理だった。
癪だけど、ここにいるのが安全だ……召喚者が見つかるまで、怪我が治るまでは、ここで守ってもらおう」
「嫌です……」
わたしの物分かりの悪さに、怒りが湧いたのだろう。ハーシーが声を荒らげた。
「いい加減にしろ!
あんたは何も考えず、黙って守られてればいいんだ!なぜそんなに意固地になる必要があるんだ!」
その言葉に、わたしは唇を噛んで、掛け物の中に潜り込んだ。
こんな時まで……怒らなくていいじゃん。
「あーあ」
その時、アパトが口を開いた。
「弱ってるのに、怒っちゃったらだめだよねぇ」
「ハーシーらしくないな。なんでお前、フィオさんにだけ、そんな冷たく当たるんだ」
デイヴィスも、口を揃えた。
するとメリッサの「言い方の問題ですよね」という声も聞こえた。
「お前、この部屋に立ち入り禁止な」
先輩の言葉が追い打ちをかけたのか、ハーシーは何も言わずに部屋を出ていってしまった。




