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Angelworks  作者: miЯai
第一部
19/44

EP18 東雲真人

またよくわかりにくくなってしまいました…

フィーリングで読んでいただけるとありがたいです。

「…あなた、ナニモノなの?」


その言葉は真人の心に深く突き刺さった。佐花だけは絶対に聞いてこないであろうと思っていたこと。それがいきなり自分に浴びせられているのだ。


「…な、なんのこと?」


とぼけるつもりではない。ただ真人は言葉の意味を確かめたかっただけだ。


佐花はゆっくりと返事する。


「真人…あなたは、どこから来た誰なの?」


「な、なんで今聞くの?今までそんなこと聞かなかったよね?なんで今になって…」


「私だって聞きたくなんかないわ。聞こうとも思ってなかった。でも状況がいろいろと変わっちゃったの。だから今は真実が欲しい。あなたが誰なのかという真実が」


「わ、私は東雲真琴だよ…それ以外の他でもない…」


「真実に人で真人、よね。あなた、私が前に間違って名前を書いた時に指摘しなかったのはなぜ?」


「な、なんでそれを…!」


「やっぱり…真人なんだ」


「あっ!」


今さら鎌をかけられたことに気が付く真人。しかしもう遅い、ばれてしまったのだ。


「あなた、あの時間違いなく私が書く名前を見てたわよね?でもそれをそのまま見ていただけだった。どういうこと?言い訳は出来ないわ。あなた自身が今認めたからね」


「さ、佐花が名前を間違って覚えてたなんて知らなかったんだよ。その時初めて気付いて…でも、もういいかなって」


「なんでそう思ったの?間違った名前を使われるなんて普通嫌でしょ?」


佐花からの的確な指摘を受け、真人は何も言い返せなくなる。


「もしかして、別に名前を偽っても都合がいいようなことがあるんじゃないの?」


「そんなこと…」


「あるのね」


「…」


目線を佐花からそらす真人。これ以上何も聞かれたくはないのだろう。


「…ねぇ、暁零って誰?」


「!?」


そらしていた目を思わず向けてしまう。それは決して佐花から出るような名前ではなかったからだ。しかし、反応してしまったことが何より自分が知っているという証拠だと見せ付けてしまった。


「あ、いや……な、なんでその名前を…」


「…警察が来たの。あなたが家を出たすぐ後にね」


「…」


「いろいろ聞かれたわ。そして、いろいろ聞いた。連続殺人犯についての捜査だったみたいね」


「…」


「もし、もし、私の考えが間違っていたら謝るわ。だから…私は教えて欲しいの」


「…何を?」


「真人自身を、よ」


真人は暫し考えてからこくりとうなづく。もう逃げ場はないのだ。


「あなたの本名は東雲真人。本来は男の子だったけど、なんらかの理由で身体を作り替えた。たぶんその理由が…自分が大量殺人犯の幼なじみとして取り上げられてしまったから…それで逃げ回ってて途中で力尽きた所で私に拾われた…とか?」


「…それは違うよ」


「どこが違うの?」


「半分くらい…」


「どこからどこまで?」


「ちょっと待ってください」


激しく追及する佐花を見兼ねたスーツの男が抑えに入った。男は至って冷静に言う。


「佐花さんの予想は先程に私も聞かせていただきました。あまりにも信じがたい話ではありますが、確かにその可能性は否定しません。もし、本当にそうだったとしたら確かに驚愕せざるを得ません。ですが、彼女だって事情はあります。もう少し落ち着いて聞いてあげませんか」


佐花が手の力を和らげ、少しだけ安心する真人。確かに真人にだって佐花の気持ちはわかっていた。殺人犯に関係のあるような人物がそばにいれば気が気ではないだろう。


だが佐花はそんな理由で興奮していたのではない。だいたい自分の予想なんぞはどうでもよかったのだ。真人から話を聞くための振りに過ぎない。それにさっきの予想ではなぜ真人が服も着ないで倒れていたのかつじつまが合わない。


佐花はただ、真剣に聞いているという意思を真人に伝えたかったのだ。佐花はこれ以上真人に嘘を突かれたくはなかったのだ。


「…ごめんなさい真人。少し熱くなりすぎていたわ」


「うん…別にいいよ。その…殺人犯だからどうのってところからは違うんだ」


「…ってことは身体を作り替えたっていうのは本当なのね?」


「…ちょっと違うけど、まぁ、だいたい…確かに私はもともと男だった」


部屋の空気が凍る。真人は軽く言ったものの、それは十分に驚愕の一言だ。現実ではあり得ない事象がそこには起こっている、それを改めて痛感させられる。


「…」


真人は考えていた。いい機会だからすべてを話してしまい、相談なり何なりしてしまおうかと。しかし、それは出来ない。それをするにはあの存在についてまで語らなくてはいけないからだ。


神、そして天使という自分自身。両方とも何もわかっていないのに話してしまって大丈夫だろうか?証拠を見せろと言われても自身にあるのは羽だけだ。こんなものを見せただけなら頭がおかしいと思われても仕方がない。


「あの…」


真人が口を開くと全員が視線を向ける。興味からなのか、疑心からなのか、真人にはわからない。


「いいわよ、なんでも話しなさい」


「うん…じ、実は私、自殺したんだ」


またもや軽い口調で言ったものの、それは真人にとってはかなり勇気のいる発言ではあった。自身の命を捨て去るという重苦しい過去を他人に明かす、こんなことは普通出来はしないし死んだ人間ならなおさらだ。


しかし、ここでつまづいては真人にとって話にならないのだ。ここはすばやく流す必要がある。話の本質ではないからだ。


そこにいた全員は真剣に真人の話を聞いていた。真人もそれに気が付き顔をあげ話を続ける。


「それで…なぜか運良く生き返った。理由はわからないけど…誰かに助けられたのかも知れない。気が付いたのは佐花に拾われたところなんだ」


真人の選択は嘘をつくことだ。やはり全部は話せない。話が拗れないくらいに現実味を帯びた表現をする外なかったのだ。それでも、多少は無理矢理だ。そうでもしないと神がいるなどという話をリアルに熱弁しなくてはならなくなる。その方が明らかに無理だ。


「自分でも身体が変わってたことに気が付いたのはその時に目を覚ましてからなんだ。だから上手く動くことが出来なかったんだよ。なんで生き返らせてわざわざ捨てられていたのかはわからないけど、こういう経緯なんだ」


「…納得いかない点が多すぎるわ。自分の意志で身体を作り替えたわけではないっていうのはわかったけど…それ以降の話がちょっとね。このぐらいなら私でもつける嘘だわ」


厳しい指摘を佐花は容赦なく真人に浴びせる。


「さすがに私もそう思います。真人さんがここ数日どう過ごしてきたのかはご存知ありませんが、ずっと一緒にいた佐花さんなら、真人さんが本来の姿ではないと知った時点で十分に予測出来るレベルの話だと思います」


男も続けて言った。男は思ったままのことを口にしただけではあるが、正論である。真人にもそれぐらいはわかっていた。だが、これ以上話を変えてしまっては本末転倒なのだ。


「だけど事実は事実なんだよ。あと一応誤解だけは解かせてもらうけど…殺人犯がどうこうは知らなかった。ニュースを見て初めてその事件を知ったんだよ。だから犯人が私の幼なじみなのかはわからない」


「でも反応をしたってことは心当たりはあるってことでしょ?」


「…うん。もともと気性の荒いやつだったから…もしかしてと思って」


「気性が荒かったぐらいで自分の幼なじみを殺人犯として疑うってのはおかしくないかしら?何か他に知ってて、心当たりがあったんじゃない?」


「…警察からなにか聞いたの?だったらそれが関係あると思うよ」


「ならいいわ。これ以上そのことについては聞かない。ただ、ひとつ言っておくわ。警察は間違いなく犯人は暁零だって言ってたわよ」


「そ、そう…なんだ…」


真人は信じていなかった。信じたくなかったが、本当のことを聞いてしまい幾分か悲しみを感じていた。


佐花はというと警察から聞いた情報と真人の意見を照合させていた。まだ全部は話してはいないが、概ね警察が言っていた部分は正しいのだろう。


しかし佐花にとっては殺人犯についてはそこまで追及するほどのことではなかった。あくまで知りたいのは真人自身のことであり、それに少しでも掠めている殺人犯の情報は一応知っておこうという程度なのだ。


だから、それらの話で一番重要なのは、殺人犯の動機なんかよりも真人が殺人犯となんらかの関係があったか、ということだ。それが少しでもわかれば殺人犯自体はどうでもいい。次に佐花が知りたいのはそこから繋がるもう一つの確認事項だ。


「警察の人が言っていたわ。三年前に行方不明になったんだってね。もしかしたら、その時に自殺したの?」


「う、うん…」


「あ…思い出したくないことを聞いてごめんなさい。でももう一つだけ聞かせて」


「な、なに?」


「それから三年私と会うまでの記憶はなにも覚えていないってことでいいのかしら?」


「うん…自分だって月日が経っててびっくりしたぐらいだから…」


「わかったわ。私が聞きたいことはこれだけ。ありがとう真人」


佐花は真人の肩を掴んでいた手を離す。


「なら…関係ないのよね…」


「なにが?」


「あ、いや、なんでもないわ。…その…真人、よく聞いて」


「う、うん」


真人は姿勢を改める。そして佐花はゆっくりと口を開く。


「…今すぐここから逃げるわよ」


「えっ?」


真人はあまりにも突拍子な佐花の言葉に情けない声とともに開いた口が塞がらなかった。

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