EP34 箱入り娘
そこは、真っ白な部屋だった。
少女が覚えている、一番古い記憶がそこで目覚めたことだった。
そこには時折、全身を白い防護服に包んだ人間が入ってくる。
そして、少女に食べ物を与えていったり、服を着替えさせたり、身体を清潔に保たせたりする。
少女はそれが当たり前だと思っていたし、それ以上、生きていく中で変化があるとは思っていなかった。
ある周期で彼らは少女の身体を検査する。別に抵抗はしない。彼女にとって害ではないからだ。
ただ、退屈という感情はあった。少し進んだだけで壁にぶつかる。あるのは柔らかい布団とトイレとモニター。
モニターには人が映る。そこではおもに簡単な教育が始まるのだ。そうやって彼女は言葉や常識を覚えた。
ただ、実感はわかない。いろいろな言葉を覚えても、使うことはないし、この部屋にはそれを表す多くのものが無かった。
だから、ただ漠然と、ここ以外の世界があるんだろうなと思っていた。
ある日身体に異変が起こった。気がつくと下腹部から血が垂れていたのだ。
そのとき、少女の前に一人の男がやってきた。防護服はつけていなかった。
男は少女の服を脱がすとなにやら検査を始める。少女はただそれが終わるのを待つだけ。
やがてそれが終わると男はけらけらと笑いながら部屋を出て行った。
そのとき少女に向かって男は言った。
「成功だよ」
そのあとは防護服に身をまとった人が服を着替えさせ、いつも通り過ぎていくだけだった。
途方もない時間を過ごした。毎日、同じ白いだけの景色。気がつけば身体もかなり成長していた。
だがそれも終わりだった。防護服を脱いだ人物がいっぱい部屋に入ってくる。
「もういいだろう少し住む場所を変えよう」
そう言われると、少女は別の場所へと移動させられた。しかし、その際にも通ったのは無機質な壁の廊下。あまり変わり映えした景色ではなかった。
何分か歩くとある部屋の前につく。扉が開かれるとそこは煌びやかな内装だった。
「長年あんな部屋で退屈だっただろう。まだ外には出せないが、少しは気を楽にするといい」
少女は跳ねるように走り回る。いままで見たことのない景色に心が躍る。窓こそないもののやはりそこは少女にとって新しい世界だった。
「後は任せたぞ」
「はい」
一人の男が入ってくる。どうやら世話係のようだ。
少女にも一応言語能力はあるみたいで、その男に向かってこう言った。
「よろしくおねがいします」
男は申し訳なさそうな顔で返した。
「はい、お嬢様――」