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7 ああそうだろうな、まあ落ち込むなよ。人生には必ず壁が現れる。そういった壁に何度挑んだって突き進めない時もある。俺は思うね、人間の誰もが持つ力は筋肉や魔法じゃない。努力という素晴らしい力なんだって


「ああ、ここがギルド。俺やイーリスが所属している組織さ」


 ギルドの前に立ったアリーダがそう言った。


「悪いが俺は用事がある。付いて行けねえからイーリスに案内してもらいな」

「えっ」

「なっ、私がか? 本当に用事があるのだろうな?」


 半目でイーリスが不審そうに見てもアリーダは平然としている。


「とても、とっても、とーても大事な用があるのさ。試験が終わる頃には戻るって」


 嘘を吐いていれば申し訳なさが態度か表情に出そうなものだが、彼の目には一点の曇りすらない。もっとも、嘘を吐き慣れている人間や申し訳なさを感じない人間など、観察しても分からない相手はいくらでもいる。きっと彼もそういった類いの人間なのだろうとイーリスは追求を諦めた。


 身を翻した彼は手を振りながら去って行く。

 黙って背中を見送った二人は状況を受け入れてギルド入口の方に向き直る。


「あの、イーリスさん。案内、よろしくお願い致します」


「……任せておけ。君は心の準備を済ませておくのだな」


 二人の会話はぎこちなさが滲み出ていた。

 アリエッタは敵意を感じており、イーリスは魔人への嫌悪がどうしても隠せない。


 ギルドの中に入ったイーリスへとアリエッタは付いて行き簡単な説明を受ける。

 一般人や騎士からの依頼が張り出されている大きな板がクエストボード。誰かが自分より上のランクへの依頼と間違えないように、しっかり依頼ランクごとにクエストボードが分かれている。やりたい仕事を見つけたら基本早い者勝ち。受付に行き簡単な手続きを済ませれば依頼を受けられる。仕事内容は様々なので自分に合ったものを見つければいい。


 アリエッタ達はギルド奥にあるカウンター、受付所へと向かった。

 受付所は四つの仕切りで分けられていて受付嬢が五人立っている。

 アリエッタ達が向かうのは一番右奥。誰かが依頼を出すためだったり、ギルドへの加入や脱退を手続きする場所だ。その一つ左はパーティーの結成や解散手続きをする場所。残る三つは所属する人間が依頼を受けるための場所である。


「すまない。ギルド加入試験を受けたいのだが」


 右奥の受付に居る焦げ茶色の髪の受付嬢、リリルへとイーリスが話す。


「イーリスさんですよね? あなたは既に加入済みですが……」


 リリルの視線はイーリスの横に移動していき、幼さ残る少女を見て「まさか」と呟く。

 見られたアリエッタはペコリと頭を軽く下げる。


「そのまさかだ。彼女に加入試験を受けさせたい」


「え、ええええ……大丈夫ですかねえ。とりあえず個人情報を記入してください」


 紙とペンがカウンターに置かれた。

 記入内容は様々だ。名前。年齢。性別。出身地。未成年だけが記入する保護者名。モンスターとの戦闘経験。武術や剣術など役立ちそうな特技。持病や要望などを記入する備考欄。そして最後に、仕事中に何があっても自己責任であり、ギルドは責任を一切負わないという内容にチェックする必要がある。


 指示通り書くアリエッタだがカウンターが高くてとても書きづらい。大変そうにしているのにイーリスは助けてくれないが、リリルが書きやすい場所に移動するよう助言してくれた。傍にある椅子の上で書いたアリエッタは笑顔で提出した。


「アリエッタさんですね。……あの、備考欄に記憶喪失って書いてあるんですけど」


 受け取った書類に目を通すリリルに困った表情が浮かぶ。


「事実だぞ」

「はい、私は記憶喪失です」


「はいじゃなくて正気ですか!? 記憶ない子供に危ない仕事させられませんよ!」


「記憶喪失といっても自分に関する記憶がないだけだ。日常生活に支障はない」


「いや、あの、はあ、ヤバい。ストレスがヤバい」


 リリルは今日が厄日だと思い落ち込む。

 受付担当は毎日ローテーションで変わる。まさか自分が担当の日に、こんな特殊な人間がやって来るとは思わなかったのだ。先日はアリーダとの会話でストレスが溜まり、今日もこの仕打ち。もはや彼女の胃に穴が空くのも時間の問題だ。


「……冷静になれ。試験に合格出来るとは限らない」


 頭を悩ませているリリルにイーリスが耳打ちする。


「そうですか? そうですね。そうですよね」


 自分を何とか納得させたリリルは営業スマイルを作り出す。


「お待たせしましたアリエッタさん。今から試験用の場所に案内しますね」

「はい!」


 ギルドの奥にある扉から建物の外に出ると広い更地に出た。

 更地の奥には分厚く高い壁が(そび)えている。

 一度リリルが二人を置いてどこかに行くと、戻って来た時には二つの物体を持っていた。その内の一つ、猫耳女性の鉄人形を地面に置いた彼女は、左手で持っていた球体を両手で持つ。


 属性適性調査玉。

 特殊素材を使用した球体で、触れた生物の使える魔法属性が分かるという優れ物。

 属性適性の判別方法は色だ。生物が触れた後、属性ごとに決まった色で玉が輝く。


「まずは魔法の属性適性を調査しますね。この玉に触れてみてください」

「はい」


 魔法の属性は火、水、土、雷、光、闇、生命の七種類。

 アリエッタが玉に触れて数秒後、玉は赤と青に光り輝いた。

 赤は火属性。青は水属性。つまりアリエッタは二属性の魔法が使える。


 世間的に一属性は魔法使いとして普通。

 二属性も適性があれば十分才能があると褒められる。

 三属性は超優秀だが千人に一人と言われる程に少ない。

 四属性以上は奇跡そのもの、神の使者とすら言われる者も存在する。


「おお凄いですねー、魔法の才能ありますよ。使える属性は火と水ですね」


「やりました! じゃあ、試験は合格ですか!?」


「残念ですけどもう一つあります。次は、この人形と模擬戦を(おこな)ってもらいます」


 リリルが猫耳女性の鉄人形を地面から拾い上げ、更地の中心に移動させる。


「そのお人形さんと、ですか?」


「待ってくださいね。今すぐ起動させますので」


 女性型の鉄人形はギルドマスターが作成した戦闘用人形。

 頑丈さは折り紙付きで鋼鉄の剣でも傷一つ付かず、どんな属性魔法にも耐性を持つ特殊金属なので上級魔法にも耐えられる。量産さえ出来れば国に騎士やギルドの人間が必要なくなるかもしれない。


「あ、動きましたよ!」


 鉄人形が動き出す。

 自らの足で立ち、格闘家のように拳を構えて戦闘態勢に入った。


「十秒経ったら模擬戦を始めるので準備してください」


 鉄人形から離れた位置でアリエッタが待機すること十秒。


「――〈灼熱太陽(プロミネンスノヴァ)〉!」


 模擬戦が始まった瞬間、更地で巨大な火柱が生み出された。

 地面が赤く染まり、グツグツに煮込まれたように溶けている場所もある。

 鉄人形に傷はないが融解した部分に居るせいで動いては沈む。


 危なくなったら止めようと考えていたリリルや、どうせ合格しないだろうと思っていたイーリスは度肝を抜かれた。誰もこんな結果を予想出来ていない。意外なことにアリエッタは、とんでもなく強力な魔法使いだと意図せず二人に知らしめた。


「……こ、こりゃ、合格ですわー」


 記憶喪失の少女アリエッタ。ギルド加入試験、無事合格。

 灼熱地獄と化した大地で彼女は満面の笑みで喜ぶ。

 試験終了後、簡単な仕事の説明を受けてから彼女は正式にギルドへと加入した。


 合格してルンルン気分な彼女がギルドの外へ出た時、タイミング良くアリーダが帰って来ていた。いや、彼女からすればタイミングは良くない。出来ることなら試験に挑んだ勇姿を見せたかったのである。


「アリーダさん! 私、合格しました! 一緒にお仕事に行けます!」


「ああそうだろうな、まあ落ち込むなよ。人生には必ず壁が現れる。そういった壁に何度挑んだって突き進めない時もある。俺は思うね、人間の誰もが持つ力は筋肉や魔法じゃない。努力という素晴らしい力なんだって」


 自分の世界に入り込んでいるアリーダは不合格と思い込んでいる。

 全く話が噛み合っていないのでイーリスが名前を呼び、合格したぞと教える。


「……えっ、合格? マジ? 合格しちゃったの?」

「はい!」


 笑顔のアリエッタを見てアリーダは苦笑いを浮かべた。

 さっきまで絶対不合格と思っており、落ち込むだろう彼女を慰める準備までしていた。


「ん、アリーダ、その手に持っているのは何だ? 用事とやらに関係しているのか?」


 アリーダが手に持っているのは紙で作られた箱。

 気になる中身はドーナツ。

 不合格な予定のアリエッタを慰めるために買っておいた物である。


「人気店のドーナツだ。不合格だと思って……間違えた、合格だと俺は最初から信じていたからな! 有名なドーナツ屋のドーナツを合格祝いで買っておいたのさ! さあ早いとこ三人で食べようぜ!」


 アリエッタはさらに喜び、真実を知るイーリスは呆れた目を向けた。

 目論見が外れたアリーダは大声で笑った後、誰にも聞こえないように「ちくしょー」と呟いた。


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