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62 最強の魔法使い①


 巨大な土壁が徐々に迫って来るのでアリーダ達は走って逃げる。

 二十秒は経った頃、土壁は一気に崩れて破片がアリーダ達へと降り注ぐ。

 為す術なく土塊に埋もれたアリーダ達だが、両手で土塊を掘り進めてすぐに脱出した。服と体が土で汚れたアリーダは「汚えなあ」と呟き、クビキリと共に敵を見据える。


 フセット達を止められなかったのは仕方ない。

 仲間を信じて自分の敵に集中する。まずは勝つことが最優先だ。


「さあ、君達の相手は僕だよ。遠慮はいらない。持てる全てを使え」


「上から目線がムカつく野郎だぜ。ぶちのめした後で見下ろしてやろうか。おいクビキリ、お前からも何か言ってやれよ。ぶっ殺すぞロン毛野郎とか、歯を全部叩き折ってやるとかよお」


「確認したい。貴様は……フェルデスなのか? 村を襲ったのは貴様なのか?」


「あれ、今更訊くの? てっきり分かっているものだと思ったのに。もしかして記憶力悪いのかな。僕はしっかり覚えているよ。君の妹の体、君の目の前で斬ってやったろ」


 アリーダの頭の中で全てが繋がっていく。

 離れた場所に立つ白髪の男、フェルデスはコエグジ村を滅ぼした組織の一員。

 しかし、クビキリが復讐対象を間違えていたと言ったことや、先程アンドリューズが『偽りの騎士共』と告げたことから騎士団ではない。つまり何らかの組織が計画的に事件を起こして、魔人達の怒りが騎士団に、それを動かす国に向くよう仕向けたのである。


 さらに、謎の組織は政治に深く干渉出来る可能性が高い。コエグジ村を滅ぼすよう命じたのも、今回指切りを実施するよう命じたのも国王だ。国王本人か大臣、もしくは彼等に入れ知恵出来る人物が組織に居る。フェルデス以外は堂々と騎士の鎧を身につけ、指切りを(おこな)っているからこそ確信している。高い地位の人間から頼まれたはずなのだ。


 さらにさらに、謎の組織は帝国大臣と繋がっている可能性が高い。

 コエグジ事件を起こした目的が魔人の怒りを王国へ向けることなら、魔人に王国を襲わせたい思惑が透けて見える。単独ならともかく、魔人が集団で王国を襲えば戦争に発展しかねない。戦争を起こす目的を持つ者をアリーダは一人知っている。帝国の大臣、ムーランだ。


 ムーランには王国側に協力者が居るとアリエッタから聞いたことがある。

 その協力者が謎の組織だとすれば……全てが繋がる。

 現時点では可能性の話にすぎないがほぼ間違いない。


「やはり貴様だったか。貴様だったのかあああああああああ!」


 激昂したクビキリがフェルデスへと一直線に駆けていく。

 アリーダとの戦いで最後に見せた加速を最初から使っている。


「――〈雷光爆(ライガガン)〉」

「また上級魔法か!」


 フェルデスが雷属性の上級魔法を放つ。

 クビキリの前方を中心に電気の塊が発生して、一気に拡大。


 凄まじい電気の球体が広範囲を包む。離れているアリーダさえ余波で指先が痺れる程の電撃。まともに喰らって悲鳴を上げるクビキリに、どれ程のダメージがあるのか想像も付かない。


「ぐああああああああああああああああああああああああああ!」


 電気が霧散すると、その場には体を焦がしたクビキリが立っていた。

 満身創痍な彼を見てフェルデスは心底ガッカリしたようにため息を吐く。


「残念だ。君を生かしておけば面白い戦いが出来る……そう思っていたから生かし、憎悪を僕に向けさせたってのに。これならまだアンドリューズの方が楽しめたね。君には失望させられたよ。死んでよし」


 クビキリは両膝を地面に付き、そのまま倒れてしまった。


「……クビキリを、一撃で」


 目の前の光景がアリーダには信じ難い。

 今までクビキリのしぶとさを見てきたのだ。いくら上級魔法といっても、たったの一撃で簡単に意識を奪えるはずがない。……ないのだが、起こってしまったなら受け入れるしかない。実際フェルデスの魔法は凄まじい威力。まともに喰らえば死ぬと考えておいた方がいいだろう。


「俺が一度でも喰らえば即死かもな。こいつは、かつてない強敵だぜ」


「さて、次は君だアリーダ・ヴェルト。君には期待している。そこの炭と同じになってくれるなよ」


「ああ? 期待してるねえ。お前、俺のことを知ってんのかよ」


 フェルデスはアリーダの顔を見ても誰か分かっていなかった。フセットが説明してようやく誰かを理解している。そんな人間がアリーダの何に期待を寄せているというのか。


「知っているとも。僕と同じ才能を持つ人間なのだから」


「同じ才能?」


「君も僕も全属性の魔法適性を持つ。さあ上級魔法で派手に殺し合おう!」


「……そういうことか」


 アリーダは自分の何にフェルデスが期待しているのかを理解出来た。

 世界で三人しかいないと言われる全属性の魔法適性を持つ魔法使い。その内二人が今、面を合わせて向かい合っている稀な状況。競い合えるライバルと会えてフェルデスは子供のようにはしゃいでいる。同じ才能を持つ者なら自分と対等に戦えるはずとフェルデスは思っているのだ。……アリーダが下級魔法しか使えないことも知らずに。


「どうしたやる気が出ないのか? アンドリューズは最期まで戦い抜いたのになあ」


「野郎、挑発のつもりか! いいぜ、その安い挑発に乗ってやるよ!」


 先程のクビキリ同様アリーダも一直線に敵へと駆けて行く。

 普通なら上級魔法使い相手にただ走って向かうのは自殺行為。

 アリーダは挑発に怒っているが、そんなことくらい理解している。

 そう、相手の心情を無視すれば自殺行為だ。


 フェルデスは万全な状態でアリーダと戦いたいと思うはずである。正常な判断が出来ないように見せかければ、いきなり上級魔法で仕留めはせず、落ち着かせるために手加減して魔法を放つ。


「やれやれ、挑発は失敗だったか。少しは頭を冷やせ。〈岩石射出(ロックドン)〉」


 想像通りフェルデスが使ったのは中級魔法。

 岩石を無から生み出し、勢いよく撃ち出す土属性魔法だ。


 勢いよく四つの岩石が飛来してきたので躱そうとするが、三つ躱したところで四つ目に衝突。咄嗟に両腕で防御したものの腕が折れそうな威力だ。為す術なくアリーダは吹き飛ばされて地面を転がる。


「魔法も使わず突っ込むだけなんて魔法使いらしくないぞ」


「うるせえ。俺はお前をぶん殴る! 近付かなきゃ殴れねえだろうが!」


 再び立ち上がったアリーダは走り出し、フェルデスがため息を吐く。


「近付けば殴れると思っているのか? 怒りで我を忘れた君のパンチなんて躱すのは容易い」


 全速力で距離を詰めたアリーダはフェルデスに殴りかかる……と見せかけ。


「うおおおお! 〈砂生成(サンドーラ)〉からの〈突風(ウィンドーラ)〉!」


 打撃を警戒していたフェルデスにとっては予想外。

 驚きで思考が遅れ、砂を風で飛ばす目潰しに対処出来ない……はずだった。


「〈大暴風(トルネドン)〉」


 いきなり人間が地面から浮くような強風が吹き荒れる。

 アリーダが放った砂と風は瞬く間にアリーダごと吹き飛ぶ。


「目潰しが狙いだったか。小狡い奴だな。目潰しするにしても下級魔法なんてゴミを使うとは驚かされたよ。狙いが目潰しならこれを使えばいいだろう。〈砂嵐(シムンガガン)〉」


 直径一キロメートルにも及ぶ広範囲に砂嵐が発生した。

 この付近には存在しない細かい砂が激しく宙を舞い、大量の砂がアリーダを襲う。目に、鼻に、口に、服の中にまで砂が入り込んで気分が悪くなる。さらに砂を舞わせる強風は先程の〈大暴風〉以上の風量であり、アリーダは体を浮かされて地面に叩きつけられる。


 三十秒は砂嵐が吹いただろうか。風が止んで少し経った時、付近一帯が砂漠のように砂に覆われ、草原に生えていた草木は水分を奪われて枯れかけていた。上級魔法は環境すら容易に変えてしまう。


「ぐああああ! くっそ目が痛え! 〈水流(ウォーターラ)〉!」


 アリーダは手から水を出して目や口の中から砂を洗い流す。

 洗浄に集中して隙だらけなアリーダへとフェルデスが歩いて来る。


「へっ、近付いていいのかよ。〈電撃(ボルトーラ)〉!」

「〈大電撃(サンダドン)〉」


 アリーダが指先から細い電気を放出するが、フェルデスは手から極太の電気を放出。人間をも呑み込むような太さの〈大電撃〉に〈電撃〉は呆気なく掻き消され、アリーダは電気に呑まれて「ぐあああ!」と絶叫した。

 全身が痺れたアリーダは地面に仰向けで倒れた。



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