EP2 転生
闇……ひたすら覆い尽くすだけの闇だ。周りには何も見えなく、ただ、黒があるのを認識できるだけ。
少年は、自分の身体が動かないことに気付き初めて死を実感した。
少年は思う。死んだら何もないなんて嘘だ、闇があるじゃないか、闇を感じるじゃないかと。
――これなら何もない方がましじゃないか。
しかし、少年はふと気が付く。身体が動かないことを感じられると。というよりもそこには確かに重力を感じ、ただ自分の身体の動かし方を忘れていただけだと。
それに僅かだが音が聞こえる。足音だ。コツコツと、下駄のような足音だ。それが自分に近づいていくのを把握するにはさほど時間はかからなかった。
コツ。足音が少年のすぐそばで止まる。依然として闇だけなのでそこに誰かいるのかは認識出来ない。ただ、何かあるのは間違いないと少年は確信した。
そっと、額に温もりを感じる。それは手のひらがあてられているのだと。
「おや、どうした、喋られないのか?」
疑問がなげかけられ、初めて自分が声が出せないことに気付く。いや、多分出せないだろうとは思ってはいたが、確かめるまでもないことだと思っていたからだ。
「まぁ、仕方ないか。頭に銃弾をぶちこんで死んだからな、そういう機能が回復するには時間がかかるか。だがすまないがこちらとしてももう時間がないんだ。少し手っ取り早くすませていただくよ」
そう勝手に話を進める声。その声は少し老けていて、おそらく六十は越えているであろう男性の声であった。
「お前は罪を犯した。罪を犯した者は原則として天界で懲役を課せられ、百五十年働き続けなければいけない決まりとなっている」
――天界?なんだそれは?
そんな少年の気持ちなぞまったく気にも留めず、声は続ける。
「しかし、お前は自らの罪を認め自害した。本当ならば許されない罪だったが、お前のその行為免じ、少しだけチャンスをやろう」
――チャンス……
「天使のお仕事その一、人間を幸せにすること。その二、死神を滅すること。その三、神に従うこと……」
いきなり羅列される言葉に戸惑いながら少年はその言葉をさらに聞き続ける。
「お前は下界に転生し、罪滅ぼしをするのだ、天の遣いとしてな。今下界は危機に瀕している。それはお前が一番わかっているはず。それを救える能力をお前に与える。生き返ることが出来、下界の救世主になれる、一石二鳥だろう?」
――え、ちょっと……話が見えない……
少年は必死に自分の意志を伝えようとしたが、顔の筋肉一つ動かせないような状態で何を伝えられようか。
「お仕事、開始だ」
その瞬間、少年の身体はふわっと宙に浮き、下へ下へと堕ちていった。