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Angelworks  作者: miЯai
第一部
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EP1 罪

はじめまして、miЯaiと言います。こちらはここでのはじめての作品になります。読んで少しでも楽しんでいただけたら幸いです(シリアスですが)

「おい、何今さらびびってんだ、さっさとやれ」


凄味を効かせた声で、金髪の大柄な男は言う。顔には幾つもの傷があり、安穏とした生活を送っているような人間でないのは一目でわかるようだ。


「だ、だけど……殴ったりしたらこの人は……」


命令された少年は、鉄パイプを両手で覚束なく構え震えている。いかにもいままで暴力沙汰には関わっていなかったことが明らかだ。


特に運動が出来そうなほどしっかりした体格はしていないし、度胸のあるような顔をしていない。こんな少年に人を殴れと言うほうが無理があるだろう。


一方、もうすでに顔面やら身体中に痣だらけで、少年の真下に突っ伏している男はというと、殆んど意識がないのか、怯えもしない。ただ、荒い呼吸を響かせ、少年の焦燥を駆り立てているぐらいだ。


「どうせ、人間なんかもう消えていってるんだ。減る一方なんだからこいつ一人ぐらい消えたって誰もかまいやしねぇよ」


「だ、だけど、この人の家族とかは悲しむんじゃ……」


「あぁ? あぁ……家族ね、そんな鬱陶しいもんもういないだろうに。……なら簡単だ、家族もろともやればいい。それなら誰も悲しまないさ。なぁ、なにか問題あるか? ま、どうせこいつの家族なんかもうとっくにこいつのことは忘れてるだろうけどな」


非人道的な言葉を浴びさせられ、少年からは玉のような汗があふれだす。焦りよりも彼に対する恐怖心が大きくなっていた。


「それとも……親友の俺の言葉が聞けないっつうのか? 真人? なぁ、どうなんだよ、聞けないのか?」


「あ……いや……」


――この人を殺さないと俺は……。


「無い……よ。問題ない。やるよ」


少年にはどうすることもできない。金髪の男に屈してしまうだけだった。


すでに何人もの人がこの男によって殺されていく光景を見てきた少年であったが、自分がとどめ……命を奪うのは初めてだった。


「ほら、早くしろ」


「……うん」


その言葉を聞き、少年は鉄パイプを背中まで振りかぶり、全力で倒れている男の頭へと振り下ろした。だが、


「おい、どういう真似だ?」


振り下ろした鉄パイプは男の頭のすぐ横の地面を叩いただけであった。


「はははは……」


「外しただけだよなぁ? お前は運動神経がないからなぁ」


「う、うん……ごめんね」


「じゃあこれを使えよ」


金髪の男が少年に差し出したのは、日常では絶対に目にかけることのないもの。黒色の光沢が目に焼き付けられる。


「じ、銃?」


「あぁ、そうだ。これなら至近距離で打てば絶対外さないし、自分で殺す感触がないから簡単だろ?」


「え、あぁ……」


そう、笑顔で返してくる男に戸惑いを隠せない少年。それに追い討ちをかけるように。


「やれよ。外せば後はない」


――もう、どうしようもないのかな……。


少年に打開策はなかった。もう、この男に従うしか方法はないのだ。自分が、人間として行ってきた全てを捨て、今、人を一人殺すしかないんだと。


諦めたように、銃を受け取った少年は銃口を男の頭へと突き付ける。


「ごめんなさい」


諦めてしまえば早いものだ。少年はそう一言だけ声をかけ、ゆっくりと引き金を引いた。


バンッと銃声が響いたかと思うと、目の前いっぱいに赤が広がった。少年の初めて浴びる還り血だ。銃の反動で少年は腰を落とした。地面に垂れた血がねちゃりと音を立てた。


「ははははははは!! これだからやめられない!! 美しい赤!! 一番人間を感じる瞬間だ!! どうだ、友よ。初めての感触は!?」


金髪の男はこの路地裏全体に響くほど大声で笑い、その喜びを溢れんばかりに、少年に問う。


「もう、無理だよ……」


その男とは真逆の感情に包まれた少年は……。


「あぁん? お前、どういうつもりだ」


「俺は……もう、無理なんだ」


ぼろぼろの精神で、自らのこめかみに銃口を当てる。引き金にかけている指が震えるのは言うまでもなく、涙を両目に一杯に溜めながら、金髪の男に言う。


「俺は……昔のままがよかったよ。みんなが、普通に愛しあって、誰も憎しみなんかもたなくて……幸せになった二人は赤ちゃんを産んで……」


震える声で、もはやなにを言っているかはあやふやだったが、その言葉を男は真剣に聞いていた。


「おい、何やってんだよ……」


「こんな、世界がお前を変えた。俺は知ってたよ。人々は消えゆく仲間たちに恐怖してたんだって。行き場のない、恐怖と怒りが全部を変えていったんだって……」


「おい、やめろ……やめろって!」


ただならぬ気配を感じ、少年を必死に止めようと近づこうとする金髪の男。その表情からはやはり少年を本当に親友だと思っていたことがうかがえる。


だがそれはもう遅い。今、少年と男の間にはあまりに距離がありすぎる。それは物理的な距離だけでなく、心の距離も表しているかのようだった。


「生まれ変わったら……この世界をかえられるような……そんな人間になりたいな。あ、でも、人を殺しちゃったような俺は地獄に行っちゃうのかもね。まぁそんなことはどうでもいいや、今はただ、この罪悪感から逃げ出したい。ごめんね、暁」


「やめろぉお!!!!」


必死に手を伸ばす男の努力も虚しく、銃声は路地裏に大きく響きわたった。

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