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下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~  作者: 彼方
一章 追放と罰~パーティーを追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
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※IF世界 落ちぶれたタリカン

 この話は本編に全く関係の無いIFになっています。

 追放といえば『ざまあ展開』。期待していた方も居ると思い、専用の話を作ることにしました。『ざまあ展開』が好きな方にこの話を捧げます。本当に『ざまあ展開』になっているのか不安ですがとりあえずタリカンが嫌な目に遭います。












 王都の酒場で一人の男が浴びるように酒を飲んでいた。

 男の名前はタリカン・アットウッド。彼は一人で酒を飲んでいて、バニーガール姿の店員に愚痴を零す。聞かされている店員は以前もこんな客が居たなと思いながら彼の愚痴を聞き流している。


「俺が、俺が、何をしたってんだ。父さんに言われた通り生きてきたじゃねーか。フセットのことを本気で愛しているから、結婚を認めてほしかっただけなのに。だから父さんに従い続けてきた。計画を成功させたら認めるって言ったくせに。王女に計画がバレたからって簡単に俺を切り捨てて、勘当までしやがって。酷いだろ!?」


「そうですねえ」


「貴族連中からは貴族の恥部なんて言われるし、ギルドも上層部が俺のパーティーのランクを下げやがるし、どうすりゃいいんだよ俺はよお! 幸福を呼ぶって壺は何の効力もねえしよお! 金返せよ畜生があああ!」


「どうすればいいんですかねえ」


 先日、タリカンの実家、アットウッド家をミルセーヌ王女が訪問してきた。

 なぜか彼女はタリカンがこれからやろうとしていたことを全て知っており、わざわざ家まで確認しに来たのである。確認とは計画がタリカン一人によるものなのか、はたまた親子によるものなのか。答えによって処罰を受ける人数が変わる。父親のパリカンは自分の身と家の安全を優先して、タリカンに全責任を押し付けて勘当した。正に蜥蜴の尻尾切りである。幸いミルセーヌが勘当は十分な罰と認めたため、それ以上の罰を受けることはなかった。


 貴族という後ろ盾を失ったタリカンを待っていたのは転落人生。

 上町、通称貴族街への立ち入りを禁じられただけではない。ギルドでは今まで無視されてきた実力面を問題にされ、SランクからBランクまで降級してしまった。Cランクにまで落とされなかったのは、一応Bランクでもやっていける力はあると判断されたからだ。状況的にはまだ転落しきっていないと言える。


 ここ数日でがらりと変わった人生を嘆いてタリカンは酒を飲み続ける。


「おーい、アッパーエールもう一杯追加してくれえ。今日は朝まで飲むぞお」


「はーいアッパエール追加注文頂きました! 少々お待ちくださーい」


 店員が傍を離れると、タリカンはテーブルに顔を伏せる。

 今はもう何も考えたくなかった。酔って全てを忘れたかった。



 * * *



 翌朝。いつの間にか寝ていたタリカンは酒場の外で目が覚めた。

 限界を超えて飲んだ結果、酔い潰れて寝てしまったのだと理解した。外に居るということは閉店時間に起きなかったから放り出されたのだろう。

 財布を見てみるとしっかり金は抜き取られている。これが酒場の人間にか、下町の盗賊にかは不明だが所持金が八割程も消えていた。


 二日酔いで気分は悪いが一先ず宿に帰る。

 タリカンは現状を仲間に報告しなければならない。本当は報告したくないが、平民落ちしたことはともかくパーティーランクが落ちたのは報告する必要がある。


 宿屋の部屋に暗い顔で戻ったタリカンは目を丸くした。

 部屋には誰も居ない。自分が泊まる部屋には恋人のフセットが居たはずだが静かだ。

 隣室にはジャスミンが宿泊していたはずだが彼女も部屋に居ない。彼女の場合は朝早い時間からトレーニングで不在なことが多いので気にしない。どうせ今日も草原でフィジカルアンチスライムを殴っている。


「……何だ、誰も居ないのかよ。フセットの奴、どこに出掛けたんだ?」


 フセットの行き先に心当たりはないがとりあえずタリカンはギルドに向かう。

 宿屋までも道のりでは二日酔いのおかげで気付かなかったが、町中の人間がタリカンを見てはヒソヒソと密談をしていた。今は酔いが少し醒めてきたので誰かしらの声がよく聞こえる。居心地が悪く、つい早歩きになってしまう。


「……は?」


 早歩きでギルドに向かっている途中、タリカンは驚愕で動きが止まった。

 タリカンが宿泊中の宿屋とは別の宿屋から水色髪の女性、フセットが出て来た。男を横から抱きながら。


「な、何してんだよフセット!」


 恋人が自分以外の男に抱きついている光景に、思わずタリカンは大声を出して駆け寄る。

 タリカンに気付いたフセットは慌てて男から離れて笑みを浮かべる。


「や、やっほータリカン。ごめんね昨夜は一人にして。寂しかったでしょ」


「その隣の男は誰だよ! お前まさか、浮気してるんじゃないだろうな!」


「違うってば。ちょっと相談に乗ってもらってただけ」


「そうそう相談に乗ってやったんだよ俺が。一晩体を使わせてもらう条件で」


 一晩、体を……つまりそういうことだ。フセットは他の男と性行為したのだ。

 暴露されたフセットは「ちょっと!」と慌てているが気にせず男は喋り続ける。


「いやー良かったぜ彼女とのセックス。腰使いエロいし、おっぱい大きいし、良い女だよ。彼女も俺の体を気に入ったみたいで喘ぎまくってたぜ。俺達相性抜群かもな。ほんと、お前みたいな男には勿体ないね」


 ショックが大きすぎて『腰使いが』あたりから頭に入ってこなかった。


「や、約束は守ってくれるんでしょうね」


「約束? 何の話だか。俺は相談に乗っただけだぜ」


 高笑いしながら男は去って行く。フセットは「なっ」とショックを受けて男を睨むが、タリカンの存在を思い出して慌てて顔を向ける。


「し、信じてタリカン。私、あいつに騙されたの。もうこんなことしないから許して!」


 愛していた者に裏切られた衝撃はタリカンにとって大きすぎるもの。

 しばらく脳内で処理しきれずにいて、その間ずっとフセットは言い訳を述べていた。当然頭に入ってこないので意味がない。

 ようやく事実を受け入れたタリカンは歯を食いしばる。


「この裏切り者があああ! 二度と俺の前に現れるな!」


 走る。走る。走る。

 フセットとはギルドに所属する前からの付き合いだった。父親と出掛ける時、ギルドからの護衛としてやって来たのがフセットだったのである。年齢は彼女の方が六つも上だったが、話をしている内に仲良くなっていった。


 ギルドに所属してからは彼女と毎日のように会い、Sランクになってからパーティーに誘った。仲間が欲しかったのもあるが一番の理由は彼女と一緒に居たかったからである。すぐ恋仲となった二人は互いを愛し合い……今、愛は粉々に砕け散ってしまった。


 心に大きな傷を負ったタリカンは走り続け、やがて草原に辿り着く。

 無意識で草原へと向かっていたようだが考えれば理由は分かる。

 草原にはジャスミンが居る。大事な恋人に裏切られた今、タリカンにはジャスミンしか仲間がいない。誰かに全て話したくて、慰めてほしくて、頼り甲斐のある彼女のもとへ向かっていたのだ。


「ジャスミン! ジャスミン!」

「ん? タリカンか、丁度いいところに来たね」


 鋼の鉢巻をした赤髪の女性がタリカンの方へと振り向く。

 直前まで黒い楕円形のスライムに打撃を叩き込んでいたがそれは止まった。


「聞いてくれジャスミン、実は――」


「待った! 先にアタシの話を聞いてくれ。アタシ、パーティー抜けるわ」


「なっ、は、はああああああああ!? 何でだよ!」


「悩んだんだけどね。Bランクに落ちたんでしょ? Sランクのモンスターと戦えないならパーティーに居る意味ないかなって。まだアリーダが居てくれたら面白いから残っても良かったんだけどね。あいつは、タリカンが追い出しちゃったでしょ?」


 ジャスミンは「じゃあね」と手を振り、目にも留まらぬ速度で走り去る。

 パーティーからの離脱にはリーダーの承諾が必要だが、ジャスミンはもう仕事に来ないだろう。仕事に来ないのなら離脱したも同然。名前だけパーティーに所属していても無意味なので、結局離脱に同意することになる。


 一人だ。タリカンは一人になってしまった。

 人生の目標がない今、一人では何のやる気も出ない。


「……アリーダ、か」


 タリカンは自分が追い出した紫髪の大男を思い出す。

 下級魔法しか使わず、努力せず、才能を風化させようとしている彼は嫌いだ。しかし、思えば彼がパーティーに居た時期は全て上手くいっていたかもしれない。もし彼を追放せず、同じパーティーに居させていたら、今のような状況にはならなかったかもしれない。


「……そうだ、連れ戻そう。アリーダさえ連れ戻せばジャスミンも来てくれる。そうだよ、それにあいつだって戻りたがっているはずだ」


 アリーダさえ居れば上手くいく。いつの間にかそんな思考になっていた。

 微かな希望を頼りにタリカンはギルドへ行き、アリーダを見つけて歩み寄る。

 彼は彼の仲間、黒髪の少女、金髪の女性と共にギルドのテーブルで談笑していた。


「アリーダ! おいアリーダ!」


「ああ? 何だタリカンか。嫌な顔を見たぜ」


「特別にお前を許してやる。また俺のパーティーに入れてやるよ」


「……頭でも打ったのか?」


 想像していた反応と違ったのでタリカンは「あれ?」と首を傾げ、あることに気付く。

 もうタリカンのパーティーはSランクではない。アリーダと同じBランク。旨味がない。

 マズいと焦っていると、アリーダの仲間からは軽蔑の視線が送られてしまう。


「自分で追放しておいて今更戻って来いとは。自分勝手な男だな」


「アリーダさんは戻りませんよ。あなたのような酷い人のところには」


「そういうこった。悪いなタリカン、俺はもう新しいパーティーでSランクへ行くって決めたからよ。邪魔しねえでくんねえかな」


「う、うるせえ、力尽くでも戻ってもらうぞ!」


 タリカンはアリーダに殴りかかるがあっさり受け止められて、強烈な裏拳で反撃される。鼻が曲がったと思う程強烈な一撃にたまらずダウンしたタリカンは、アリーダから見下されるのを感じつつ意識が遠くなっていく。


「忘れたのか? お前は俺に一度も喧嘩で勝ったことがねえってことを」


 アリーダ達が離れていくのをぼやける視界に映しながらタリカンは気絶した。


 その後、孤独となったタリカンは生きる目的を失い、ただ何となくギルドの仕事で金を稼いでは酒代につぎ込む日々を過ごす。新たな仲間には出会えず、Bランクからのランクアップもなく、ひたすら一人で生き続ける。


 ……さらに月日が経った頃、タリカンはアリーダがSランクに到達したと知った。

 毎日通う酒場でアルコール度数の高い酒をタリカンはつまらなそうに飲み干した。










 少し休憩してから二章を始めます。


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