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Angelworks  作者: miЯai
第二部
41/44

EP39 手にした自由

更新遅くなりました。

もちろん未完結にはならないよう気をつけます。


一応整合性がとれず、矛盾している箇所の修正を行いました。

ほとんど最初のほうで微妙に変わった部分があるので、きちんと物語を理解されたい方は確認のほどをお願いします。


また、まだおかしな点がある場合はぜひ教えてくださるとありがたいです。質問でもかまいません。

どうぞこれからもAngelworksをよろしくお願いします。

佐花が静かになったのは夜遅くのことであった。


一時休憩を挟んだ榊が様子を見に部屋に入ると、そこには目元を真っ赤に腫らした彼女がいた。


泣いていたのかと初めて気が付く。ただ発狂していたのではない。自身のあまりに矮小な人生を憂いていたのだ。


佐花の頭脳は普通の人間より幾らか高等なものになっている。それゆえ、知識に貪欲だ。そんな自分が、普通の人間より、そこら辺にいる子供より、知らないことがあるなんて認められるわけがない。そんな現実は知りたくないのだ。


だが、榊はもう決定した。佐花を外に出すと。どうしようもないことを佐花も悟っていた。それから彼女はしばらくは静かに過ごしていた。まるで魂を吸われたかのように。荒れ散らした部屋も片付けようとはしなかった。


ただ、呆然とベッドの上で丸まっている佐花。それに榊は言葉を掛けようとはしなかった。そもそもの原因は自分にあるのだから、火に油を注ぐようなものだと思ったのだ。


皮肉なものだ。彼女の笑顔は、一番知るべきであった真実によって崩されたのだから。すべての知識が彼女を喜ばせてくれるわけではなかったのだ。


知らないほうがいいこともある。佐花はそれを学んだ。







「佐花お嬢様、準備は整いましたか?」


「……うん」


数日後、ついに第三段階の実験が始まることとなった佐花。すっかり落ち着きは取り戻したものの、その姿にはどこか擦れた感じがあった。


榊に連れられて外へと向かい歩いていく。初めて歩く廊下、初めて見る人たち、そして……初めて見る外、初めて見る太陽だった。


「まぶしい……」


佐花が外に出て初めて発した言葉だった。電気で作られた光とは比にならない明るさに些か怖気付いてしまう。知識では太陽と知ってはいるものの実際に見てみるとここまで明るいものなのかとその肌で感じ取る。


「佐花お嬢様、今は日焼けを抑えれるクリームを塗ってはおりますがあまり直射日光には当たらないようにお願いします。普通の人より肌が日に弱いので」


「……そうね、私は普通じゃないからね」


日傘を差しながら佐花は言った。それが皮肉だということは榊もわかったが、あえて言葉は返さなかった。


キョロキョロと至るところに視線を向けながら歩くあたりはまだ好奇心が薄れていないことなのだろう。それを見た榊は少し安心した。もしかすれば普通の生活をさせれば精神状態も良くなるかもしれない。


榊は神原製薬のビルから出て少し歩いたところに車を止めていた。佐花はそれを見て、そして手で触れる。


「これが車……」


「はい、これで新しい家に移動します」


「新しい家……ねぇ榊」


「はい、なんでございましょう」


「私、一人で暮らすの?」


「はい。しばらくは私がじきじきに検査に向かいますが、検査日以外は基本的に一人で生活していただくことになります」


「私料理出来ない、家事出来ない、なんにもしらない」


「それは違います。知識はあるでしょう?」


「今までしたことないことが初めてやってうまくいくと思う?」


「大丈夫です。お嬢様なら。あなたは特別な存在です」


「……」


そこからはいたちごっこになるとお互いわかり切っていた。気がつけばどちらからともなく会話は止まっていた。


二人は車に乗り込む。佐花はあたりを一通り触ったあと、すぐにおとなしくなった。静寂に包まれた車内でエンジン音だけが耳に入る。不快に感じた佐花はたまらず口を開いた。


「わかるでしょ。私もうひとりなんて嫌なの。何回私を騙すの。あの何も無い白い部屋から出て、私は人を知り会話をした……そしてなにより傷つくことを覚えた。なのに、なぜまた一人にするの。自由? 誰も助けてくれない世界に放りだされた人間を榊は自由だというの?」


「お嬢様の言うことはもっともです。ですが、私は世界を知らない人間もまたおろかだと思います」


「綺麗事よ、そんなの。私は耐えられない、こんな……こんな仕打ち……」


「お嬢様……」


それ以降佐花は口を開かず、俯いたままだった。なにを言っても無駄、自分はこれまでと同じように流されるだけの人生を送るだけなのだと悲観していた。


それほど、時間は経たないうちに目的地につく。そこはなんのへんてつもないアパートだった。





佐花はいきなりの独り暮らしを強いられた。定期的な検査に榊が赴くとき以外はすべてのことを自分でこなすことになるのだ。


料理、洗濯、買い物。嫌でも外に出た。いきなり知らない人間多くの人間に出くわすのだ。彼女は酷く怯えながらも生きるために耐えたのだ。本来何かを知ることは彼女を喜ばせるはずだった。しかしすべては逆効果に働くのだ。


それは佐花にとって精神をすり減らす日々だった。だが、それ以上に彼女を苦しめていたのは彼女自身の能力だ。榊に言われたとおり、知識さえあればうまくはできずとも大抵のことはできてしまったのだ。誰かを頼りたい気持ちを抱いてはいたものの、そんなことは無駄だと気づく。自分の精神と、能力が釣り合わないのだ。


無心で過ごす。なし崩しにことは進んでいく。榊は日々表情を失っていく佐花を見ては罪悪感を膨らませていく。お互いにいいことなど一切なかった。


そして極めつけの出来事は佐花が二十歳を迎えてから訪れる。第三段階は彼女が二十歳になるまでをめどに行われることになっていた。それは神原決めたことだ。もちろん榊もそれを認めた。なぜなら榊はその間に彼女は子供を産む力を失うと信じてやまなかったからだ。


だが、予想外の事態が起きたのだ。彼女に異常は起きなかった。


彼女が外の世界に出て、この国に住むその他の女性と変わりない暮らしをしていたにも関わらず、彼女は無事だったのだ。一切の狂いもなく、それはおよそ一月周期で訪れる。それが人間にとって正常だが、榊にとっては異常の他ならなかった。


「榊、佐花美咲の調子はどうだった?」


事実上、第三段階最終日である佐花の二十歳の誕生日。神原はいつものように榊に問うた。


背筋に汗を垂らしながらも、平静を装いながら榊は答えた。


「……彼女は――力を失いました」


「本当にか?」


「……はい」


「……そうか。ならいい。残念だ」


「――これが研究書です。それでは失礼させていただきます――」


神原は特に言及することなく、研究報告書を受け取るとそれに目を通し、ひらひらと手を振った。


榊は後悔した。嘘を付くならばもう少し早くするべきだった。もともとは自分の立場が上だったため神原は深く追求してこなかったが、誰がどう考えてもこの結果はおかしい。怪しまれても仕方が無い。


だが、もう引き返せない。ここで真実を言う選択は榊にはなかった。ばれようともばれずとも、佐花の開放される時間は延びるのだ。彼女を自由にすることが目的である榊はこれしか方法がなかった。


アパートに戻り、佐花に伝える。佐花は特に表情を変えることもなくそれを聞いていた。


「――よって、実験は終了です。佐花お嬢様。神原様からは今までの謝罪として、新居を与えてくださるそうです。これからはそちらに住んでいただくことができます。それでよろしいでしょうか」


「――うん」


もちろん、榊が嘘の報告書を提出したのは佐花にはわかっていた。しかしそれでも彼をとがめることはなかった。自分が本当の自由を手に入れたからか? 違う。もう、どうでもよかったからだ。このまま一人で生きようと、また研究施設に戻されようと、彼女にとっては大差がない。どちらかといえば自由のほうがいい。くらいの感情だった。


結果論として彼女を自由にすることはできた。だが、榊にとって彼女が異常を来たさないことが気がかりで仕方が無かった。もしかすると、自分のおもっていた以上に彼女は特別な存在なのではないだろうかと。ただ、自分たちの都合で特別に仕立て上げられたわけではなく、もっと根幹的に違う――。


だが、そんなことを考える暇は与えられなかった。数日後、神原は榊に言い渡す。


「榊。君はしばらく休憩だ。ずっとハードなスケジュールで大変だっただろう。心配しなくていい。佐花美咲は別の奴が監視に行く。ひょっとするとたまたま一ヶ月だけ調子が悪かっただけかもしれないからね。しばらくは一月二月くらいの間隔で僕たちが監視するよ。佐花美咲にも伝えておくよ」










「話は以上です。私たちのしてきたことがわかりましたでしょうか」


すべてを蔭山たちに話終えた榊。あまりにも突拍子も無い話に真宙は呆けていたが、蔭山は終始聞き逃すことなく真剣に聞いていた。それぐらいのことでは驚かなくなっていたからだ。蔭山はもっと異常な、ものを知っている。


そしてひとつ気になっていたことを榊に聞く。


「おい、貴様あなたたちのしなければいけないこと――だのどうだの言ってたな。それを聞かせてもらおうか」


「そうでした。危うく忘れてしまうところでした。いかんせん肩の荷が下りた所為でしょう……そうです。いまから話すことはとても重要なことなのです」


「それは誰にとってだ」


「この国にとってです」


一人の中年が国の未来を語ろうとするなど本来ならば笑い話だが、今は現実味がある。よからぬことが起きる予兆を少なくとも蔭山も感じているのだ。だから、子供のように急かす。「早く言え」と。


蔭山に応え、榊は再び語り始める。


「はい――今あなたたちがしなければならないことは


















 佐花美咲を殺すことです」

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