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下級魔法しか使えない魔法使い~何いいいこの俺を追放だとお!? おいおいつまんねえギャグ……え、マジなの?~  作者: 彼方
一章 追放と罰~パーティーを追放されたけどなんだかんだで上手くやる~
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12 おいおい、おいおいおいおいおい。テメエ俺を無視するつもりかよお。もしかしてビビってる? ビビっちゃってる? 俺と戦っても勝てないから、先にイーリス達を始末しようとしたのかなあ?


「敵だあああああああああ!」


 これから帰ろうという時にイーリスの叫びが広間全体に響いた。

 焦燥感ある叫び声を聞いた全員が広間の入口付近に目を向ける。

 開けっ放しの入口から見える通路ではイーリスが剣を構えており、何者かの槍を防御する。一撃では止まらず連撃が放たれて、彼女の技量では防ぎ切れず一度だけ肩を抉られる。彼女の肩からの出血を目にして咄嗟に動けたのはアリエッタのみ。二秒程遅れてアリーダも動き出す。


「イーリスさん!」


 魔人は身体能力が高いためアリエッタが走る速度は速い。

 広間の外に出た彼女は追い詰められたイーリスを横に突き飛ばした。

 本来イーリスを突き刺すはずだった槍は、イーリスが居た場所に飛び出た彼女の脇腹をごっそり抉る。鋭い突き技は人間の肉体など紙のように貫いてしまう。いかに体が頑丈な魔人といえどもそれは避けられない。


「……なっ、アリエッタ? なぜ?」


 自分を庇ったアリエッタにイーリスは困惑する。

 魔人に憎しみが残りすぎている彼女からすれば、命をかけて自分を庇う行動が信じられない。今までもアリエッタに心を許さず警戒していた。彼女が作ってくれた弁当も食べず、心の奥底では記憶喪失も嘘と疑っていた。


 様々な感情で心がぐちゃぐちゃになった彼女はアリエッタを抱きかかえる。

 色々と考える彼女の身動きは完全に止まってしまう。

 今が戦闘中ということさえ忘れかけた彼女は敵からすれば恰好(かっこう)(まと)


 イーリスとアリエッタに鋭い槍が迫る。

 二人纏めて突き殺すつもりの攻撃が放たれ、正に絶体絶命。

 そこへ希望として介入したのが広間入口に到着したアリーダだ。


 イーリスと、彼女に抱えられているアリエッタをアリーダが引っ張る。

 彼女達を広間内に放り投げた後、広間から飛び出したアリーダが襲撃犯目掛けて回し蹴りした。襲撃犯の虚を突いた攻撃だったが冷静に槍の柄で防がれる。襲撃犯は素早く反撃してきたが、アリーダは身を捻って紙一重で躱し、体勢を直すために後方へと下がる。


「なるほどねえ、テメエがこの盗賊団の要ってやつかな」


 襲撃犯は短く髭を生やした男だった。

 槍を構える男はまるで歴戦の戦士のような風格があった。


「宴会にしては静かになるのが早いから妙だと思い来てみれば……まさか新入りが敵で、潜入初日に動くとはな。あと少し遅ければ全員連行されていたわけだ。せっかくの雇い主が捕縛されては困るのでな、傭兵として貴様等を殺してやろう」


「へっ、そう上手くいくかな? イーリス、アリエッタと盗賊共を外へ運べ! 男共も脱出しろ!」


「運べと言われても、その男が邪魔で通れないだろう!?」


 確かに槍男が広間入口付近に居る以上、強行突破も出来やしない。

 通ろうとしても槍で突き殺されるのがオチで無駄死には確定する。


「あの女剣士の言う通りだ、俺が貴様等を外へ出さん。まずは広間に居る奴等から串刺しにしてやる」

「〈電撃(ボルトーラ)〉!」


 槍男が広間内へと走ろうとするのをアリーダが魔法で阻止した。

 雷属性の下級魔法〈電撃〉は自分の体から電気を放出出来る。

 下級とはいえ一般人なら気絶する程の威力。肉体を鍛えている人間なら痺れる程度で済むが、それはつまり戦闘で不利になることを意味する。〈電撃〉を回避する安全策を取った槍男は再び元の位置に戻った。


「おいおい、おいおいおいおいおい。テメエ俺を無視するつもりかよお。もしかしてビビってる? ビビっちゃってる? 俺と戦っても勝てないから、先にイーリス達を始末しようとしたのかなあ? 超だっせえ思考してんなテメエは」


「……何?」


「俺ギルドで今Cランクなんだけどよ、俺から逃げるってことはテメエCランク以下な。そこらの雑魚モンスター倒せる程度で随分と偉そうな態度だったなテメエ。どうせ今までも雑魚モンスターや雑魚人間相手にして悦に浸ってやがったんだろ」


 槍男の額に血管が浮き出る。


「おいどうした来ねえの? え、ここまで言われて俺から逃げんの? プライドもねえ棒人間なの? 今なら特別サービスで攻撃に手を使わないでおくぜ。テメエみたいな雑魚、両手使わなくても楽勝だからな。ハンデってやつだぜ」


 いきなりアリーダが挑発し出したのは作戦の一つ。

 相手を怒らせて槍男の狙いを自分に移し、イーリス達への意識を逸らすための策。


「……貴様は敢えて俺を挑発し、この場から遠ざかることで俺を仲間から離そうとしているな。発言の意図は理解したが、俺も敢えて貴様から仕留めてやろう。広間に今居る連中は貴様を串刺しにした後で殺せばいい」


「冷静なようでキレてんな? 膨れ上がった俺への殺意が隠せてねえぜ。テメエは傭兵として三流以下だ!」


「十秒で貴様の心臓を貫いてやる!」


 血走った目で槍男の足が動いた瞬間、アリーダは槍男に背を向けて走り出す。

 みっともない敵前逃亡。しかし、彼の口は笑っていた。

 逃げる選択は敗北のイメージが強いだろうが策に繋がることもある。

 彼が取った行動は惨めな敗走ではなく、勝利へと繋げる一手なのだ。



 * 



 アリーダが槍男と共に盗賊団アジト奥へと走り去った後。

 脇腹が大きく抉れたアリエッタは地面に倒れており、イーリスが両膝を突いて彼女を見下ろしている。そんな二人を遠巻きに十三人の男達が見つめていた。仲間が死にそうでショックを受けていると思った彼等は沈痛な表情でイーリスに近寄る。

 男達を代表して僧侶らしき坊主の男性が口を開く。


「お気持ちはお察します。残念ながら、(わたくし)共の中に回復魔法を使える者は居ません。アリエッタさんが助かる確率は……その、低いでしょう。私共は盗賊団の者達を外へと運びます。それがあなた方の役に立つことだと思いますので」


 坊主の男性含め十三人の男達は縄で拘束中の盗賊団員へと歩き出す。

 入口傍に残されたイーリスは「……回復魔法」と呟く。


「回復魔法……私は、使える。……使えば、治せる」


 イーリスは生命属性魔法を中級まで使いこなせる。

 中級の回復魔法〈超治癒(スーパーヒール)〉さえ使えばアリエッタの傷は完治するだろう。


「……傷を治すのか? 魔人、なんだぞ」


 自分の父親を殺したのも魔人。

 自分の命を救ってくれたのも魔人。

 以前から居座っていた憎しみを打ち消そうとする何かが心に入る。


 どうせ死にそうなのも演技、そんなわけがない。

 人間に気に入られるための演技、そんなわけがない。

 簡単に違うと断言出来るような言い訳を内心で並べては否定する。


『感情に振り回されないで』


 ふと、孤児院で聞いたシスターエルの言葉が頭に蘇った。

 強い感情は判断を誤らせる。怒りも、憎しみも、感謝でさえも。


「今は……今だけは、捨てろ」


 可能な限りの情報を捨てて考えれば判断材料は十分だ。

 自分は治療する手段を持っていて、自分を助けてくれた少女の傷を治す。

 考えるのはたったそれだけで良かったのだ。


 助けてくれた相手を見殺しにするなど、イーリスが憧れた父は、王国の騎士は絶対にしない。治せる手段があるのなら迷わず助けるはずだ。例え相手が魔人だと分かっていても、強く正しくあろうとするイーリスの答えは初めから決まっていた。心の中の障害物を乗り越え、折れずに内にある答えへと辿り着くまでが困難な道のりだったのである。


「〈超治癒(スーパーヒール)〉」


 アリエッタの脇腹の傷がみるみると治っていく。

 既に出た血は消えないので見た目は重傷患者だが実際は健康体だ。

 横たわっていたアリエッタが目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。


「……あれ、私の体……痛くない。……イーリスさんが、治してくれたんですか?」


「ああ、傷は完治しただろう。今はアリーダが敵と交戦している。急いでここを出るぞ」


 アリエッタは「アリーダさんが」と言いながら周囲を見渡す。

 二人が話している間にも男達が協力して盗賊を運んでいた。


「……盗賊達を運ぶのには人手が必要ですもんね」


「そうだな。彼等に任せっきりというわけにはいかない。私達も運ぶぞ」


「はい。アリーダさんならきっと、大丈夫ですから」


 イーリスも同じ気持ちだ。槍使いの男は強かったが、アリーダなら何とかするのではないかという謎の希望がある。身体能力や技術では及ばないとしても、彼は卑怯が服を着て歩いているような男。イーリス達が想像しても使わないような卑劣な手で勝ってくれるに違いない。

 本人が聞けば嫌な顔をするような信頼をする二人は、彼の勝利を信じて盗賊団員を外へと運び出した。



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