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5 な、何いいいい!? 記憶喪失だとおおおおお!? じゃああれだ、強い衝撃を与えれば元に戻るんじゃねえか? 定番だよな? よし試しに俺が頭突きしてやるから頭貸しな


 正午近くに孤児院へと辿り着いたアリーダ達はエルに事情を説明する。

 事情を知ったエルはすぐに魔人の少女の治療を開始。

 一分も掛からず完治した少女だったが目覚めないので、院長室のベッドに寝かせて様子を見ることになった。


「いやあさっすがシスター。いとも簡単に重傷を治すとはな」


「驚きました。まさか生命属性の上級魔法を扱えるとは」


「ふふ、若い頃に色々あったからね」


 生命属性は適性のある者が少なく、上級魔法を扱える者は世界でも極一部と言われている。さすが上級魔法というべきか重傷を傷痕も残さず完治出来ている。どれだけ深い傷を負っていても、死んでさえいなければ治せる程に上級の生命魔法は素晴らしい。


「アリーダ、イーリスさん、この子が起きたら知らせるから出て行っても良いのよ」


「いえそれは出来ません。魔人の監視はしなければ」


「じゃあ交代制にしようぜ。俺はギルドに依頼達成を報告した後でチビ共の面倒見るから」


 アリーダは院長室の入口へと歩く。


「私一人に監視を任せていいのか?」


「お前一人で十分だろ。何かあったら呼んでくれ」


 後ろを見もせずに手を振ったアリーダは部屋を出て行った。

 魔人を憎むイーリスに監視を任せたことや、自分が監視すると言っておきながら退室した彼にイーリスは苛つく。信頼は嬉しく思うが、彼の責任感の弱さが評価を下げる。用事がギルドへの報告だけなら仕方ないので評価は下がらなかったのだが。

 一先ず任されたからにはエルを守らなければとイーリスは気を引き締めた。


「いい加減な人だと思う?」


 エルの問いかけにドキッとしながらもイーリスは答える。


「……ええ、まあ。楽観的な男だなと」


「確かに楽観的だけどね。優しくて思いやりのある自慢の子よ」


 孤児院に到着した時、アリーダが孤児院で育ったことをイーリスは聞いた。

 ギルドで働くのは孤児院の助けとなるためであり、収入の七割を孤児院に寄付しているのも本人から語られている。優しくて思いやりがあると言うエルを否定は出来ない。魔人の少女を助けようとした時も持ち前の優しさを発揮したのだろう。もしくは、孤児院暮らしだったため子供に甘いだけかもしれない。


「目に見えないものを大事にしろと彼に言われました。恩人の言葉だとも。彼の言う恩人とはあなたのことでしょうか」


「そうらしいわね」


「……私の家庭は魔人のせいで崩壊しました。魔人というだけであの少女も憎い。魔人を憎むのはいけないことでしょうか。私は危険な存在を排除しようとしただけです。きっとあなたもアリーダも、あの少女を救ったことを後悔します」


 本心からの忠告だ。イーリスは本気で少女を危険と思っている。

 今はアリーダの覚悟や信念を尊重して殺さないが、本当なら今すぐこの場で殺したい。


「憎むのは罪じゃないわ。でも、魔人全てを憎むのは良くない。嫌悪も、憎悪も、怒りも、強すぎる感情は視野を狭めてしまう。答えを間違えてしまうかもしれない。あなたは一歩引いた視点で物事を見て考えたことがある?」


「……さあ、よく分かりません」


「イーリスさん、感情に振り回されてはダメよ。未来を決めつけるのもダメ。あなたは自己完結する節があるみたいだから、結論を出すのを遅らせてみて。もっと冷静に観察して他者の評価を決めることをオススメするわ」


「……心には留めておきます」


 エルの言うことはイーリスにも理解出来る。

 感情的になれば過ちを犯してしまうかもしれない。

 一度そうだと思ったことを思い直すことはほぼない。

 常に正しくあろうとしている自分が正しいとイーリスは思っている。

 いくら結論を遅らせても、魔人の少女を観察しても、魔人への評価を改めることは決してないだろう。


 会話の後は沈黙が続き、時間だけが過ぎていく。

 イーリスとアリーダで交代しつつ監視を続けて半日が過ぎた。


「――う、うう」


 夜遅い時間、エルでもイーリスでもない幼い声が二人に聞こえた。

 ハッとした二人の前では、魔人の少女が「うーん」と呟きながら起き上がる。

 警戒したイーリスが剣の柄に手を添えてエルの前に出た。

 少女は現状に困惑した様子で辺りを見渡した後、二人に向かって口を開く。


「あ、あの、ここは、どこでしょうか?」


「ヒュルス王国城下町にある孤児院よ。あなたは傷だらけで倒れていたの」


「……ヒュルス王国!? え、えっと、そうなんですか」


 反応が薄い少女は俯き、何かを考え始めた。


「イーリスさん、アリーダを連れて来てくれるかしら」


「あなたを魔人と二人きりにさせるのは危険でしょう」


「大丈夫。何かあったら大声で呼びますし、これでも私強いのよ」


「……大声で呼びましょう。何かあったら呼べと言っていましたし」


 イーリスが少女に視線を向けたまま入口の扉へと歩く。ドアノブを回して扉を開き、アリーダの名前を叫ぶ瞬間だけ少女から視線を外してすぐ戻す。警戒を続けたままイーリスはエルの前へと戻り、臨戦態勢のまま待機する。

 ドタバタと慌ただしい足音が聞こえて院長室の扉が勢いよく開かれた。


「何があったイーリス! シスターは無事か!?」


 入室した紫髪の筋肉質な男、アリーダが部屋を見渡す。


「魔人が目を覚ましたぞ。警戒はしておけよ」


「そんなこと見りゃ分かる。何だよそれだけか、怪我でもしたのかと思ったぜ」


 危機を想定していたアリーダは安心してエルの傍に立つ。

 新たな人間の登場に少し怯えている少女にエルは優しく微笑む。


「怖がらないで。私はエル、孤児院の院長をしているわ。金髪の彼女はイーリス、この男性はアリーダ。あなたに危害を加えるつもりはないから安心して。あなたの名前を教えてくれる?」


 不安を取り除くような優しい口調だが少女は答えない。

 何かに気付いた少女は困惑の表情で頭を抱え、一気に不安が顔に表れる。

 挙動のおかしい少女を不思議に思うエルが「どうしたの?」と問う。


「……わ、分かりません。名前も、家族も、住んでいた場所も思い出せないんです」


「つまり……記憶喪失、かしら」


 衝撃の事実に全員が驚愕する。


「な、何いいいい!? 記憶喪失だとおおおおお!? じゃああれだ、強い衝撃を与えれば元に戻るんじゃねえか? 定番だよな? よし試しに俺が頭突きしてやるから頭貸しな」


「止しなさいアリーダ。しかし困ったわね、自分のことが分からないのは不便だわ。ねえ、何かあなた自身のことが分かる物を持っていないかしら。少し探してみてくれない?」


 少女は言われた通り、自分の存在を証明出来る物を探す。

 ベッドの上には何も落ちていなかったが、諦めたくなくて青紫のドレスの中まで見ようとする。襟を引っ張って小さな胸を確認したり、裾を捲って下半身を確認したりした。色々と探る少女は最後に尻尾を手で触っている途中「あ」と声を上げる。

 若干笑みを浮かべた少女は手にペンダントを持っていた。


「えっと、ペンダントが尻尾に絡まっていました」


「ロケットペンダントね。少し見せてくれる?」


「はい」


 少女からペンダントを受け取ったエルはじっくり観察する。


「ロケットなのに歪んでいて開けられないわね。あら? 裏に名前らしきものが掘ってあるわ。アリエッタと書いてある……きっと、これがあなたの名前ね。仮に違ったとしても記憶が戻るまでアリエッタって名乗れば良いと思うわ」


「……アリエッタ、ですか。私は……アリエッタ」


 少女、アリエッタは自分の名前を嬉しそうに呟く。

 思い出は蘇らなくても、名前だけでも判明した事実は不安を少し和らげる。


「アリーダとアリエッタ、なんだか名前が似ているし兄妹みたい。あなたが面倒見てあげなさい」


「ああ確かに似ている……って何だとおおお!? 御免だぜ俺は、こんなガキの面倒俺が見ろってのか!? 魔人だって誰かにバレたら一緒にいる俺も厄介事に巻き込まれちまうじゃねーか!」


 全力で拒否するアリーダの言葉と態度でアリエッタは涙を流す。


「そう、ですよね。ごめんなさい。私、邪魔ですよね」


「おい泣くんじゃねえよクソガキ! 俺はすぐ泣く奴が大っ嫌いなんだ! 涙見せれば助けるんだろって言われているみたいで腹が立つ! 今すぐ泣き止まねえとお前の角引っこ抜くぞ!」


 アリエッタの黒い瞳から零れる涙の量が倍増した。

 幼さの残る少女を泣かせたことで、エルがアリーダへと責める目を向ける。


「う、うぐっ……分かったよ。分かった分かった分かりましたよっと。俺が面倒見りゃいいんだろー。こいつの記憶が戻るまで、こいつの家や家族が見つかるまで!」


 渋々だがアリエッタの面倒を見るのをアリーダは承諾する。

 涙の量が段々減っていくアリエッタは、鼻水を啜りながら感謝の言葉を述べた。


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