EP17 疑いたくないコト
また遅れましたm(__)m
それでも見ていただけると幸いです。
いろいろとミスがありました。
タイトルの変更がございますので確認ください。
シャワーから流れ出る水の音が止む。するとすかさず佐花はバスタオルを準備し、浴室から出てきた真人を優しくそれで包む。
「どう?すっきりした?」
佐花がそう質問すると、真人は何も言わずただ小さく首を縦に振っただけであった。そしてそのタオルで身体を隠すようにしてそこから一人去っていく。
「…あっ、先に服着ないと風邪引くわよ」
しかし、そんな佐花の言葉に聞く耳を持たず、真人は逃げ去ってしまう。
「…やっぱり気まずいのかな…」
佐花は脱衣場に用意していた真人の服を広いあげると、真人のあとを追う。
真人は寝室用の部屋にバスタオルで丸まっていた。佐花はその脇に着替えを置いてやると真人に一言言う。
「ちゃんと服、着てよね。あと、一応…これ、付けておいて」
と、小さな箱のようなものも一緒に置いた。中には、紙のようなものが一杯入っている。
「付け方がわからなかったら、私にでも聞いて。あ、それにまだお医者さんもいるし」
お医者さんという言い方は佐花にとって皮肉でしかない。結局彼らはなにもしてはいなかった。ただ、出来たのは現状の分析だけ。これぐらいなら別に連れてこなければよかったと後になって後悔していた。
「…着替えたら…リビングに着てよね」
それだけを最後に言い残し、佐花は部屋から出ていく。
残された真人は、佐花の足音が離れていったことを確認すると着替えに手をつける。やはりさすがに裸のままずっといるのは辛いと思ったのだろう。
「…頭痛い」
先程の“出血”による一時的な貧血に悩まされながらも着々と服を着ていく。佐花が気をつかってくれたのかは知らないが用意されていたのはジャージであった。
しかし、上半身だけ着終えるとそこで手を止めてしまう。
「着けたほうがいいのかな…やっぱり…」
箱に手を伸ばす。そこから中身を一つ取り出して目の前で広げてみる。
「こんなのを付けてたんだよな…女の人たちは。なんか不思議だ…」
しかし、実際真人は疑問に思っていた。今の日本にこれを付けている人などはほとんどいないのだから、使い方がわかる人物などはほんの一握りなのではないかと。確かに医者なら最低限そういう知識を植え付けるのかもしれないが、どうみても三十代にも満たない若い医者にしか見えなかったため、経験したことなどは少なくともありえないだろう。
「なら聞いてもしかたないや」
幸い箱の方には簡単な付け方が記載されていたため、それにそうことが出来た。
さまざまな違和感を感じながらも、付けること自体はすんなり終えることが出来た。
「…感触が嫌だなぁ…よくこんなのを付けて歩き回れるもんだよ…」
と、文句をたれながらも真人は佐花に言われた通りにリビングに向かった。
そこにいたのは三人。佐花とスーツを着た男、そして白衣を纏った女性の医者だ。
なんとも奇妙な光景だが、この状況を生み出したのが他でもない自分自身だと思うと居たたまれない気持ちになる真人であった。
「あ、真人。待ってたわよ。どう、落ち着いた?」
「あ、うん…」
本人はすっかり忘れていたことなのだが、真人はかなりの興奮状態に陥っていた。それも一部は生理によるものだったのだろう。
そうとでも考えていないと罪悪感で押しつぶされてしまうからだ。
「その…ごめん」
真人は小さく呟く。
「その…自分でもよくわからなくて…いろいろ迷惑かけて…」
「いいのよ、家族って言ったじゃない。少しぐらいは大目に見てあげるわよ」
「…ありがとう」
佐花が優しくしてくれたおかげで少し気を晴らすことが出来ていた。
しかし、それを見ていたスーツの男は言う。
「よかったですね、仲直りをすることが出来て…ただ、いろいろと話し合わなければいけないことがあるんじゃないですかね?」
「話し合わなければいけない?」
真人はぽかんと口を開いてしまったが、佐花はその言葉を聞いて唾を飲んだ。
「…ええ、そうね。本当なら聞きたくないことだったけど…悪いことが重なっちゃったから、これ以上このままはよくないわよね…」
「え?なんのこと…」
「真人」
佐花は真剣な顔で真人に向き合った。真人の肩を押さえ目を見つめる。
「…あなた、ナニモノなの?」
「シノノメマコト?」
約三時間前。佐花は目の前の男が発した単語を頭の中で反芻していた。
その言葉もそうだったが、一番気になったのはその男が自分を警察と名乗ったことであった。
――警察が真琴に用があるの?
警察の男が一体なにをしたいのかがわからず困惑するばかりの佐花。だが、まったく身に覚えがないわけではない。そもそも真人について知っていることなどはほとんどないのだから。
一番最初に考えたのは捜索。なんらかの原因で失踪してしまった真人を警察が探しているということだ。家族か親類の人間が捜索願いを出したのであったならば十分にあり得る話だ。
それならば仕方ない。自分が真人と一緒に歩いていたところを見られたのなら通報を受けたのかもしれないと。自分がある種の誘拐犯のように思われているのかもしれないと…
だが、今の佐花は真人に暴言を浴びせられ、少なくとも傷心していた。だからどうでもいいとしか思えなかったのだ。それゆえに返した返事は、
「知りません」
の一言であった。
「そうですか…」
男はもちろん顔をしかめた。それはそうだろう。男は確かな情報を元にこの家へと来たのだから。人違いはあってもシノノメマコトを知らないというのはあまりにもおかしい。
だから真っ先に考えたのは、この女は嘘をついているということだ。だが、女の反応があまりにも薄いため本当に演技なのかいまいち計りかねていた。
「…一応確認ですが、これを見てください」
男は違う視点から嘘を暴こうと考えた。写真を見せることによって表情の変化を見るのだ。まったく知らない人物なら反応は見せないだろうし、顔のわかる人物なら間違いなくなんらかの反応は見せるはずだ。それは眉がぴくりと動く程度の些細なものでも黒と判定出来るほどだ。
「…いや、本当に知らないですね」
佐花から出された答えはそうだった。いや、実際に知らないのだ。それは佐花の知っている真琴ではなかったからだ。
ここで佐花は完全に警察の人違いかと確定しはじめていた。
安心仕切った顔になった佐花を見て男は少しだけ焦りを見せる。切り札の一つである写真が逆効果だったからだ。
「…本当に知らないんですか?あなたがシノノメマコトと一緒にいたという情報を掴んだのですか」
「…」
やはりそうか、と佐花は思う。しかし知らないものは知らないのだ。写真に写った人物は佐花の思うシノノメマコトではない。
ただ、その写真のシノノメマコトなぜかその顔を見て安心のようなものを感じていた。
――この写真の少年は…似ているのかな。真琴に。でも、性別が違うから…やっぱり違う。ただ、雰囲気は似ているかも。
知らないはずなのに、どこか他人とは思えない雰囲気を纏った少年の写真を今一度見つめる。
――違うなら…真琴のことは言っても大丈夫かな。
少しだけこの少年のことを知りたいと佐花は思ってしまった。なら、少しぐらいこの男に情報を与えて置けばこの少年について教えてくれるかもしれない。
「…この少年は知りませんが…まったく別の、シノノメマコトなら内にいます」
「!」
遂に吐いたかと男は視線を鋭くする。小さな穴からすべてを覗いてやる、そういう信念が溢れていた。
「違うシノノメマコト?やはりシノノメマコトという名の人物はいるんですね」
「はい、私の…知り合いから預かった女の子で。東雲真琴って言います」
男の手帳に漢字まで丁寧に書く。もともと佐花が勝手に漢字は当てているため間違いではあるのだが、そんなことに佐花は気が付かない。
「…本当に別人?性別が違うから…しかし、この年齢で性別を偽るのには限度があるだろうしな…」
「あの」
佐花はほんの好奇心で男に問う。
「その…シノノメマコトって男がどうかしたんですか?」
「…捜査に少なくとも関わったからなぁ…まぁ、少しくらいは教えなければいけませんか…」
佐花の思惑通り男は話そうとする。
「…最近連続殺人事件が起こってるのは知ってますよね?」
「殺人事件?あ、はい」
その事件についてはよくニュースでもよく報道されているため、あまりテレビを見ない佐花でも少しは知っていた。
「確か…300人の高校生を殺したとか…」
「えぇ、そうです。その事件のことです。その事件の重要参考人が…」
「シノノメマコト…」
「そういうことです」
殺人事件。なんとも物騒な話だ。真琴が関係なくてよかったとほっと胸を撫で下ろす佐花。
「じゃあそのシノノメマコトって言う少年が犯人…」
「いえ、違います。いや、関わっているかも知れないので犯人ではない、とは言えませんが…確定した犯人がいるんですよ」
「…?だったらなんで捕まえられないんですか?」
「早いが話、返り打ちをくらいましてね。銃を奪われてしまっているんですよ。それで調子に乗ったのか何度も何度も…本当にふざけたヤツですよ」
「…怖いですね」
「ええ、私たちも怖いんです。それでもこんな時代だからこそやらなくちゃいけませんからねぇ。実際テレビで報道してるのなんて一部ですよ、高校生が300人ってだけで被害はもっとある。確かに三年前は高校生だけが対象だったんでしょうけど…なんせ相手は成長してますからね。どんな相手でもぎったんばったん、無差別殺人ですよ」
「無差別…」
背筋に冷たいものが走る。こんな危ない世の中に真琴一人を外に出してしまって本当に大丈夫なのだろうかと。
「あ、だからですね、この写真だってあくまで参考程度にしかなりませんからねぇ。そりゃいい歳の男の子なんだからこの子も顔なり体格なり変わっちゃってるだろうから」
「あ、これも三年前とかの写真なんですか?」
「えぇ、ま、言ってしまえば三年前からシノノメマコト、は見当たらなくなっちゃいましてね。最後に撮った写真なんですよ。ま、取り調べっていうんですかね。そのときの写真でね。ま、逃げられたというか連れ去られたんですけど…」
「…誰に?」
「そりゃ殺人犯のやつにですよ。ま、その時はまだ殺人犯ではありませんでしたが…まぁ、変わりませんかね。で、その二人はつるんでたんです。だからシノノメマコトを重要参考人として呼びだしてね。移動のときのちょっとした隙にねぇ。あれは本当に困った。ただ、シノノメマコトの方は素直なやつだったからいろいろ聞き出せましてね」
「…それで?」
「あっと!」
男は慌てたようにわざとらしく口を押さえる。
「喋り過ぎました。いけないいけない。一般人には関係ないことまで喋っちまうところでした。誰にだってプライバシーはありますからねぇ、気を付けないと」
なんだかんだで気になって聞いていた佐花は残念がる。しかしここまで聞いてしまえば骨の髄までだ。
「…もうちょっとぐらい教えてくださってもいいじゃないですか。私だって事件について最低限知ってないと安心できません」
「うぅん…そう言われてもねえ…ま、犯人についてぐらいならいいか」
よし、と心の中でこぶしを握る。
「犯人はですね、金髪の高身長の男です。顔や身体にいくつも傷があってですねぇ…そりゃただ者じゃないですよ。名前は暁零といいましてね。シノノメマコトの幼なじみだとか」
「幼なじみ…」
「ま、私が言えるのはこれだけですねぇ。上がうるさいもんで。ただ、金髪の男を見たら気をつけてくださいよ?」
「…はい…」
「いや、それにしても…当たりだと思ってたんですけどねぇ…かわいらしい女の子じゃ当てはまりませんよね」
「あ、あの…なんで内のシノノメマコトを尋ねたんですか?」
佐花は最後にそれだけをと思い訊ねる。確かに自分は真琴と一緒に歩いていたが、もしそれを目撃したのなら別人だとすぐにわかるはずだからだ。
「えっ?いやぁ、ここらの町でシノノメマコトって登録されてる人間は一人しかいないからですよ」
「えっ…」
「あ、こう書くんですけどね」
と、さっき書いた東雲真琴の横に東雲真人と書き、佐花に見せる男。
「ま、顔は変えられるかも知れませんが、性別と体格は変えられませんからねぇ。まったくあなたとは関係ないでしょうよ。私自身があなたのシノノメマコトを見たわけじゃないですからね。とりあえず確認みたいなので来ただけですから。どうやらあなたは嘘をついていないみたいですからねぇ。まぁ、とにかく安心してください。お時間取らせて申し訳ありませんでした」
では、と言い帰っていく男。
が、男は帰り際に「まあ」と捨て去るように言う。
「もし、体型や性別まで変えられてちゃ話は別でしたけどね。まあ、そんなやつがいたら化け物としか考えられませんけどねぇ」