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Angelworks  作者: miЯai
第二部
31/44

EP29 歩きだす足

真人が蔭山の家を離れて数分後、蔭山は捜査本部に足を運んでいた。


室内に入るなり、部下からの挨拶を浴びる。その中でもとびきり大きい声を出していたのは、新米の真宙だ。


「おはようございます、蔭山さん」


敬礼をする。


「あぁ、おはよう」


軽く返すとすたこらと自分の席に着き、乱暴に足を組む。肘を付き、いかにも機嫌の悪さを醸し出していた。


面倒を被るのは避けたいため、誰もそのことには触れなかったが、真宙は話し掛けた。


「あの……どうかされました?」


「あん?……まぁ気にするな。さっさと仕事に戻れ」


蔭山は欝陶しがるように手を振る。気掛かりであったが、真宙は仕方なく自分の席へと戻り、資料を眺めはじめた。


それを見ていた新開がそろそろと蔭山に近づく。


「なんだ、そんな機嫌悪くないんじゃないすか。びびらせないでくださいよ」


と耳打ちする。というのも、本当に機嫌の悪い時は無言のことが多いからだ。


「一日一日が大事なんすから、むやみやたらにチームの空気乱さないでくださいよ」


「お前に言われなくてもわかってる。それより、報告はないのか? まさか、ぼーっと机に向かってたわけじゃないな」


「もちろん。それで、奴のことなんですが」


真剣な表情に変わり、話を切り出す新開。周りをちらりと見ると、一層蔭山に近寄る。


「どうやら、調査通り、狭めて来ているようっす。

ここ最近、付近での殺人が多くなってきてるみたいす」


「……目的があるのか? 都全体を駆け回るように殺害を繰り返していたが……まさか、こうも近づいてくるとはな。俺たちが狙いでないにしても、ヤツは無差別だ。お前も気を付けろ」


「大丈夫す。鍛えてますから。最悪、差し違えてでも鉛玉を一発たたき込んでやりますよ」


胸をぽんと叩いて見せる新開。しかし、髪に付いた寝癖の所為で頼りなく見えてしまい台無しだ。


「そういって消えていった奴のこと、忘れたわけないよな? まぁ、いい。びびって手が出せないよりはましだ」


やれやれといった様子で蔭山は返す。そこで、会話を終わらせようとタバコに火を付けはじめるが、新開はまた耳打ちをする。


「で、その……差し支えがないんなら、なにが原因で気が悪いんすか? 教えてくれません?」


こういった、空気の読めないところが新開の悪い癖だ。しかし、よくわかっている蔭山はなんと無しに答えてやった。


「はぁ……なに、ちょっと親戚のガキが無茶いいやがっただけだ」


「へぇ、蔭山さんに子供の親戚がいるなんて意外す」


「別に普通だろうが、そりゃどういう意味だ。わかったらお前もさっさと仕事に戻れ」


「へーい」というとひらひらと席に着く新開。ため息を一つ付きそれを見ると、手に掛けていたタバコを一服する。


もちろん親戚の子供なんて嘘である。機嫌が悪いのは真人の所為だ。仕事を手伝うなんてことを言われたため、滅入っているのである。


というのも蔭山は真人を殺人犯の親友と認識しているため、そんな人間がその敵である警察を手伝うなんて、思考に納得が行かないためだ。


――やはり勘違いなのか? もし、親友ならやつを捕まえることに手助けをしようなんて考えないはずだが……止めさせたいという気持ちからなのかもしれんが、とりあえず監視は続けるべきか。


「蔭山さん」


考え事をしてる最中、真宙が声をかける。


そこで、蔭山はふと思った。案外元気じゃないかと。この前に兄の命の保証がまったくなくなったというのに、依然として気を散らしていない。


「機嫌がよろしくなったようなので、少しお話よろしいですか」


「なんだ、言ってみろ」


「はい……、実は奴のことなんですが、ちょっと気になったことがあったので」


そういって真宙は資料を見せる。地図にいくつもの赤い丸が付けられている。


「通行量です。つまり奴の殺人を犯している時間帯。例えば、この地点での殺人ですが……」


一つの赤い丸を指す。少し広めのビルの間だ。


「殺人があったのは午前八時ちょうど、ぐらい……でしたよね。そのころは被害者の女性しか通っていなかったらしいですが、どうやらそこそこ人の通る道だそうです」


「あぁ、そうだ。そこは通勤に使う奴が抜け道として頻繁に使う。車がギリギリ通れないが、外からよく見えるぐらいの幅がある。方向的に光がよく入るため、わりと安心して通れる道、だそうだな」


「はい。そこで私はどうしてこんな見通しのいい場所で人を殺したのか納得できなかったので、実際に現場を見てきました」


「で、どうした」


「予想以上に人の出入りが激しい道でした。この時間帯は特にです。しかし、殺害を目撃した人はいない……」


「そうだ、奴は大っぴらに人を殺すことは少ない」


「しかし、聞いたんです。情報を」


「ん?」


少し時間をおいて真宙は言う。


「殺害が起こる寸前、そこを通った人の話です。大柄の男を見たと。学生さんです。通学にそこの道を使い、急いでいたそうです。その時はすれ違っただけなんだそうですが。別段、自分に興味を示してこなかったとのことです。そのときはちょうど、道が空いていて、女性が一人歩いていた、自分はそれを走って追い越し、その前から歩いて来た男とすれ違った」


すらすらと調査報告を行う。冷静過ぎるほどに冷静。


蔭山はそのことの方が気になっていた。


「つまり、男は相手を選んだ、ということです。やつにしてみれば二人を殺すというのは全く問題ないレベルでしょう。しかし、学生の方は無視して女性だけを殺した」


「学生は走っていたからじゃないのか? わざわざ捕らえにくい奴を殺す理由はない」


「そうだと私も最初は思いました。でも、違うんです。なぜなら、女性の方も追い抜いたあと走りだしたからです。おそらく、走り抜けて行くのを見て時間を確認でもしたのでしょう。自分の出社時間も近いと気付いて」


「学生が足音を聞いたのか?」


「はい。ハイヒールの音が聞こえて来た、それからすぐに道を抜けたとのことです」


「ちょうど殺されたとこは見ていないということか」


「学生は男の子でした。しかし、性別年齢による違いは関係ないことが今までの調査でわかっています。じゃあ他になにが殺しの理由になっているのか……」


「わかったのか?」


「いえ、相手を選ぶ、そこまでしかわかりませんでした」


少し気を落としたような表情をする。しかし、すぐに改まって背をのばす。


「とりあえず、私の報告は以上です。ですから、無差別殺人……というのは早合点ではないかと」


「いや、そんなことはわかっている。やつは頭がいいからな。なにかしら目的があっての無差別なんだろう」


「目的がばれないためのフェイクですか?」


「さあな。まぁ、しかし、もうすぐそれもわかるだろう。お前の調査が本当なら……」


なにかを言おうとして止める蔭山。どうしたのかと真宙は顔を覗く。


だが、蔭山は真宙から逃げるように席を立つ。


「トイレだ、すぐ戻る」


「あ、はい……」





「まだ、早い」


蔭山は洗面台の鏡の前で呟く。


――真宙はおそらく優秀だ。このメンバーの中でも頭がキれる方だろう。だが、それが危険だ。もし、それを自覚しているなら、事実を確かめるため際どい単独行動に出やすくなる。


――だから、余計な情報は与えない。あくまで俺の欲しい情報の捜査をさせるだけだ。


実際、捜査の方は進んでいる。相手は一人、しかも素性を特定されていて今尚殺人をしているのだから。


どこからどこまでの区間に潜伏しているから、次はどこで殺人を行うかなども、ある程度当たりがつく。


だが、蔭山が怖れているのはいざという時に奴を捕らえられるかだ。


これ以上捜査が進むのをどこか怖れているのだ。自分が死ぬのはまだいい。しかし、仲間が死ぬのは……。


「蔭山さん、大丈夫ですか。今日はやっぱり様子がおかしいですよ」


トイレに入って来たのは古坂だ。心配そうな顔で蔭山に話しかける。


「古坂……お前は新開より前にいたからわかるだろ。あいつと対峙した奴のなかで無事だったやつがいなかったことぐらい」


「……私が生きてるじゃないですか。それに前の人だってまだ病院に入院していますし……」


「お前は生かされただろ。三人犠牲にして。相手は素手だったんだろ? こっちは拳銃持ってるのに適わなかったんだ」


「場所が悪かっただけです。鉄板やら何やら弾を防ぐものが多すぎただけです」


「だが、もしやつが万全の準備をしたらどうだ? 例えば同じように拳銃を持っていたとして……」


「本当にどうしたんですか、いつもの蔭山さんらしくないですよ。なぜそんなに焦ってるんですか」


言われて初めて気付く。額には汗を浮かべ、手のひらも湿っていた。


水を出して手を洗う。ハンカチを取出し軽く拭く。


一つ落ち着いたところで話を続ける。


「もし、奴の居どころがわかったら、お前どうする?」


あまりの質問にきょとんとする古坂。突拍子とまでは言わないが、今の捜査状況からすると少々現実味を感じづらいのだろう。


「そりゃ、戦います。もちろん警察総動員して。当たり前じゃないですか」


「だが、勝てない、歯が立たないような化け物だったとしたら……」


「奴は人間です。多少身体能力は高いでしょうけれど」


「だが……もし人間以外の化け物だったとしたら」


「蔭山さん」


古坂は蔭山の肩を掴む。


「もし、殺人犯が化け物だったとしたら、逃げますか? その選択肢なんて私たち持っていたんですか。蔭山さんが言ったんですよ、なにがあっても捕まえるって」


「あ、あぁ……そうだな。すまん」


蔭山は気を不味くしたようにうつむく。そしてそのままトイレを出ようとする。


最後に一言、蔭山は言う。


「古坂、俺は最近思うんだよ。俺は、化け物を飼ってるかもしれないってな」


「どういう意味ですか?」


蔭山は応えることもなく。そこを去った。





「東雲、ちょっといいか」


「はい、なんでしょうか蔭山さん」


「今日はここまでだ。俺たちは先に上がる。その代わり、少しついて来てもらう」


なんのことか検討もつかず、首を傾げる真宙。


だが、別段断る理由もないので二つ返事で応える。


「わかりました。でも、なんの用事なんですか」


「なに、ちょっと見て欲しいものがあるんだよ――」

わかりづらいところ、変だと思ったところは、ぜひともお知らせください。

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