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下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~  作者: 彼方
一章 追放と罰~パーティーを追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
24/90

24 コエグジ事件ねえ。そんな事件があったとは知らなかったぜ。もっともそんな真実、誰が言ったのかも分からねえんだし俺は疑っているけどな。黒幕が存在するってのが定番だろ?


 黒く綺麗な珈琲が注がれたカップをアリーダは口まで運ぶ。

 今日、アリーダのパーティーは再びギルドのマスタールームに呼ばれていた。

 ギルドマスター代理アンドリューズ直々の呼び出しにアリーダ達は不安を抱きながらも、テーブル上に用意されていた珈琲を一口飲む。


「あぅ……苦いです」


 苦味で顔を歪めたアリエッタはカップをテーブルに戻す。

 アリーダも苦いと思ったがポーカーフェイスで表情には出さず、バカにされたくないのでもう一口だけ飲む。

 三人の中で唯一イーリスだけは難なく珈琲を全て飲み、空のカップを戻した。


「ふっふっふ、子供には良さが分からんか。良い豆だったんだがな」


「珈琲の話は後にしようぜ。オッサン、なんで俺達をまた呼んだのか教えてもらおうか。Aランクに昇級するためのランクアップクエストを受けられるなら嬉しいが、俺達はBランクになってから日が浅い。用件はランクアップクエストじゃねえんだろ」


「うむ、そうだ。一つ、君達にやってほしい仕事があってな。内容はこの依頼書を見てくれ」


 アンドリューズはそう言って一枚の紙をアリーダに差し出す。

 依頼内容は調査と討伐だ。ナステルという村の人間が魔人を見かけたと言うので、本当に魔人が付近に居るのか調べてほしいという内容。証言が事実なら魔人を殺し、村人に証拠を見せる必要もあるらしい。


 人間の国、ヒュルス王国の領土であるビガン大陸に魔人が彷徨いている可能性は低い。アリエッタという例外も居るが、基本的に魔人は隣のスモーラ大陸で生活している。一時期はビガン大陸にも魔人が住んでいたが今は一人も居ないはずだ。


「……魔人を、殺す依頼」


 依頼書を覗き込んでいたアリエッタがショックを受けて俯く。

 同じく覗いていたイーリスは驚きよりも怒りが上回り、テーブルを左手で叩く。


「正気ですかマスター代理。あなたは、魔人の仲間が居る我々に、魔人を殺す仕事をしろと? アリエッタの気持ちを考えてください」


「いいや逆だイーリス。オッサン、この仕事は受けさせてもらうぜ」


 魔人殺しの依頼を引き受けたアリーダをイーリスは強く睨む。


「何だと!? 正気か!?」


「アリエッタの気持ちを考えるならこの仕事は受けるべきだ。他のパーティーが受けてみろ、魔人が実際に居たら殺しちまうんだぜ。悪か善か見極めずに殺す奴等は多いだろ。俺達でも悪い魔人なら殺すが、アリエッタみてえに善の心を持っているなら逃がせる。それに、同族と会えばアリエッタの記憶が少しは戻るかもしれない」


 イーリスよりもアリーダの方が視野が広く、仲間のことを考えられていた。

 最近忘れがちだがアリエッタは記憶喪失である。些細な刺激で記憶が蘇る場合もあるので、同族と会って話せば記憶が蘇る可能性がある。仕事を受ける理由はそれだけではない。もし他のパーティーが仕事を受けて魔人を殺したと後から知れば彼女は酷く悲しむだろう。今回はアリーダ達が受けた方が上手く立ち回れるし、彼女へのメンタルダメージも最小限に抑えられる。

 アリーダとアンドリューズの思惑を理解したイーリスは睨むのを止めた。


「……すまない。私の考えが浅かったらしい」


「気にすんな。そんなことより、この魔人を見たって村人は信用出来んのか? 嘘じゃねえだろうな」


「信憑性がないのは事実だ。しかし、可能性がないわけではない。君達はコエグジ事件を知っているかね?」


「コエグジ事件だあ? 何だそりゃ」


「聞いたことがありませんね。……私、記憶喪失ですし」


 記憶喪失中のアリエッタが知らないのは当然だがアリーダも聞いたことがない。


「私は知っています。かつて存在したコエグジという村が滅びた事件ですね」


 イーリスの言葉にアンドリューズが頷き、詳細を語る。

 十五年以上前。魔人の国デモニア帝国から、人間の国ヒュルス王国に一つの提案があった。人間との共存に積極的な者達を、王国の領土内に移住させてもらえないかという提案である。それを受け入れた王国は城下町から遠く離れた場所に魔人のための村を造りあげた。それこそがコエグジという村。最初は平和で静かに暮らし、次第に周辺の村とも交流を持ったコエグジ村は、人間と魔人の差別問題を解決に導く村……かに思われていた。


 村が生まれて約十ヶ月経った頃、コエグジ村の住人達が単なる移住者ではなく、王国に戦争を仕掛けて国盗りを考えているという情報を王国が入手する。戦争のための使者だったと理解した王国は武力でコエグジ村を制圧して、住人を皆殺しにした。

 この住人皆殺しのための武力行使こそが後にコエグジ事件と呼ばれる。


「なんでそんなこと知ってんだよイーリス」


「父の仇である魔人の情報を探す途中で知った。しかしなぜ今この事件の名前を?」


「依頼者が住むナステル村は、コエグジ村と交流があった村の一つなのだ。コエグジ事件で生き残った魔人が居たとすれば近付く可能性があるだろう。可能性が低くてもゼロではない以上、被害が出ないとも言い切れない。真実を確かめるために調査は必要だ」


「俺達がやるさ。アリエッタは留守番でもいいが、どうしたい?」


 先程アリーダはアリエッタのメンタルダメージを最小限にしたり、記憶が蘇るきっかけになるのではと言っていたが、隠した本音では今回の仕事に彼女が同行しなくてもいいと思っている。今や彼女もパーティーの一員で立派な戦力だが強制は良くない。ギルドでは仕事を選べるのだし、嫌な仕事を無理にやる必要は微塵もない。


「……私も行きます。同族の人が居るなら会って、話をしてみたいんです」


「そうか、無理だけはすんじゃねえぞ。嫌になったら嫌って言えよ」


 同行は心配だが決めたのは本人の意思。アリーダは拒否出来ない。


「イーリス、お前は来んなって言っても来るんだろうが、自分勝手な行動はするんじゃねえぞ。特に単独行動は止めろ」


「なぜ今日に限ってそんなことを言う」


「俺が何も気付いてねえと思ってんのか? お前の考えくらいお見通しだっての」


 イーリスは今回発見されたという魔人が父親の仇ではないかと疑っている。

 このビガン大陸に居るのが確定している魔人はアリーダが知る限りで二人。アリエッタと、イーリスの父親を殺したらしい殺人鬼のみ。前者は行動を共にしているし、後者は未だに騎士を殺し続けていると新聞に載っていた。今回発見された魔人が本物だとすれば殺人鬼の魔人である可能性が高い。


「仮に魔人がお前の捜している奴だとしても単独行動は許可しねえ。これはリーダーとしての命令だ」


「……こんな時だけリーダー面か」


「俺は常にリーダーなんですけどねえ! とにかく、分かったな?」


「命令か、断る。復讐心を抑えられる気がしない」


「断んなよ! ああもういい俺がお前を監視する。風呂も一緒に入る」


 イーリスは拳を高く上げてからアリーダの頭頂部に振り下ろす。


「殴るぞ?」

「殴ってから言うな! くそっ、細かいことは村に向かいながら決める! 準備して出発すんぞ!」


 一人で先に椅子から立ったアリーダは大股歩きで部屋を出て行く。

 アリエッタは慌ててリーダーの背を追い、イーリスは自分のペースで歩き出す。

 マスタールームに残ったアンドリューズは仕事を託した三人に大きな不安を抱いた。


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