表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

2.弟よ、ざまぁ。

 早朝、宮殿中庭。なんとか無事に起きることが出来た俺は、用意していたトランクケースを片手に宮殿門へ向かう。隣にはメイドのラドリー。昨晩何度も果てるまで動いていたというのに、表情はむしろ健康そのものだ。



「ね……眠い……」


「ハント様が何度も元気になるものですから、てっきり満足しきっていないのかと……」


「これからは朝早い日の前はほどほどにしてくれ……いや、嬉しいんだけどさ」


「ハント様が嬉しいのであれば、なおさらやる気が出ます!」


 

 俺は乾いた笑いをラドリーに返す。俺の天賦スキルのせいでこうなってしまったんだ。ラドリーの意思を尊重しようとは思っているが、果たして俺の身はもつのだろうか。そんな事を考えながら歩いていると、背後から呼びかけられる。


 

「よお兄貴。別れの挨拶も無しに行っちまうのか?」


「アルベルト……」



 この男は俺の双子の弟、アルベルト。炎を操る天賦スキルを持ち、将来有望と周囲に期待されている。護衛二人を連れたアルベルトは嫌味な声色で話し続ける。

 

 

「俺、少しは兄貴に感謝してるんだぜ?皆が俺を天才とはやし立てるからな。兄貴が無能力者のおかげでよぉ!」



 アルベルトとその取り巻きはゲラゲラと笑いながら言う。ひとしきり笑いきったアルベルトは俺の足元に小袋を放り投げた。袋から数枚の金貨が零れる。



「ま、腐っても兄弟だ。せめてもの情けだよ。拾いな」


「いらないよ。自分の路銀ろぎんは自分で稼ぐ。お前こそ、この金で品性でも買って来たらどうだ。売ってあればの話だけどさ」


「へぇ、言うじゃねえか無能力者さんがよぉ。どうせ兄貴はもう家を出るんだ。ボコしちまっても誰も文句言わねぇよなぁ!」



 アルベルトが俺に手を掲げると天賦スキル“炎を操る力”が発動した。巨大な火球が手のひらの上に形成されていく。



『やはりアルベルト様の力は素晴らしい!』『騎士として申し分のない天賦スキルだ!』などと取り巻きが驚きの声を上げる。


 それに対し俺も天賦スキルを発動した。俺の天賦スキルに特別な動作は必要ない。俺は火球を見定める。次の瞬間には爆音とともに火球が暴発し、アルベルトが大きく吹き飛んだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


「うわぁぁっ!」


天賦スキルの制御なんて初歩中の初歩だろ。稽古けいこ付けなおしてもらったらどうだ」


「たまたまだ!クソ!」



 再びアルベルトが天賦スキルを使おうとするが、そのたびに火球は形成される事無く暴発する。


 俺の天賦スキルはその“生物”に対して一度きりしか使えない。しかし、発生した“事象”に対しての発動はその限りではなかった。


 “()()()()()()火球を制御できなかった”と俺が認識すれば、天賦スキルの対象はアルベルトとなる。しかし今回のように、“()()()制御されなかった”と俺が認識すれば、アルベルトが俺の天賦スキルに影響され、金輪際こんりんざい天賦スキルを制御できなくなるような事はない。



『アルベルト様!大丈夫ですか!アルベルト様!』


 

 取り巻きは完全にノびてしまったアルベルトを抱え去っていく。取り巻きが俺に向かって汚い言葉を騒いでいるが、俺は無視して宮殿を出た。



「行こう、ラドリー」


「はい」


 

 その気になれば、“アルベルトには天賦スキルが与えられなかった”なんて事もできたかもしれない。宮殿内の人達みんなを“俺を差別することはかった”という事にすることもできたかもしれない。だが、そこまでして俺はあの宮殿に留まりたいとは思わなかった。





 場所は移り、王都ガーディニアの貸し宿の一室。俺とラドリーは今後の計画を立てる。


 俺の目的は変わっていない。“管理者”、もとい“魔王”にたどり着き、俺のこの力を使って管理者を“暴走しなかった”事にする。ただ、それには多数の問題がある。



「ハント様。やはりこの旅は魔王を討つためのなのですか?」


「ああ。王に言われたからって訳じゃなく、俺は元々そのつもりだった。けれどそのためには情報が少ないし、戦力も圧倒的に足りない。少しの間この街を拠点にしながら仲間を探そうと思う」


「魔王が拠点にしていると言われる国“シャルデン”を目指すには相当な距離と難所がありますからね」


「そうだ。俺は昼になったらギルドあたりで情報を集めてみる。それまで少しだけ仮眠をとるよ」


「その前にハント様。早朝からあのような言いがかりをつけられ気分が萎えてしまっていませんか?」



 そう言うとラドリーは前かがみになり、豊満な谷間を強調してみせた。



「さすがに勘弁してくれ。したってくれるのは嬉しいけど、度が過ぎた奉仕は困るよ」


 

 俺はラドリーの額をぺしっと叩くとラドリーは「きゃん」と可愛い声を出した。俺の天賦スキルの影響とはいえ、過剰過ぎるくらいの奉公心。きっとこの力には、まだまだわかっていない事がある。それも解決しなければならない。



「では、どのくらいが度を過ぎているのでしょう?」


「とりあえず、朝昼晩休みなしで誘惑するのは止めてくれ……。少し外の空気吸ってくるよ」

 

「はーい……」

 

 

 ラドリーはしょんぼりとむくれている。

 

 念のために短剣ダガー片手剣ブロードソードを腰にたずさえ俺は散歩に出かける。普段滅多に宮殿の外に出なかった俺には、目に映るものすべてが新鮮に見えた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


よろしければ広告下↓にある

【☆☆☆☆☆】を面白さ、期待値の段階に応じて変化させて応援していただると非常に励みになります。


面白かった、続きが気になると思って頂けたならばブックマークして次回更新も読んで頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ