EP3 天使
まだまだ書き始めですが、感想を待っています。
――寒い……
少年がはじめに感じたのは温度だった。そこは薄暗い、あの路地裏であった。感じた冷たさはアスファルト。ゴツゴツした感触も久しぶりに感じられた。うつ伏せに倒れており、己の顔が地面と向き合っているのがわかった。
それだからこそ感じた違和感。地面と接している胸部に変な感触があることに気付く。しかし、自身で身体を起こすことはままならず、ただもぞもぞと動くだけであった。
そこへたまたまその姿を発見した一人の女性が少年へと駆け寄る。それはあまりに少年が異常に見えたからなのだが……
「だ、大丈夫?……あ、えっと……言葉とか通じますか?」
少年は何を言っているんだ、と疑問の念を抱いた。自分はどう見たって外国の人には見えないだろうと。意識確認のための語りかけだったのかもしれないが、少年にとってはどうでもいいことだった。なぜなら今は声が……
「……ぁ……!?」
出ないはずだった。だが、ダメ元で喉を震わせると現に擦れるような声が出ているではないか。少し潤いが足りない所為か思っているよりは高い声が出てしまったが、声が出るということに、喜びを感じていた。
「わかりますか!? あ、無理して声を出さなくても結構です。取り敢えず今から身体を起こしますから……」
と、自らの羽織っていたコートを少年の背中にかぶせ、お腹あたりに手を回す女性。上着を被せられたのはなぜだろうかと少年は考えたが、腹に当たる手の感触があまりにも温かかったため、自分が今、裸であることを認識した。
不良な奴らに身ぐるみを剥がれていったのかと思ったが、血塗れの服なぞ持っていってもなんの価値もないだろうに、と不思議がっていた。
少し羞恥心を覚えたが、身体を動かせないためどうしようもなく、ただされるがままであった。だからこそ、裸を隠すという気づかいは有難いものであった。
しかし、そこでとある事実に少年は気付く。身体を起こされたことにより確認できる己の身体。そこにあったのは雪のように白く華奢な手足であり、自らの記憶とは恐ろしく違っていた。
首をもう少し下に向けると、わずかながらに膨らんだ胸。それもまた見覚えのないものであり、少年の思考をオーバーフローさせていく。そして極め付けに下腹部にあったはずのものがなくなっている。
――え……なんだ?これ?なにが起こってる?
追い付かない思考の中で記憶を巡らせる。しかし、考えるだけ頭が痛くなっていくだけであった。
そこで女性はコートの前を閉めようとする。トレンチコートなので普通はそこまで手間取るようなことはあるはずないのだが、妙に時間をかけている。そして、妥協したかのように一度コートを脱がそうとする。
なぜだろう、と少年は思ったが、それはすぐに明らかなものとなる。コートを脱がされた瞬間に大きく広がった純白によって――
ばさっと大きな音をたて広がったそれが左右の視線の端から見えるのがわかった。そして理解する、自分の背中から生えているものであり、それがあるためにコートが上手く着られなかったのだと。
あまりに現実離れな光景に少し惚けていた女であったが、口から漏らすように呟やく。
「まるで――天使みたい――」
その言葉を聞き、ようやく自分のおかれている状況を理解する。これは全部あいつの仕業なんだろうと。
女の姿になり、さらに真っ白な羽が生えていることで、すっかり自分が真っ裸であることを忘れ、現実を受け止めきれないでいる少年であった。