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転移勇者の婿入り先

作者: 宮比岩斗

 とある勇者が世界を救った。


 その者は異なる世界から女神によって遣わされ、各国から集った仲間たちと世界を壊さんとする魔をこの世から消した。


 その圧倒的武力は並ぶものなく、その高貴なる精神は輝くようだった。


 誰もがその者を羨望し、崇拝し、敬意を払った。


 勇者が二度と元の世界に戻れないと女神から告げられていてなお尽力していたと発覚した際には、平和になった暁には幸せで穏やかな日々を約束せねばと誰もが胸に決めた。


 そして世界が救われた。


 各国は勇者を歓待しつつ、様々な縁談を持ちかけた。その縁談先には共に戦った仲間である女性たちも含まれていた。それらに国家として思惑はなく、今までの辛い日々を考えれば男として美しい女性たちを愛でるぐらいはいくらでもしていいという温情的な計らいだった。


 その程度には各国は世話になった面子として勇者に面倒ごとを持ち込んではいけないという共通認識と感謝があった。


 ただ、勇者の高貴な精神性がここにきて仇となる。


「何人もの女性を妻にするのは私の信条に反する」


 勇者が元の世界から培った道徳性が異世界の常識と合わなかったのだ。


 ただ唖然とする我らを見かねた勇者が助け船を出してくれた。


「妻とするなら気心しれた者が望ましい。ただ、それで皆の関係性が崩れるところは見たくない」


 このような条件を出された。


 これは各国から集った仲間の中で誰が一番勇者の妻に相応しかを決めるための話し合いの記録である。




~~~~~~




 1番手 魔術連邦 推薦人『大賢者』 推薦相手『魔法使い』


「誰が勇者殿の妻に相応しいか?


 それは我が連邦の魔法使い殿を差し置いて他にはありませんね。


 いいですか皆さん? 勇者は若い男性です。いくら素晴らしい精神性を持っていたとしてもその内には十代の煮えたぎるようなパッションがある訳です。魔法使い殿のようなボンキュッボンな恵体で鎮めてあげることこそ幸せと捉えるべきでしょう。


 想像してみてください。自分がまだ十代でボンキュッボンなお姉さんに迫られるのを。最高でしょう! 私ならばそこで人生が終わってもいいと思えますね」


「お前の性癖発表はどうでもいいわい!」


「……失礼。彼女の魅力を語りたいあまり、熱が入り過ぎたようです。


 彼女の恵体はいつも身に着けているスリットが際ど過ぎるドレスでご存知だと思いますが、太もももさることながらスタイルが良いということにもお気づきでしょう。彼女ならばどんなセクシーな衣装でも着こなすことができます。


 つまり勇者が望めば踊り子の衣装を纏って行為をすることも可能なのです。


 魔法使い殿も勇者殿が望めばどんなアブノーマルな行為でも喜んで受け入れる覚悟があると言質は取っています。


 若い男性の妻とするうえでは彼女が最適だといえましょう!」


「夜の生活だけが妻に迎えることの条件じゃなかろう! お前童貞じゃろう!」


「ぶち殺すぞ! 堕落神父!」


「やってみろ! 引きこもり!」




~~~~~~




 2番手 宗教総本山 推薦人『教皇』 推薦相手『聖女』


「さて先ほどは見苦しいところをお見せしてしまい、あいすまんかった。


 先ほどのオタクくんも言っていた通り、夜の生活も夫婦生活にとっては大事なことであることには異論はない。ワシも若い頃の告解でよく夜の生活の相談を受けたからのう。


 ただ、それだけが夫婦生活のすべてではない。


 そもそも夫婦になるにはちゃんと過程を経ることが大事なのではないじゃろうか。


 過程とは恋人期間じゃ。


 仲睦まじい期間を過ごしてから夫婦となることでより良い夫婦となることができる。その点において、どこぞの尻軽女とは違って聖女は恋人にするならばこれ以上ない良物件といえよう。


 巷では聖処女と呼ばれているようじゃが、その名の通り純潔なのは保証する。これはうちのシスターたちが本人に聞き取りしたから間違いない。どこぞの男に跨ってきたかもしれん女より見初めた一人に尽くす女の方が勇者様もお気に召すはずじゃ。


 そもそも妻とは貞淑さが大事なのであって、昨今の女性から男性に誘いを掛けるという風潮は間違っておる。互いに一人を大事にし、妻とは旦那を支え、旦那は家族を守る。それが古き良き家族というものじゃ。それを扇情的な衣装を着ていれば良き夫婦になれるだなんぞ……嘆かわしい。


 ……話がずれましたな。


 勇者様は貴重な十代を戦いに明け暮れ、精神は摩耗しておられです。


 他の貴族子弟らが青春の日々を過ごしているのを羨ましく思っていたのは周知の事実。


 ならばこそ平和を取り戻した今こそ! 勇者様には甘酸っぱい青春を送ってもらうべきなのじゃ!」




~~~~~~




 3番手 軍事国家 推薦人『国王』 推薦相手『女騎士』


「そこのご老人の言う通り、一定の貞淑さは必要であろう。かの勇者の妻となるのだから誰からも受け入れられる者が相応しい」


「ではわしが推薦した聖女で決まりじゃな」


「まだ話は終わっておりませんぞ、ご老人。余は誰からも受け入れられると言ったのだ。世界を救った者の横に並び立つことになるのだ。格は必要であろう」


「ならばこそ聖女が……」


「聖女も格がないとは言いません。だがしかし生まれはいかがかな。かの聖女は農村の、それも農奴の出と伺っております。どうしても見劣りしてしまいますな。並び立つにはやはり貴族の血を引いている女騎士こそが最優でしょう。


 勿論、余が王ゆえに国に取り込もうという思惑はなくはない。ただ善意ゆえの提案ということは誤解なきよう。


 勇者個人は彼自身が成した偉業と女神という背景があり、誰からも咎められず利用もされないだろう。だがその子供たちはどうだろう。勇者のように女神から授けられた力もなく市井の一人として生きる分には勇者の血筋というのは争いを招きやすい。


 だからこそ貴族の血筋に取り込み、貴族社会が一体となって守る必要がある。最初はその血筋を分けて貰えぬゆえにやっかみがあろうが、子々孫々と勇者の血筋を各家に分けていけばそれもいずれなくなるだろう。


 よいか。勇者の偉業を汚したくなくば女騎士の家に婿入りするのが最良よ。


 女騎士もお転婆ゆえに騎士になった変わり者ゆえ自身が認めた相手でなければ嫌だなんて言い張っていたが、勇者が相手ならば文句もないだろう。


 幸い見た目もそちら二人と比べても見劣りしないしな」


「格ですか……」


「どうした引きこもり」


「いいえ、そもそも誰かが担ぎ上げるそういった発想をする国に婿入りするのが間違っているでしょう。我が魔術連邦は実力主義。血筋は評価項目に入りません。子孫のことを言うなら魔術連邦が最適でしょう」


「コネを巡って派閥争いしてるくせによくいうな」


「実力を認めて自らの意思のもと下につくのは今流行りの自由主義というのですよ」


「本質は変わらん。世界がより成熟するか、女神の名のもとに統一せねば、むしろ利害関係が前面に出て、相互補助の精神が蝕まれるだろうそれは」


「だからこそスクラップアンドビルドを繰り返し、より良くしていくのです」




~~~~~~




 どの国も引かず、こんな調子の会議が三日三晩続いた。


 当初は黙って行方を見守っていた推薦相手たちであったが、三日目堂々巡りかつ本筋からズレまくった会議をとうとう見限った。


 彼女らは話し合った。推薦人よりも簡潔に、目的を定める、妥協ラインを見極め、協力を決め、実行に移した。


 勇者パーティ内輪の祝賀会をしようと勇者を誘い、勇者にしこたま酒を飲ませ、酩酊した勇者を襲った。性的な意味で。


 何も知らない推薦人による何の進展もない会議が続いている裏で、強制進展行為を行っていた。


 やればできる。


 そういう言葉がある通り、もしくは女神の思し召しか、勇者の種は三人の腹に根付くことになった。翌朝それを知った勇者は酷く狼狽することとなった。仲間三人に襲われたことか、三人の子持ちになったことか、どちらかは勇者のみ知るところ。けれど勇者の胆力がそれを為せたのか、男としての格の違いか、勇者は責任を取ると決めた。


 こうして会議は踊り、その裏で腰が舞う会議は終わった。


 当初こそマリッジブルーとマタニティブルーに襲われた勇者であったが、子供が産まれてからはいよいよ覚悟も決まり、妻を愛し、子供たちを愛で、家族を守った。各国の推薦人も、勇者が幸せそうにしているのに安堵しつつ、推薦相手たちがしでかしたことの謝罪として国として彼らの平穏を守らねばと覚悟することになった。


 この話はどこかから漏れ、その翌年には同じように襲われる野郎どもが続出し、けれど勇者ほどの覚悟持ちが少なく、泣き崩れる女性が国中で多発し、その対策に終われ、また会議が踊ることとなったそうだ。

面白ければポイント、感想をお願いします。

また、同日完結しました「野郎元気で馬鹿が良い~兄と妹のすれ違い日記~」も読んでみてください。

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