[11]-第⬛︎階層-
「.......へ?つまりどういうこと?」
戸惑いを隠せずにいる楓。無理もないだろう。私だって理解が追いついていない
「多分、落下の衝撃が大きすぎて別のダンジョンに足を踏み入れちゃったって感じ?...しかもかなり高難度地帯の」
状況整理に時間を割いていると魔力探知になにかが引っかかった。それも大量に。距離は....10メートル?いや10メートルって目視できるじゃん.......まさか
「構えて!」
「?どしたん?何もいないやん」
「ハイドウルフ...っていえばわかる?」
「それって推定危険度10の?せやけどそれって10階層以降にしか.....」
「今いるのがそうかもしれないじゃない....しかも大量にいるの」
「....もしかしてピンチってやつ?」
「ふっ......かもね」
冷や汗を拭いながらその現状に思わず笑みがこぼれる。世界を揺るがした大魔王がピンチだって。人の目があるからではあるんだけど笑える冗談だ
魔力探知の魔法陣を目に刻む。これは「五感化」っていうテクニックで、常時発動になって魔法の性能が強化される。けど魔力消費が増えて、その部位に馬鹿にならないダメージが入る。けど仕方ない。これは非常事態だから
左目に魔法陣を埋め込む。するとさっきまで探知にかかる点しか見えなかった狼の群れがくっきりと視えてくる。予想どうりハイドウルフだ。四方八方を取り囲んでいて逃がす気は無さそうだ
群れの1匹が飛び出してきた。それを氷で何とか防御する。それに続いて各方面から突っ込んでくる狼たち。防御しながら反撃をするが、狼の攻撃は止む気配がない
「う〜ん...ジリ貧だね」
「うちに感覚共有してくれんか?」
「え、いいの?でも危険じゃ...」
感覚共有魔法は読んで字のごとく感覚を共有する魔法だ。楓は私の視覚情報を使いたいのだろう。しかし痛覚などの情報も一緒に共有してしまうから割と危険な魔法なのだ
「親友1人に全部背負い込ませるほどうちは落ちぶれてへんよ」
「楓....... わかった、共有するね」
「よしゃっ!やったるでぇ〜!!」
二人でハイドウルフを殲滅していく。さっきと比べて効率は2倍!...だけどいくら倒してもウジのように湧いてくる狼。倒した数はいよいよ3桁になるところまできていた
「キリがない.....」
「どないする?」
辺りを見回す。続く道は1本だけ。嫌な予感しかしないけど...背に腹はかえられん
「ついてきて」
「ついてきてって行くとこなんかあらへんよ?」
きょとんとする彼女に私はニコッと笑い
「道はね、自分で切り開くものなの」
そう言って杖を構え、いつもより大きい魔法陣を展開する。暗い洞窟を照らす青白い光。淡く、しかし力強く輝いている。十分に魔力を圧縮したあと私は言葉を発する
「『フロスト・ブラスト』!!」
その言葉に魔法陣が応えるように輝いた。凍えるほど冷たい衝撃波が勢いよく飛んでいき、前方の見える範囲の狼を全て凍らせる。辺りには冷気が立ち込め、目の前のありえない光景が現実のものであることを物語っていた。
「行くよっ!」
戸惑いを隠しきれていない楓の腕を引っ張り、狼の氷像の山を蹴散らしながらもの凄い速さで凍った地面を駆け抜ける。その間も後ろからは大量の狼が押し寄せてくるがその影はだんだんと小さくなって消えていく──────
少し走ると広いところに出た。...どうやら私の予感は的中しちゃったようだ。目の前には見上げるほど大きい二足で立つ狼が1匹。
「エンシェントウルフ.....」
その気迫に思わず1歩後ずさる。推定危険度17のカイブツ。歴史にいくつも名を刻むほどの強敵だ。そんな怪物が今、目の前に静かに唸っている。
「ここに来たのは如何様か。我を倒しに来たのか? こんな小娘ふたりが?」
目の前の狼が嘲笑する。小馬鹿にはしているがその間も隙なんてものは見せてくれない。コイツ、相当な手練れっぽいね.....
「逃がすつもりは無い。逃がす理由もない。...さあ、かかってこい!」
狼が腰を落とし、構えの姿勢をとる。
「やるしかないみたいだね」
杖を構え、軽く1発魔法を放つ。しかし、その攻撃は狼の持つ鋼鉄のような体毛に弾かれた。
「何だこの程度か?」
「かれんちゃん...これやばいんちゃう?」
汗が額を伝う。だいぶ手加減して打ったけどまさかここまでとは... ちょっとは傷つけられるかなと思って打った魔法のダメージはもちろん0。
「やばい...かもね」
思わずそんな弱音が元大魔王から漏れる。本気を出せばこんなやつもちろん一瞬で消し炭にできる。だけど今は状況が状況だ。本気なんか出したら私の青春も一緒におじゃんになっちゃう。さてどうしたものか.....そう思っていると
「な〜に一人で悩んどん?うちも仲間にいれてや」
「でも敵は...」
「ここにおるんはAランク10位と8位やで?それに」
「....それに?」
一呼吸置いてから楓は確信づいたように話す
「うちら親友がタッグ組んだらなんでもできる! そう思わへん?」
「楓.....」
一抹の不安が綺麗さっぱり拭い取られたような気がした。
「そうだね!私たちなら大丈夫!一緒にここから出よう!」
「覚悟は決まったか?」
狼が待ちくたびれた声で言う
「ええ!次はあなたが覚悟を決める番よ!」
今度は私が確信づいた言葉を力強く放つ。
「倒される覚悟はできた?」
「面白い、やれるものならやってみろ!」




