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三題噺もどき4

面倒事

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくななじゅうきゅう。

 




 空の端は、少しずつ橙に染まり始めている。

 水彩絵の具で描いたような、青と橙の交わるところは、いつ見ても美しい。

 滲む別の色が新しい色を作り出し、気づけば空は黒になる。

「……」

 ベランダに出て、今日も目覚めの一服をしている。

 煙草もいい値段をするので、吸う量が減ったのはいいことなのかもしれない。なんだかんだ言って、この朝の一本だけだからな。昔は仕事中も吸っていたりしたんだけど……気づけば吸わなくなっていた。これは、禁煙も夢ではないのかもしれない。

 まぁ、それは来年するので、今年は夢のまた夢だ。

「……」

 眼下に広がる住宅街を走る道路を、車が通り過ぎる。

 通学路でもあるから、この辺を走る車はそれなりのスピードで走っている。誰もかれも、事故に巻き込まれたり巻き込んだりするのは嫌だろうからな。

 テレビなんかでは、そういう事故のニュースが最近は後を絶たないが……物騒な世の中になったものだ。

「……」

 そんなことはつゆ知らず。

 今日も賑やかに、毎日がお祭り騒ぎのように、元気に帰路を駆けていく子供たち。

 遊びに行った帰りなのだろうか。制服ではなく、半そでのシンプルなTシャツを身に纏い、サッカーボールを手に走っていった。

「……」

 最近は、外で遊ぶ子供の方が珍しいと聞くが、この辺りはそうでもないな。この時間でもこうしてよく走り回っている子供がいることが証拠だろう。確かに、近くには公園があるし、どうやら学校も開放しているようだし、遊ぶ場所には困らないのだろう。

 あぁ、そういう学校の事情とかは、子供たちの会話を聞いたり、このマンションの奥方なんかの話を小耳に挟んだりしてある程度推測をつけているだけだ。事実確認はしていない。

「……」

 この時間になれば、大人たちも歩いていたりする。

 スーツを身に纏い、カバンを片手に携帯で電話でもしながら歩いていたり、ラフな格好で、リュックサックを肩に背負い、携帯をいじりながら歩いていたり。

 すこし視線を外せば、ご老人たちが犬の散歩をしていたり、親子連れで散歩をしていたり。

 塀の上では猫が優雅に歩いていた。彼は家猫だろうか。首輪が見える。ときおり犬に吼えられているが、知らん顔で歩いている。

 この住宅街は、いつの時間でも賑やかでいい。

「……」

 まぁ、その中にいらぬ要素も居るのだけれど。

 ……相変わらず飽きもせずによくそこに立っているものだな。

 睨むだけ睨んで気が済んだら勝手に帰って。はた迷惑なものだ。

 回りの人間には認識されずらくなっているのか、少女が1人立ち尽くして明らかに一点を見上げて睨んでいても、誰一人として訝しげに見ている人はいない。

 それとも、気づいたうえで見てみぬふりをしているのか。

「……」

 初対面のあの日以降、ホントに何もしてこないから、訳が分からない。

 こちらからは、用も何もないので、手を出す事なんてしないのだけど。

 しかし心なし、やつれ始めたように見えるが。部活とやらに支障はないのだろうか……年齢は分からないが、部活動というのは学年によっては忙しかったりするんじゃないのか。

 知ったことではないが……。

「……」

 だがまぁ、これが、あの手紙の主がどうこうしているうえで、やつれているのなら少女がかわいそうで仕方がない。

 身内に巻き込まれた他人と、いわば同義だ。知らぬ一家のいざこざに勝手に巻き込まれて知らぬ間に憔悴して、気づけば死んでしまったなんて、どう言い訳したもんか。

 私がやっているわけでもないのに。

「……ふぅ」

 面倒だ。

 本当に面倒だ。

 どうしたものか。

「……、」

 一瞬溜息をついた隙に、さっさと背を向けて帰るあたり、何がしたいのか本当に分からない。

 何かしら起こしてくれた方がありがたいまである。何をどうしようにもまだ縁が薄いのだ。どうにもできまい。

「……はぁ」

 溜息をつくしかできない。

 面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いだと言うのに。

 心労を増やさないで欲しいものだ。

 さっさと解決しておかないとなぁ……面倒だ。





「……はぁ」

「……お疲れですね」

「いや、まぁ、大丈夫なんだが……」

「何かあってからじゃ遅いですからね」

「……分かってるよ」








 お題:お祭り・猫・水彩

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