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下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~  作者: 彼方
一章 追放と罰~パーティーを追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
23/90

23 ば、馬鹿だぞこいつ、前々から思っていたが世界で五本の指に入るくらいには馬鹿だぞ。あーあ、もうテメエに会うことはねえかもな。全部自滅したテメエが悪いんだぜ


 チーム『アリーダスペシャル(仮)』がランクアップクエストを達成した二日後。

 エルマイナ孤児院で朝食を摂ったアリーダはふと仲間のアリエッタを探した。彼女は子供達と仲良く話しているようだが、たまに、ほんの一瞬だけ暗い顔になることがある。


「どうした、ボーッと突っ立って」


 アリーダを不審に思ったイーリスが背後から声を掛ける。


「あー、アリエッタの様子を見ていたんだよ」


「……彼女は自分が魔人であることを気にしているんだろう。今まで以上に」


 ランクアップクエストを受注した日。アリエッタは初めて人間を殺した。

 殺すことに躊躇もせず、指示された通りに敵を炎で焼き尽くした。それ自体はギルドの一員として正しい行動だ。犯罪者を捕縛出来なければ殺すしかなく、あの時の敵は容易く捕縛出来る相手ではない。殺す選択肢しか存在しなかったのである。


 問題はアリエッタが人間を殺した後、罪悪感を覚えなかったこと。

 無邪気な子供が蟻を潰すように人間を殺せてしまったことに彼女は悩んでいる。


 角や尻尾などモンスターの特徴を持つ人型生命体は魔人と呼ばれ、世間の評価は気味の悪い生き物やモンスターの仲間。アリエッタは差別を当然だと思い心苦しく生きていた。孤児院では尻尾を隠す必要がないと分かっているはずなのに、初めての殺人から忌まわしい物のように隠している。


「何を言ってやりゃいいのか俺には分からねえ。クソッ、ダメだな俺は。思い付いたことといえばギャグで笑わせるくれえだし」


「ギャグは止めておけ、君のギャグはつまらん。彼女の悩みは時間が解決してくれることを願おう」


「……時間が解決ねぇ。まあ、自分で悩んで答えを出すってのも大事か」


「アリエッタには私が付き添っておくから、君は散歩でもしてきたらどうだ? 悩みすぎは良くないぞ」


「……そうするか。たまには散歩もいいよな」


 このまま悩んでいても気の利いた台詞は思い浮かばない。

 本当にアリエッタが助けを求めてきたりするまでは、一先ず彼女自身に答えを探してもらうことにした。アリーダもだが、人間生きていれば悩みの一つや二つを抱えるものだ。それを誰かの知識や言葉で解決するのもいいが、自分で考えて自分なりの答えを出すのも立派な成長に繋がる。


 気分転換のためにアリーダがエルマイナ孤児院を出ると、黄緑髪の女性が目の前に立っていた。

 友人でもあるヒュルス王国第一王女ミルセーヌだったのだが、今日の服装は普段のように煌びやかなドレスではなく、地味な色のワンピースと珍しい服装だ。王族らしくない服装にアリーダは目を丸くする。


「アリーダ! タイミングよく出て来ましたね。今から入るところでしたのに」


「ミルセーヌ、だよな? 何だよその平民みてえな服は」


「そう見えるなら良いのです。今日、お時間はありますか?」


「あ、ああ、今日は仕事しねえつもりだから時間はある。何か用でもあんのか」


「ギルドに行きたいのです。今日限りの護衛になってくれると嬉しいのですが」


「護衛って……いつもの騎士はどこ行ったんだよ。サボりか?」


 王族の護衛は騎士団の中でも優秀な者達に任される。

 二日前に会ったモーリスとその他がミルセーヌの護衛であり、城から出掛ける時は必ず傍に居なければならない。二日前に全員負傷していたが、モーリスが全員完治させていたので仕事に支障はないはずだ。今この時も傍に居るはずだがどこにも姿が見当たらない。


「遠くから見守ってくれています。今の私は平民の設定ですから、騎士が傍に居たら不自然でしょう。そこで騎士以外で私を守れる者に護衛役を務めて頂きたいと思いまして。ほら、あなたは強いし、時間があるなら護衛役を引き受けてくれませんか?」


「本当に騎士は遠くで見ているんだよな?」


 ミルセーヌは「ええ」と頷く。


「まあ、それなら引き受けてもいいぜ。どうせ今日は暇だし」


「ありがとうございます。では行きましょうか」


 騎士が遠くで見張っているのなら、ミルセーヌに何かあっても騎士と責任を分担出来る。当然彼女を守るつもりだが万が一もあるので責任の行き所は重要だ。アリーダは確かに強いが世の中にはアリーダ以上に強い人間なんて珍しくない。本当に万が一、責任を負わされて死刑にでもなるのは絶対に御免被る。今回は本来の護衛役が居るので、責任はそちらに重くのしかかるだろう。


 アリーダはミルセーヌの隣に移動して二人で歩き出す。

 町を歩いていると多くの人間とすれ違うが誰もミルセーヌが王女だと気付かない。


「そういやなんでギルドに行きたいんだ? 依頼があるわけでもねえだろ」


「実は明日、とあるSランクパーティーと会談の予定がありまして。ギルドには行けるのですが見学の時間までは取れないのです。だから今日、町の視察という名目でギルドを見学するつもりなのです。ずっと行きたかったからとっても楽しみですわ」


「ああ、お前、ギルドの話が好きだったもんな」


 ミルセーヌは幼い頃、ギルドの一員となってモンスターを倒すのが夢だった。

 王女の願いとはいえ危険すぎると判断されて親に反対されて諦めたが、モンスターと命懸けで戦うギルドが好きな気持ちは変わらない。今でも英雄譚や冒険譚が大好きで、読んでいる書物は大抵がその類いだ。

 

「会談っつってたがどこのパーティーとだよ」


「Sランクパーティー『優雅な槍(レフィナドン)』です。名前は知っているでしょう?」


「……ああ知ってるよ。会ったこともある。ふーん、あいつ等とねえ」


 過去にそのパーティーの一員だったことをアリーダは黙っておいた。

 悪口ならいくらでも言えるがそれも言わない。今から最低な事実を暴露して『優雅な槍』への好感度を下げられるとしても、そんな復讐染みたことをしたくなかったのである。リーダーのタリカンはどうでもいいが、友人であるジャスミンの評判は下げたくない。


「頑張ればアリーダだってSランクになれますよ。既に自分のパーティーは持っているのですし、皆さんお強いですしね。あ、聞きましたよ、Bランクへの昇級おめでとうございます。これからも頑張ってくださいね」


「いや頑張りたくはねえな。モンスター相手に死闘なんて嫌だぜ、戦うなら策を練って楽に勝つ」


「やり方は人それぞれですしね。あなたらしくて良いと思います」


 話をしながら二人は目的地に辿り着く。

 高さ十メートルはあり横幅も広い立派な木造建築物。看板には寝ている黒猫とギルドの文字が描かれており、入口両脇には精巧な黒猫の銅像が設置されていた。看板付きの門の前に立つミルセーヌは感動に打ち震えている。


 二人はギルドの中に入り、依頼書が貼られているクエストボードなどを見て回った。

 既に見慣れたアリーダには退屈な時間だったが、隣のミルセーヌが興奮やら感動やらしているのを見て、護衛役を引き受けて良かったかもなと思った。


「――あっれえ? そこに居るのはアリーダじゃないか」


 ギルドを見学していると、くすんだ金髪の男がアリーダ達に近付く。

 ミルセーヌが明日会談するSランクパーティー『優雅な槍』のリーダー、タリカンだ。

 アリーダは鬱陶しいと思う感情を隠そうともせず嫌そうな顔で対応する。


「チッ、タリカンか。何の用で近付いて来やがった」


 名前を聞いてミルセーヌも目前の男の正体を理解した。


「態度悪いなあ。噂で聞いたぞ、Bランクに上がったんだって? おめでとう、なんて言うと思ったか怠け者。どうせパーティーメンバーのおかげだろ? 噂によると華麗な剣技を使う美女の剣士に、上級魔法が使える黒髪の女の子らしいな。それで今度はそこの女を仲間にするつもりか? 童貞拗らせハーレム野郎め。仲間の力に頼ってないで、少しは自分の実力を向上させる努力でもしろよ」


 普段ならすぐに言い返して口喧嘩になるのだがアリーダは何も言えなかった。

 正論だと認めたわけではない。理由は隣に居るミルセーヌだ。

 明日彼女は目の前のタリカンと会談するというのに、会って数秒で好感度はマイナスに突き抜けただろう。あまりに酷い言葉と喧嘩腰に加え、友人がバカにされている現状に彼女は唖然としている。こうならないためにアリーダはタリカンを早く帰らせようと思っていたが、もはや何もかも遅い。


「ふん、言い返さないってことは認めたか。悔しかったら努力するんだな」


 ミルセーヌの両手がプルプルと小刻みに震え出す。

 放っておいたら平手打ちでもするのではないかとアリーダは冷や汗を流す。


「あーそうそう、俺のパーティーは明日、第一王女と会談するんだよ。今までの功績と新種のモンスター発見で王女が俺を評価してくれてな。是非会って話を聞きたいと言ってくれたのさ。くふふふ、これもお前が新種のモンスターをプレゼントしてくれたおかげだな。羨ましいだろう」


「お、おいお前、もう喋らねえ方がいいぞ」


「なんだよ怒ってんのか? まさか、まだ手柄を横取りしたなんて思っているんじゃないだろうな。お前が死体を回収し忘れたのが悪いんだぜ。くふふふ、明日の会談で計画は一気に進行する。ミルセーヌ王女に近付き俺は王女と婚約するのだ。そしていずれは王となり、我がアットウッド家が国を支配する。何を言っているのか分かるか? お前が処刑される日は近いって話だぜ」


「ばっ、なっ、何バカなこと言ってんだテメエ!? 処刑されるぞ!」


 話を終わらせないタリカンがとんでもないことを言い出した。

 彼は貴族なので多少の暴言やら失言は許されるが、王国の支配なんて世迷い言を王女の目の前で言い放つのは絶対に許されない。不敬罪だ。正体を隠しているから気付けなかったなんて何の言い訳にもならない。

 妄想で婚約されたミルセーヌの両腕は震えがさらに激しくなる。


「実現性が低いのは分かってんだよ。父上が考えた計画だしな。だが俺は王女を俺の虜にする自信がある」


「お前もう喋んな!」


 ミルセーヌは深呼吸して両腕の震えを止めると、取り繕った笑みを浮かべる。


「面白いお話ですが、具体的にどうやって王女と婚約するつもりです?」


「第一王女といっても夢見がちな女にすぎない。ギルドに興味があるらしいから、気を引くためにギルドに加入してやったら見事に釣れたぜ。明日は昨晩作った俺の格好いい冒険話を聞かせて好感度を上げる。あとは俺の恋愛テクニックでどうとでもなる。一日で惚れさせて、すぐに婚約してやるさ。俺にはフセットがいるから真実の愛は王女に与えられないけどな」


 空気が凍ったと思える程にアリーダの体感温度が低下した。

 一日で惚れさせるとか、自分には恋人がいるから真実の愛は与えられないとか、タリカンの言動は王女を舐めている。一国の王女が自分の思い通りになると本気で思い込んでいる。軽く見られたミルセーヌからはどす黒いオーラが漏れ出て、無言の圧が周囲の者達を襲う。


「アリーダ、俺は……王になる!」


(何が王になるだ馬鹿ヤロオオオオオオオオ!)


 もはやどう足掻いても評価の逆転は不可能。

 守ってやろうとアリーダが動いたのにタリカンは完全に自滅してしまった。王女が目の前に居ると思わないにしても喋りすぎである。ただ、ここで喋ってもらわなければミルセーヌが嫌な目に遭っていたのでアリーダ達にとっては良かった。


 笑みを貼り付けたままミルセーヌがその場を離れたのでアリーダも追う。

 タリカンが不敬罪で処刑されるかされないかは彼女の気持ち次第である。


「貴族なのにギルドで働く、高潔な精神を持つ人だと聞いていましたが残念です。明日の会談予定はキャンセルですね。アレは貴族の恥曝しです。明日はアットウッド子爵家に出向き、一度当主とお話してきます」


 とりあえずタリカンが処刑されることはなさそうだ。

 アリーダは「俺しーらね」と呟いてエルマイナ孤児院に帰った。


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