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Angelworks  作者: miЯai
第一部
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EP4 現状

気分を害する可能性を含む内容があります。女性に向ける偏見や差別などに嫌悪感を抱く方はご注意ください。あくまで小説としての架空の設定ということをわきまえて読んでいただければ幸いです。

そこはどこにでもありそうで、一見、見落としてしまいそうなぐらい、普通に普通を重ねたような家だ。昔のこの国ならそうだったかも知れない。しかし、独り暮らし、ましてや女性が住んでいる家と聞けば、いささか贅沢なくらいなのだ。


そこには、布団に寝かされている小柄な“少女”が一人何かをするわけでもなく、ただ、静かに時を過ぎているのを感じている。


だいぶ落ち着きを取り戻したのか、少女が自ら身体を起こし、部屋の中をぐるぐると見渡していた。


――ここはどこだろう。


あまりの出来事に頭が追い付けず、気絶をしてしまっていて一瞬ここにどうして自分がいるのかわからずにいた。


徐々に頭が冴え、一人の女性に会ったことを思い出す。そしてたぶん、その女性が自分をここに運んで来たのだろうと適当に結論づけた。


いろんなものが揃っている。テレビ、冷蔵庫、エアコン、部屋の外からは洗濯機の回る音も聞こえる。さまざまな電化製品が稼動しているこの家はきっとあの女性以外にも誰かいるのだろうと、少年もとい、もと少女は考えた。


そしてさらに思い出す。今は、自分がどこにいるかなんてどうでもいい。なぜ、自分の姿が女になり、羽が生えていたのか……天使、ばかげている。


しかし、数刻前に感じたものが夢とも思えないし、現に少女には羽のようなものが生えている。今はあれが現実に感じたものだと考えざるしかない。


動かなかった身体はかなり自由に動くようになっているようで、ペタペタと自分の身体をさわり、確認をした。いや、確認するまでもなかったが、少年はもう少女になってしまっているのだ。


思い切って立ち上がってみた少女。背中に穴を開けた病院着を身につけている。おそらくこれもあの女性が手配したものだろう。しかし、その女性の姿が見当たらない。洗濯機が動いているようなので、家のどこかにはいるはずなのだが――。


ふと、少女は思う。自分は転生したのであれば、前の自分はどうなったのであろうと。あの時は頭を銃で打ち抜き即死したはずで――。


しかし、自分が目を覚ましていたのはあの路地裏であった。そこにはただ、自分が倒れていただけであり、死体のようなものはなかったかのように思われる。


とにかく少女の記憶は曖昧で、その場の様子をよく見れていなかったため、結論としてあの女性が帰ってくるまで待つことにした。


少女はただ待っているだけではつまらないと思い、部屋の中にある新聞に目を通す。


そして一つの記事を見て思ってしまった。生き返るのならなぜ男にならなかったのだろうかと。


《今日、日本全国の女性の生殖機能が消失されたのが厚生労働省により確認された。さまざまな科学者が原因を追求し、対策を謀ろうとしたが、何一つ成果が得られなかったと発表している。専門家は、女性の社会的地位にさらに大きな影響が出るとみられ――》



今からおよそ20年前に初めての症状が確認されたといわれている。とある20代女性が急に生理がこなくなったと病院に駆け寄ったのだ。その時医者はそういう病気もある、と言い前例にしたがった処置を行った。しかし、症状は治ることがなくその女性が愛する夫との子供を授かることはなかった。


ホルモンなどの異常とはまったく別物、そう明らかなったのはそれよりも二年も後の話だった。そして、それまでに日本全国で何人も発症者が増えていった。その時既に100人もが病状を訴えており、政府は遂に研究機関を設けた。


しかし、研究は一進一退、病状を訴えるものはいるが、子供を授かることが出来ない以外に症状は何も無かったため、何が原因でそんなことが起こるようになったのかまったく解析出来なかった。


さらに、発症者が現われてから5年、大人、成人女性だけではなく、年配の行かない少女にまでそのような症状が現れ始めた。


原因不明のまま、その進行速度はとどまることがなく、日本を覆い尽くしていったのだ。


それを危険視した外国の国々は、日本との外交を即刻打ち切り、日本からの入出国も禁止した。そして今の日本は逆鎖国状態になってしまったのである。

もちろん日本社会はどんどんと衰退の一途を辿っていき、日本滅亡の危機に瀕するほどにまでなってしまった。さらに子孫の繁栄が絶対的に不可能と判断した国民の多くが、勤労意欲を失ってしまっていったのである。


それによって始まったのが女性差別。一時の日本ではそんなものは倫理的観念に反しているとし、禁止され男女平等化が謀られていた。しかし、女性の生殖機能消滅により、日本の衰退原因は女性にあるものと考えるものが増えてきた。それが原因により、物理的力の弱い女性は男性に逆らうことが出来ず、肩身の狭い身へと再び成り下がってしまったのだ。


そういう男尊女卑思想を持つものはまだ極一部だったのだが、女性が力仕事の出来ないという点で働き口が少なくなっていったのは事実だった。今の日本ではコンピュータを使ったIT系統の仕事よりも、農業関連つまりは食料生産業の方が必要性が格段に上がっているのだ。


女性は用無し。そう世間が騒ぎたてていくことにより、女性に対する暴力、その中でも性的犯罪が増加していったのだが……治安維持団体もそこまで取り締まるようなこともしなくなり、挙げ句の果ては奴隷の様に扱う地方まで――人々が荒れ、日本の治安は過去最悪のものとなった。


逆に、生殖機能が失われなかった女性はというと、自分の子孫を残そうと必死になった男たちに一斉に憑りつかれる羽目にあうのである。どの道今の時代に女性の落ち着ける場所など存在しえないのであった。


しかし先刻ほど、どうやら日本最後の子孫を残すことの出来る女性がいなくなってしまったらしい。それは他の人々と同じようになんの前触れもなくその機能を失ったのか、はたまた群集と呼ばれるほどの男たちに言いよられストレスにより倒れてしまったのか――。


どうやら、それにより本当に女性の地位は日本での底辺まで低迷してしまったようだ。そんな、時代にこの少年――東雲真人は少女へと姿を変え、甦ったのである。


「なんだよ……最悪だ……もう……」


今の日本がどのような状況にあるか十分に理解していた真人は、自分の置かれている立場に嫌気がさした。


真人自体は女性に偏見の目を向けることはなかったが、自分が女性になったとなると話は別である。自身がどう思っていようと他人には関係ないのだ。


真人は力無く新聞を丸めた。もう、その記事が視線に入らないように。


布団に座り込み、自分に生えた羽を触りながら、自分はこれからどうすればいいのだろうと不安の中考えるのであった。

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