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Angelworks  作者: miЯai
第一部
13/44

EP12 すれ違う心

「風が気持ちいいなぁ…」


やはり一度外に出たのがよかったのか、外出をする機会が格段に増えた真人であった。羽などはうまくカモフラージュし、外の新鮮な空気を堪能していた。


しかし、実は今回は勝手が違う。なぜなら真人一人だからだ。いつもなら佐花に付き添ってもらい外へと出歩くようにしていたのだが――。


「佐花のバカ……」










「ねぇ、次はこの服を着てよ」


「えっ? またそんな歩きづらそうな服を着るの? スカートの裾絶対に踏んじゃうよ」


いつもと変わりなく、佐花は真人の着替えを楽しんでいた。少しは嫌な顔をする真人だったが、突き返すほどには嫌がってはいなかった。


「大丈夫よ、いざとなったら私が支えてあげるから! なんならお姫様抱っこでもいいわよ」


「お、お姫様抱っこ!?」


確かに今佐花の手に握られている服は、さながらどこかの国のお姫様が着るふんわりとレースがあしらわれたような真っ白なワンピースだった。お姫様抱っこも似合わなくはないだろう。


しかし、真人も元は男だ。そんなこっ恥ずかしいことを平気で許すはずが無い。


「いいよ、そんなのは! それよりももっと動きやすいのにしようよ」


「……仕方ないわね。じゃあ真琴が選びなさいよ、今日外に出かけるための服をね」


佐花は一応真人の意見を優先させることにした。可愛い服を着てほしいのは本心だが、嫌がらせてまで着させようとは思わない。


「うん、そうさせてもらうよ」


と床一杯に広げられた服を見ながら真人は言った。


先日注文した服が届いたため、部屋の中は所狭しと服で覆い尽されているのであった。一度試着した服たちだったが、佐花が真人の着ている姿を見たのはほんの数着だけ。ほとんどの服は真人自身しか確認していないのだ。なので、佐花がさまざまな服を着せてみたいという気持ちもわからないではない。


真人は一つ服を手に取った。それはうすいピンク色のワンピース。全体的に落ち着いた装飾のものだ。


「あれ? それ真人の選んだやつじゃない?」


実はそうである。ワンピースというのはいささか少女的ではあるが、あまりにも男っぽいものばかりを選んでいると何か怪しまれるかもしれないとあえて選んだものだ。基準としては、自分に彼女がいたとしたらどんな服を着ているだろうという安直なものらしい。つまり単純に真人の好みでもある。本当は自分が着るとなれば気持ちは別なのだが、それは考えないようにしていた。


「どうせなら私の選んだのにしてよ!」


「だ、だめかなぁ?」


「そりゃ……真人は何を着ても似合うから私としては別に構わないけど……どうせ着てもらうなら自分で選んだ服を着てほしいもん」


「そうなの?」


「そりゃそうよ」


真人は持ち上げた服をまた床におろし、思考に更けることにした。そこまで言うなら佐花の意見もちゃんと考えようと思ったのだ。そういう優しさは真人のいいところではあるが優柔不断と言い換えれば微妙なものである。


いい加減下着姿でたたずむのも限界が来たので、適当に佐花の選んだであろう服をすぐに手に取る。


「え? それ着るの?」


「え、でも佐花の選んだ服でしょ?」


「そうだけど……なんか違うなぁ。散歩向きじゃないわ」


「もう……」


先ほどのは床に戻し、違うのをまた手に取った。


「これは?」


「あ、うーん……もっと可愛らしいのあるわよね? キュートな真琴ちゃんがみたいなぁ」


「……」


物も言わずまた違うものに取り変える。今度は真人が思う中でかわいいと感じるものだ。


「これならどう?」


「……うん、よさそうな感じね。じゃ、さっそくお着替えしちゃいましょっか!」


「ふぅ……」


ほっと一息ついた真人。やっと服が着られると安心感に包まれていた。下着姿でいるのに慣れてしまうのが嫌であったというのももちろんあるが、そんなことは今は気にせず、ただ服を着ることに専念する。


ささっと着替え終え、佐花の方に向き直る。よくよく考えれば着替えている姿を見られることも十分恥ずかしいことではあるのだが、今は達成感で忘れさられていた。


「ううーん……」


顎に手を当て、いかにも審査をしているかのように真人を見つめる。全身を隈無く見終えるとより一層険しい表情に変わる。


「……うんかわいい。だけど……何か惜しいわ。もう少し、あとちょっと何かが足りないような……可愛いけどインパクトに欠けていて……」


本格的にオーディションの審査をするような乗りを演じる佐花。もちろん佐花としてはただの遊びだ。真人と少しオーディションごっこをするような、ファッションショーの審査をするような、そんなただの乗りであった。


佐花はそれを楽しんでいた。真人の着替える姿を見て微笑ましく思っていたのだ。しかし、真人は違った。散々振り回されるように着替えさせられてストレスが蓄まってしまったのだ。佐花はそんな真人の表情に気が付かず続けて評価を真人に伝える。


「……で、総合的に見れば75ポイントね。十分なポイントだけど、あなたならもう少し上を目指せるでしょう! ……ってな感じで次の服に行ってみましょうか!」


「……次で最後にしてよ」


真人は今度こそと思いながら次の服を手に取った。ピンクのフレアスカートと黒ドットが入った青色のキャミソールだ。先ほどのものたちよりは元気な印象を与えるものである。これならば合格と言わせられるのではと淡い期待を抱きながら着替え始める。


恥じらいなどはもはやなく、作業となりつつあった着替えを済ませ、佐花に全身を見せる。


「ほうほう。本当になんでも似合うわね。さすが真琴!」


その言葉聞いて安堵する。これで終わる、そう思った。


「でも真琴のイメージとはちょっと違うのよね。真琴はやっぱおとなしめの服のほうが似合うわよ。だからこっちのワンピースとか……」


「……ふざけてるの」


「え?」


真人はすでに限界を越えていた。佐花の身勝手な発言に我慢が出来なくなってしまったのだ。声を低くして佐花に問いかける。


「佐花はふざけてるの?」


「どうしたの? 何を言ってるの?」


真人の雰囲気が酷く暗かったため、伺うように佐花は聞き返す。


「わざわざ佐花が言うように着替えてるのに……なんで終わらないの? 外に行くんでしょ? さっさと着替え終えないの?」


「何を今さら言ってるのよ。せっかくこれだけ服があるんだから慎重に選ぶのが普通でしょ? まぁ、時間はあるんだし、ちょっとぐらい楽しみなさいよ。ただ、着替えるだけじゃつまんないでしょ?」


「佐花だっていつまでパジャマでいるのさ。早く自分も着替えなよ」


「私はいいのよ。今は真琴の着替えをするだけで。ほら、次はこの服なんか」


「俺はあんたの着せ替え人形なんかじゃない!!」


部屋いっぱいに真人の声が響いた。あまりの声量に思わずびくつく佐花。真人自身も自分がこれだけの大声を出してしまったことに驚いていた。


「え? 本当にどうしたのよ!いきなり怒鳴ったりして!」


「うるさいのはそっちじゃないか! 言われた通りに着替えてんのに次から次へと注文ばっかで……ふざけるなよ! それに俺は子供なんかじゃないんだ! 1人で着替えくらいできるんだよ!」


「なっ!? 俺なんて言葉使っちゃだめじゃない!」


「そんなのどうだっていいだろ!」


「よくないわよ。女の子が俺だなんて……ちょっと変でしょ?」


「うるさいっ!!!」


会話を途絶えさせるように先ほどよりもさらに大きな声をあげた。真人の顔は興奮により若干紅潮していた。


「……真琴、体調でも悪いの? 何かいつもと違うわよ? こんなイライラしてる真琴……真琴なんかじゃないわ」


「……違う」


――違う、いつもの俺は……佐花と一緒にいた俺は、本当の俺なんかじゃない。女の子の皮を被ったただの男だ。


「だからね、落ち着いて。いつものように可愛い真琴でいて。どこか悪いならお医者さんに……あ、それはまずいか。でも、いざとなったら私がなんとかして……」


「余計なお世話なんだよ! それにまた子供扱いして……本当ならあんたと同じ歳なのに……なんでここまで下に見られなきゃならねえんだよ! むかつくんだよ!」


勢いは止まらず、言いたいことを言いたいだけ吐き出してしまう真人。佐花は怯えながらその言葉を聞くだけだ。


「……え? 同じ歳? 18じゃ…」


「あっ!」


しまったと思わず口を塞ぐがもう遅い。


「そりゃ18にもなれば大人よね、子供扱いし過ぎるのも嫌なのはわかるわ。でも……なんでそんなキツく言うのよ。今までおとなしかったじゃない」


「くっ…あんたに…」


もうやめたかったのだが、押さえられず言葉は溢れだしてしまう。


「あんたに俺のなにがわかるんだ!!」


最後にそう叫ぶと真人は玄関を飛び出した。気まずくなってしまい思わず逃げ出してしまったのだ。


部屋には呆然と立ち尽くす佐花だけが残されていた。


「…なによ、いきなり。本当にどうしちゃったのよ…」










佐花の家から徒歩10分ほどに位置するこの公園。真人はそこに行き着いていた。自分のしでかした過ちを悔い、ベンチに座り込んでいた。


この公園は真人の知っている場所であり、思い出深いところでもある。何もかもから逃げ出したくなった気持ちが真人をここに引き寄せたのだろう。


「…なんであんなに怒鳴っちゃったんだろ。さすがにやり過ぎかなぁ…いや、佐花が悪いんだ。俺を子供扱いなんかしてるから…それでストレスが蓄まったんだ。そうだ、俺は悪くない。俺は悪くないんだ。悪いのは佐花だ。佐花が…」


そこでつぶやくのをやめた。ここにはいない人物の名前をつぶやいても虚しくなるだけだ。佐花から逃げ出してきたのは自分自信なのに…


本当は真人もわかっていた。子供扱いされたり遊ばされているのは確かにストレスではあったが、あそこまで怒鳴ってしまう要因にはなりえないということを。


真人はなぜ、自分があんなにイライラしてしまったのかまったくわからないでいた。


「…これからどうしよう。家に帰りづらいし…きっと佐花怒ってるよな…それに余計なことも言っちゃったし、何か感付かれちゃったかなぁ…」


ふと空を見上げる。雲一つない真っ青な空だ。しばらくは雨など降りそうもないと少し安心する。


「本当なら今日は佐花と一緒にこの空の下を歩いてたんだよな…どうしてこんなことになったんだろ…」


ぼーっと眺める。何をするわけでもなく、ただ、空を見上げた。何もない、本当に青だけが広がっていた。


「あの空を飛んだら、きっと気持ちいいんだろうな…」


自らの羽を見ながらつぶやく。


「…あれ?なんかちっちゃくなってない?」


真人は首をぐいっと後ろに向ける。そこには以前よりも心なしか少しだけ小さくなった白い羽が見えた。背中いっぱいを覆っていたはずのそれは、いつのまにか手のひらサイズまでになっていたのだ。


「えっ?なんで?なにがどうなって…なんだよ、わけわかんない。どうせ結局飾り物なんじゃないか。ちょっとは空を飛べたりして、なんて期待してたのに。別に小さくなったって関係ないよな」


――俺がバカだったよ。


真人は羽を見るのをやめ、再び大空を眺めていた。


背中の羽は元気のない花のように萎れ、ただ風になびくだけであった。

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