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9 ふぅ、少し早いが昼飯にしようぜ。ほうほうほーう、わざわざ弁当を俺達にね。ありがたく貰うぜその弁当。まあまあ美味いぜ、うん。料理初挑戦で頑張ったじゃねーか


 タリカンの実家、アットウッド子爵家にて。

 父親の部屋に呼び出されたタリカンは嫌な顔をしている。


「このバカが! お前は本当に出来の悪い息子だな!」


 年々前髪の生え際が後退している父親、パリカンが怒っているのには理由がある。

 タリカンは先日、崖の崩落で死んだと思われる見たことのないモンスターを発見した。

 ラッキーと思った彼は自分で討伐したことにして、新種のモンスター発見と討伐で報奨金を得ている。彼に支払われた報奨金は大金貨二十枚。しばらく遊んで暮らせると浮かれていたが、父親の生活費として八割を送った。


 問題が発生したのはつい昨日のこと。

 モンスターが死んでいた場所の崖崩れをタリカンのせいにされたのだ。

 解剖などを(おこな)って調査した結果死因は圧死。偶然だろうが必然だろうがタリカンは崩れた崖を見ているはずである。しかしそれを報告しなかった結果、ギルドから道路の整備代として大金貨一枚を請求されてしまった。


 大金貨二十枚も手に入れた後なら払えると誰もが思うかもしれない。

 残念なことにタリカンは手持ちの大金貨四枚を全て使ってしまい、頼みの綱であるパリカンも大金貨十六枚を使って家具を購入している。つまり、こんなことにはそうそうならないが、大金貨一枚の借金を負ったわけである。


「お前がつまらん女に貢いだり、大量の精力増強剤を買ったりするから金を返せなくなるんだ! しかも請求の理由はお前の不手際らしいではないか! 完全な自業自得、私からの援助はないと思え!」


「な、なんだよ父上、父上が高級家具なんて買わなければ金は残っていたでしょう!」


「私達の計画には必要な出費だ! 家の見栄えは良くする必要がある!」


 タリカンはパリカンから命令されてギルドに加入した。

 とある計画を遂行するため、手段を選ばずSランクにまで上り詰めた。


 アットウッド家は貴族にしては破産寸前であり、インテリアは必要最低限しか置かれていない。使用人は人件費削減のために三人まで減らし、食事も質素、生活の支えはギルドでの収入という有様。平民を招くならともかく、計画では家に王女を招く予定なので、家の見栄えを良くするのは必要だと理解出来る。


「……計画が上手くいけばフセットとの関係を認めてもらえますね?」


「妾としてならな」


「分かりました。金のことは自分で対処しますし、次の功績も挙げましょう」


 恋人との関係を認めてもらうため、無謀に近い計画を進めなければならない。

 個人的な理由のためにタリカンはパリカンへの嫌悪を今日も押し殺す。



 * * *



 アリーダ達『アリーダスペシャル(仮)』が活動してから二日目。

 森を進んでいたアリーダ達は休憩のため、木々に囲まれた場所に座ることにした。


「ふぅ、少し早いが昼飯にしようぜ」


 背負うバッグからアリーダは包装されたパンを取り出す。

 包装紙を破いてから齧り付き、いつもと変わらない味なので黙々と食べる。

 離れたところに座るイーリスも似たパンを食べ出した。しかし、アリエッタは弁当箱を三個用意してから落ち着かない様子で、食べ始めずにチラチラと隣のアリーダに視線を送り続けていた。


「どうしたアリエッタ、食べねえのか? 立派な弁当箱三つも持って来て……大食いだなあ」


「あ、えっと、私……私、アリーダさんとイーリスさんにお弁当、作って来たんです。迷惑でなければ食べていただきたい、です」


「ほうほうほーう、わざわざ弁当を俺達にね。ありがたく貰うぜその弁当」


 仕事中、村や町に辿り着かないで食事する時、ギルドの人間はパンやおにぎりなどで腹を満たす。弁当を作る者もいるが少数でかなり珍しい。面倒なのもあるが一番の理由は弁当箱の分だけ荷物がかさばるからだ。


 布で包まれた弁当箱をアリエッタから受け取ったアリーダは中身を確認する。

 弁当箱の半分を占める白米。形の整っていないハンバーグ。大小バラバラなミートボール。焦げ目の付いた厚焼き卵。ねっとりしたポテトサラダ。明らかに料理慣れしていない者が作ったと一目見て分かる。


 一緒に布に包まれていたスプーンでミートボールを取り、一口食べて苦笑した。

 可もなく不可もない、美味しいか不味いかで言えば不味い。味が濃すぎでバランス不足。


「エルさんに料理を教えてもらったんですけど……どうでしょうか?」


「まあまあ美味いぜ、うん。料理初挑戦で頑張ったじゃねーか」


「本当ですか!? 良かった、上手く出来て」


 無垢な少女を傷付けないためにアリーダは食事の手を止めない。

 本当は不味いと素直に伝えた方がいいのかもしれないが、頑張って作った物を不味いと言われたら誰だって辛い。料理が初めてだというならこれから上達していくだろう。今は隠し通し、上達を待つのが無難な選択だとアリーダは思う。


 嬉しそうに笑うアリエッタは立ち上がりイーリスのもとへ歩く。


「あの、イーリスさんもどうぞ」

「いらない」


 顔を見ることなく拒絶したイーリスにアリエッタは困る。


「えっと、でも」

「気遣いは不要だ。私は、君と馴れ合うつもりはない」


 寂しそうにアリエッタが「そうですか」と言い、アリーダの隣に戻る。

 今回を機にアリエッタはパーティーメンバーとの距離を縮めたいと思っていた。

 壁を感じず接しやすいアリーダはともかく、魔人への憎しみから壁を作るイーリスの態度は冷たい。必要最低限の会話をしてくれるだけマシかもしれないが、頻繁に敵意を向けられるのは居心地が悪い。理想だが全員仲良くなればアリエッタも気が楽になるだろう。


 せっかく距離を縮めようとしても、初めから拒絶されては徒労に終わる。

 予想以上に深い溝を感じたアリエッタは落ち込み、自分の分の弁当箱を開ける。


「……友達にでもなりてえのか?」


「はい。私は、お友達になりたいです。イーリスさんは、私を助けるためにモンスターと戦ってくれたんですよね?」


「そうだけど、魔人と分かっている今じゃ助けちゃくれねえぞ」


「構いません。差別に思うところはありますけど、人間には優しい人なんだと思います。心が優しいんです」


「根気強く関わるしかねえな。まあ、あいつの魔人拒絶状態を解除しなきゃ話になんねえがよ」


 悲しい面持ちのアリエッタはポテトサラダを食べる。

 ねっとりとした食感と濃すぎるマヨネーズの味でまさかと思い、おかずを一品ずつ一口食べていく。ハンバーグは少し硬く、厚焼き玉子は焦げた部分が苦く、ミートボールの味付けは濃い。最後に白米を食べたがこれは手を加えていないので美味しい。


「……アリーダさん、本当にお弁当、美味しかったですか?」


「美味かったってさっき言っただろ」


「……気を遣わせてしまって、申し訳ありません」


「いやいや、そんなことねえんだけどなあ」


 先程評価を誤魔化したのは作り手が食べることであっさりバレた。

 正直に言っても隠しても、どちらにせよ純粋無垢な少女は悲しむ運命にあった。



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