4.君は何でも知っているんだね。
王都ガ―ディアナの喫茶店、テーブルを挟んで“案内人”なる少女と話す。少女はとても天真爛漫で、思ったことは口にするような素直なタイプに見えた。モーニングを食べ終わった彼女は言う。
「おいしかったー!そうだ、私はアリアンナ・フローレンス。アリアでいいよ」
「そう言えば名乗ってなかったな。俺はハント。ハント・ド・ハワードケリー」
「ハワードケリーって、文明衰退から民をまとめ上げて国を築いたあのハワードケリー?朝っぱらからなんで王族が街をうろついてたのよ。私としてはめっちゃ助かったけどさ」
「それには割とごちゃごちゃした理由があって……」
俺は家を出るまでの経緯、天賦、これからの計画についてアリアンナに話した。アリアンナは所々で相槌を挟みつつ聞き入る。
「……家庭環境エグすぎない?」
「おかげで俺は鋼鉄の心を手に入れた。並大抵の事じゃ動じないよ」
「ははは!今度おどかしてやろーっと。で、そろそろ本題に入ろっか」
「そうだね。俺については本当に少ないよ。転生前に『管理者を正常化させろ』って言われて、さっき話した“現象を否定する能力”を与えられた。あと、“案内人”も転生してるから探し出して協力しろって。これだけだね」
「すっごいアバウトな説明だね。かわいそう」
「なんだそれ。アリアは丁寧に説明してもらえたのか?」
「うん。転生した時には天賦とは別に、この世界の情報が記憶にあった。地形に集落、魔物の種類や入手できる素材やレアアイテムみたいなこの世界で生きていくうえで必要な情報や設定諸々。それでも14年前の情報だから今は所々間違っているかもだけど」
俺たちが生きるこの世界において魔物を討伐すると生活・冒険に役立つアイテムをドロップし、経験値を漏出する。それこそRPGのように。そしてそれらは冒険者や狩人たちの貴重な資金源となる。
低級の魔物は自然物から成る何の変哲のない武器でも討伐することが出来るが、強力な魔物になるとそうもいかない。天賦を使うか、魔物から得た素材を用いた武器でしか討伐できなくなってくる。
経験値は基本的に天賦と身体能力の向上に関わってくる。管理者はゲームような世界に住みたくてこのような世界を作ったのだろうか。
「……なるほどね、それで露店か。確かに路銀を稼ぐにはもってこいだし、冒険をするにはこの上ない情報だ。俺の天賦よりだいぶ便利だね」
「そんなことないよ。私はか弱い女の子だよ?ここに来るまでも安全なルートを必死に探しながらだったんだから。あとね、ハントの力についても聞いてるよ」
「なんで俺にはその情報が無かったんだろうな」
「容量や時間がどうとかって言ってた。ハントさ、さっき自分の力の事を“現象を否定する能力”って言ってたよね」
「ああ。違うのか?」
「ハントの力は“事象の反転”。あらゆる事象を逆転させるんだってさ。だから管理者の暴走も“なかったことにする”じゃなくて、“正常な動作”にまで戻す事が出来るんだって。同じじゃないの?って私は思ったけど」
事象の逆転。そう考えるとラドリーの異常な奉公心にも説明がつく。俺を差別するラドリーに天賦を使った結果“俺を差別をしなかった”ではなく、差別の逆、つまりは“俺を特別な存在とした”という結果になったって訳だ。
「……いや、天賦の対象によっては大きく変わってくると思う」
「ふーん。よくわかんないけど、ハントのためになったなら良しとしとこっかな」
「ところでさ、ここに来る前に露店の商品をそのポーチに全部突っ込んでたけど、一体どういう仕組みなんだ?」
「あれは私に与えられた天賦、“多次元収納”。容量無視して荷物全部ここに突っ込んでるの。すごくない?」
アリアンナはセンスの良い刺しゅうで装飾が施されたバッグを見せてくる。随分と軽いノリで話しているが、その力こそチートもいいところだ。これは仮想空間だからこそ成せる事なのだろう。
「すごいというか、規格外だね。その天賦は冒険をだいぶ楽にしてくれる」
「でしょ!ほんとに便利!洋服とかすっごい量溜め込めちゃうし!」
「……アリアと話してると同級生の子と話してるような感覚になるよ」
「歳、近いのかもね。何歳で死んだの?」
「ノリが軽すぎるな。15の時に交通事故で、今14歳」
「過ぎたことだからねー。私も15で死んで、今14歳。気づいたら真っ白な空間だったよ」
しばしの沈黙。お互い、過去の世界を振り返り感傷にふける。俺は話を続けた。
「……少ししんみりしちゃったな。俺は近くの貸し宿をしばらく拠点にしようと思ってるんだけど、アリアはどうする?」
「え、一緒に行く。だって行くとこないし。毎日お金稼いで、その日暮らし」
「よし。じゃあ行こうか。どりあえず、仲間を紹介するよ」
「うん!ちなみに、ここはおごってくれるんだよね?」
アリアはあざとい上目遣いと猫なで声で俺の腕に絡みつき14歳にしては大きすぎるほどの胸が押し付けられた。うまく世渡りしてきたのであろう技術が垣間見える。俺たちは喫茶店を後にし、一旦宿に帰ることにした。もちろん会計は俺持ちだった。
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