[20]-刀の傷-
「ねぇ〜ここに来るの2回目なんですけど〜」
「はいはい。文句言わないの〜」
保健室の匂いは嫌いだ。なんて言うか...その〜.....なんか嫌い!
「ぃいっったぁ!一言ぐらい言葉かけてよ!」
「消毒ぐらい我慢しなさ〜い?子供じゃないんだから」
回復魔法があれば手当て必要なくないかって?そりゃあるさ。なんてったって回復魔法はこの世の魔法の中で1、2を争うくらいに難しいから。
いや普通に考えて欲しいんだけど、腕一本まるまる生やすなんてイメージできる?どんな骨があって、筋肉はどう繋がってて、神経はどうなってて、どこに血管が通っているのか。全て暗記してイメージとして起こさなきゃいけない。ベテラン医師以外のほとんどの医者は解剖学の本片手に傷を癒すくらいだ。
それに体の負担も馬鹿にならない。治すための素材は全て自分の体内から賄われる。下位の回復魔法の場合も、体の活性を無理やり働かせて傷を癒させる手法を取ってるから緊急時以外ではあまり使えたものではない。
例外はあるにはあるんだけど...まぁいっか。どうせ私は使えないし
「でも軽傷で済んで良かったわね〜。命があるだけでも奇跡なのよ?」
「まぁ何とかって感じですね」
扉の勢いよく開く音が静かな保健室全体に響き渡る。
「香蓮ちゃん!大丈夫!?」
ぼさぼさの髪を振り分け、汗を拭う楓。
「落ち着いて、私は大丈夫。」
「ふあ〜〜良かったぁ〜。香蓮ちゃん、急に真っ黒いもんに包まれよったからちょー心配やったんよ〜」
「あー...うん。心配してくれてありがとう」
なんか少し罪悪感...
「お相手さんは?」
「刀花は今寝てるよ。あの対戦で疲れちゃったみたい」
「そっか〜やけど生きてるんやったら良かったわ〜」
「いや、流石に殺さないよ」
「分からへんやん?勢い余ってズドーーン!って」
「しない!もーまったく.....」
布が擦れる音が耳に入る
「ここ...は......?」
寝ぼけているのか、記憶が無くなったのか不安になる。が、幸い答えはすぐにわかった。
「...っ!! ご、ごめんなさい!」
起きて早々そういう彼女、もといい白刃 刀花。とりあえず元気そうで一安心だ。
「顔を上げて、刀花。謝る必要は無いよ」
「でも......」
「それに、こういう時は"ありがとう"でしょ?」
にこりと笑ってみせる。すると、彼女も微笑んで
「そうね。ありがとう香蓮」
と言った。
「それで問題はあの刀なんだけど....」
「『妖刀』っちゅうやつ?」
「そう。私の魔法の有効時間は丸1日だからそれまでに何とかしたいよね.....今まではどうやって力を抑えてたの?」
「鞘に魔法を抑えるエンチャントが施されていてそれで何とか防いでたのだけれど、最近ではガタが来ていたのよね」
「う〜ん...うちのお姉ちゃんならなんとかしてくれるかもしれへん」
「マジ?!」
◇
-2年生、魔工科棟-
「千夏姉〜。助けてくれへん?」
慣れたように呼ぶ楓
「ん〜どしたん?またなんか壊したんか?楓」
千夏と呼ばれたその女性は楓とよく似ているが、どことなく大人っぽくて、かっこよささえ感じさせてくるような容姿だ。
「ちゃうよ〜。今日はとびっきりのお客さん連れてきたで」
お姉さんがこちらに目をやる
「初めまして。乙葉香蓮です」
「白刃刀花よ」
「楓の姉の柊千夏や。ほんで?要件は」
「これなんですけど......」
鞘に納まった妖刀を差し出す。
「妖刀『心滅』やないか!まさかお目にかかれる時が来るなんて......やっぱええ出来やなぁ」
へへんっ!作るの苦労したんだからねっ
「この刀の魔法を抑える新しい鞘を作ってくれないかしら」
「なるほどなー.....いくら出せる?」
「え........」
一瞬場が凍る。私発端じゃないことに謎の安堵感を覚えた。
そのすぐ後に響くものは大きな笑い声であった。
「ハハハハハ、そんな顔せんといてや。冗談やって。可愛い妹の連れの頼みやったら、喜んで引き受けるで」
「も〜みんなを驚かさんといてーや」
和やかな空気が部屋を満たし、緊張が一気に和らぐ。
「せやけど、ちょっと時間かかるかもしれへんな」
「少しってどれくらい...ですか?」
「う〜ん......まあ、ざっと5日ぐらい?」
それは困る。今日は大丈夫として4日間魂の声と戦うのは、ずっと耐えてきた刀花にも至難の技であろう。
察してくれたのか楓が言葉を紡ぐ
「う〜ん、何とかならへん?」
「そーやな……うちの〖祝福〗使えばいけんこともないか」
「え、〖祝福〗?」
〖祝福〗とは前も話した通り魔物がごくたまに保有しているもの....てことは千夏さんは魔物....?いや違う。魔物はダンジョン内でしか生息できない。となると....
「そうか言うてへんかったか。うち実はエルフの〘 テーラス〙なんやで。どうや?すごいやろ」
〘 テーラス〙。超簡単に言うと獣人。でも実際に先祖が獣と交わった訳ではない。
大魔王の死の直後、膨大な魔力が世界全体を覆った。それに曝露した人は遺伝子の内容が書き換えられ、魔獣や魔物の特徴を持った者が現れたと中学生の頃教わった。...なんか、ごめん
書き換えられた遺伝子は、大体が顕性遺伝らしいので今の人口全体の約8割は〘 テーラス〙なんだとか
もちろん〘 テーラス〙だからといって全員が〖祝福〗を持っている訳ではない。千夏さんの例は極めて稀だ。
「なるほど......」
「やからうちの〖祝福〗、〖魔法積重〗使えば突貫的には何とかなるかもしれへん」
「お願いしていいですか?」
「任せときや。完璧に仕上げたるで」
何とか刀の問題は解決しそうだ。ふう次は.....って先生との対戦ってもうそろそろじゃね?やっば全然対策考えてなかった。どうしよう.........
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『色々問題もありましたが次の対戦に行ってまいりましょう!』
困惑の空気が漂っていたコロッセオにところに活気が戻る。
『対戦するのは!常勝不敗のあの男ー!十冠第5位ィ氷村 彰人ぉぉぉお!』
歓声が湧く。気分は最高潮だ
『対する相手は〜?.....』
対戦表を見て多少の嫌悪感を示す司会者。残念な気持ちをあらわにしながらも空元気でその名を口にする
『Fランク、月夜 輝だーー』




