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下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~  作者: 彼方
一章 追放と罰~パーティーを追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
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 名もなき村でアリーダ達は一夜を明かした。

 アリエッタが気絶してしまったので帰れず、各々別々のテントで休ませてもらった。アリエッタの様子を見る係はネイと彼女の母親に決まったので、アリーダはしばらくの時間アリエッタの顔を見ていない。


「……あれは」


 早朝。アリーダは村の端、海の傍で佇む黒髪の少女を見かけたので近付く。


「体調はもういいのか?」


「……ええ。すっきりとした気分です」


 振り返らず、海を眺めたままアリエッタは答えを返す。

 彼女の雰囲気に違和感を覚えたアリーダは何を言っていいのか分からず、中々口を開けない。二人が何も喋らずに数十秒が経過した。


「記憶、戻りました」

「……そうか」


 薄々そんな予感はしていた。昨日倒れたのは脳が刺激を受けて、どこかへ追いやっていた記憶を正常な位置に戻したのだ。本当ならアリーダはここで喜び、笑いながら祝うべきだと分かっている。しかし、年相応な子供っぽい雰囲気が薄くなったアリエッタを見て、今まで共に過ごした彼女が変化したのを理解して、言葉を告げず別れたような寂しさが心に蔓延っている。


「デモニア帝国皇帝ゴルゴートの娘、それが私です。人間が敵視する魔人の国の皇族、それが私です。今まで、ありがとうございました。記憶を取り戻した今、私は帝国へ帰らなければいけません。まだやり残したことが山程あるんです」


「か、帰るのか。いや、当然、だよな。皇族なんだし」


「ええ、皇族です。皇族としてやらなければならないことがあります」


 皇族は国の頂点の家系。歳上の兄姉がいるならアリエッタは皇帝の座を継がないが、国を守るため、国のために働かなければいけない。それに皇族がこんな場所に居るのも一大事だ。デモニア帝国では行方不明、最悪死亡扱いになっている可能性がある。早く帰還して家族と国民に無事を知らせた方がいい。

 海を眺めていたアリエッタは振り返ってアリーダを見つめる。


「アリーダさんにはお世話になりました。私が記憶を失った経緯を全て、お話します。まず話さなければいけないことが一つ。今、帝国は危機に瀕しています。いえ帝国だけではありません。王国も危機的状況に位置しています」


「危機? 何が起きてるってんだよ」


「――戦争です」


 思いもよらない答えにアリーダは「な、何だって」と驚く。

 アリーダは経験したことがないが戦争は過去に三度行われている。経験していなくてもダメなものとは理解していた。孤児院院長のエルは丁度戦争が起きた時代に生まれたらしく、孤児院の子供達は戦争はダメなもの、酷く苦しいものだと言い聞かせられている。


「元より人間と魔人の国の仲は険悪で、過去に何度も戦争は起きています。しかし今回起きようとしているのはどちらかが滅びるまで続く争い。数多の命が犠牲となります。始まってしまえば、孤児院も何かしら被害が出るでしょう」


「どうして今回はどっちかが滅びるまで続く? 誰かが仕組んでるってのか?」


「帝国の大臣です。彼は王国に居る協力者と共に、両国が戦争するよう仕向けています」


「なっ、王国のどっかに帝国のスパイが居るってのか!?」


「私は偶然、大臣が彼の部下と計画について話しているのを聞きました。隠れていましたが見つかってしまい、そんな私を見て大臣は計画を変更したんです。皇女が人間に攫われ、凄惨な死を遂げる。知った皇帝は人間に憎しみを向けて戦争を仕掛ける。王国でも同様のことを行い憎しみを蔓延させる。簡潔に纏めればこのような内容です」


 帝国の大臣は随分と嫌な性格だとアリーダは思う。

 帝国からはアリエッタ、王国からはおそらくミルセーヌ、二人が敵国に攫われて無惨に殺されたとすれば当然皇帝も国王も激怒する。相手の国を滅ぼす勢いで戦力を動かすだろう。このままでは全て帝国大臣の思いのままに両国が動くとアリーダは断言出来る。


「……分からねえな。そんなことして、その大臣ってのにどんなメリットがあるってんだ」


「それは私も分かりません。ですが彼は本気で戦争を起こすつもりです。止めなければいけません」


「止める方法は……そうか、皇女のお前が無事に帰って全貌を説明すりゃあいいのか」


 帝国大臣の計画には穴がある。大臣はアリエッタが生きて帰って来るとは思っていない。もし生還して、アリエッタの口から皇帝に計画を伝えられれば大臣の野望は打ち砕ける。大臣が何か言ったとしても、血を分けた家族の言うことを皇帝が信じないはずがない。


「ええ。まだ間に合うはずです。戦争には準備の時間もありますから」


「記憶はいつ失ったんだ?」


「大臣の協力者である人間から逃げて、王都に向かっている途中だと思います。私を殺すために放たれた、帝国領に生息するモンスターに襲われて死にかけましたから。おそらく体も心も疲れきって、過度なストレスが溜まったのも原因かと」


 帝国領に生息するモンスターと聞き、アリーダは自分が倒した針鼠型モンスターを思い浮かべる。イーリスの話では元々アリエッタを襲っていたらしいので状況的に間違いない。帝国領にしかいないなら新種と思ってしまうのも仕方ないことだ。


 一先ずモンスターは討伐したので安心だが、大臣が放つ刺客がモンスターだけとは考えづらい。アリエッタが逃げたことはとっくに伝わっているだろう。計画にアリエッタの死が必要な以上、確実に殺すため刺客をまだ放っているはずだ。王国からの協力者も居るので、魔人やモンスターだけでなく人間も疑わなければならない。周り全てが敵と思うくらいには警戒した方がいい。


「記憶を取り戻すまでに時間を多く消費してしまいました。急いで国に戻らないといけません」


「そうだな。だが、今すぐ帝国領に戻るってのは無理だ。コエグジ事件や魔人の殺人鬼のせいで警戒が強まってて、帝国領への道は封鎖されて通れない。帝国領へ行くには通行許可証を国から発行してもらう必要があるぜ」


 アリエッタが王国領に入れたのは王国側からの協力者が居たからだ。


「許可証……どうやって手に入れれば?」


「国に認められる地位を手に入れるのさ。宮廷魔法使いだったり、ギルドのSランクパーティーだったりな」


 現在アリエッタはギルドに所属している。一番の近道はSランクパーティーになることだ。


「要するに、今まで通りで良いってことよ。まあ、ちっとばかし仕事の量が増えるけどなあ」


「なるほど。では、みんな自分の目的のために協力してSランクを目指すということですね。やりましょう、アリーダさん。のんびりはしていられません。史上最速の勢いでSランクに成り上がるんです」


「おう、改めてよろしくな」


「こちらこそ」


 アリーダは金のため。

 アリエッタは故郷へ帰るため。

 イーリスは仇について情報を集めるため。

 各々が違う目的を持ちながら『アリーダスペシャル(仮)』の面々は同じ場所を目指す。










 次回、一章最終話


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