1.チートスキル持ちなのに追放ですか?
「ハント様はおっぱいが大好きですねー♪」
夜、王家宮殿の一室。乳を飲ませながら乳母であり妾の美しい黒髪の女性が乳飲み子の俺に語り掛ける。数か月もするとこの世界の言葉は多少理解できるようになった。記憶や意識ははっきりしているが、もちろん俺に返答する術はなく、ただ食欲のままに吸い付くことしかできない。
曰くここは仮想の世界らしいが、乳房に吸い付く感触・味覚・嗅覚・あらゆる刺激は現実の世界としか思えない。
俺はヴァルニア王国、王家の双子の兄として産まれた。ハント・ド・ハワードケリーがこの世界での俺の名前だ。憐れむような顔を見せながら彼女は俺に語り掛ける。
「母マリア様は優秀な天賦を持って産まれた弟君のアルベルト様に付きっ切り……。不憫です、ハント様……」
ドアが開き王であり父、ベルゼ・ド・ハワードケリーが部屋に入ってくるなり彼女の体を触りながら言う。
「まったく……マリアはアルベルトの事で頭が一杯だ。鎮めてもらうぞ」
「お待ちくださいベルゼ様、今はまだハント様が……」
遮る言葉はそっちのけで事が始まろうとしていた。これが俺の幼少期の日常。父、母は優秀な天賦を持って産まれた弟に愛情を注ぎ、俺はその逆だった。その頃から将来が不安で仕方なかったが、その日はやってきた。
◆
14年後、同宮殿内、謁見の間。礼拝堂のように広い豪華な空間に鎮座する王と、片膝をつき首垂れる俺。周囲にはその他親族や騎士達。王は俺に話しかける。
「ハントよ。お前ももう14歳だ。定例であれば王国・民を守る騎士として任命し明日、叙任式を行う。しかし多少剣術の才があるとはいえ、天賦を持たぬお前を騎士にするなど、精鋭たる我らの騎士達に示しが付かぬのだ」
「仰る通りかと、父上」
不遇な扱いにはこの14年で慣れ、苛々(いらいら)することも無くなってしまった。大体どんな事を言われようが、無視するか無心で肯定しておけば事は丸く収まる。
「そこでだ、ハントは前々から家を出ようかと思うと言っていたな。そろそろ外の世界にも触れるべきだ。魔王討伐の任をお前に与えようと思う。自由に冒険し、好きに生きるがいい」
“魔王討伐”は体のいい理由付けである。魔王や魔物への抵抗は王国の騎士団の職務でもある。騎士団に所属させることなく魔王討伐の任を与える、この言葉は直訳すると「ここから出ていけ」だ。無論、俺はどのみちこの宮殿を去るつもりだった。願ってもない言葉に俺は頭を下げたまま返答する。
「仰せの通りに。明日の朝に旅立ちます」
「いつでも戻ってくるがいい。これで話は終わりだ」
「失礼します」
思ってもないことを、と思いつつ俺は踵を返す。周囲からクスクスと笑う声、『王も心にも無いことを言う』『戻ってくる事は無かろう』と喋る声が聞こえる。謁見の間を後にして俺は旅立ちの準備を始めることにした。
ここに居るすべての人物は、俺の天賦の事を知らない。
◆
その日の夜、俺は宮殿内自室で旅立ちの用意をする。今の宮殿で俺を唯一差別することなく献身的に尽くしてくれる18歳の爆乳メイド、ラドリー・マリーゴールドが長いブロンドの髪を揺らしこちらを覗き込んで話しかける。黒のメイド服だというのに胸部が大きく露出したデザインのせいで深い谷間が丸見えだ。このデザインは性欲の権化である王の趣味なのだろう。
「本当に旅立たれてしまうのですかハント様」
「ああ。こんな宮殿にずっと住んでいても、何の進展もないし面白くもない。剣術や武道を学ぶことが出来たっていう事だけは良かったと思ってるけどね」
「天賦の事を知れば父上をはじめ皆様の態度も変わるのではないですか?私はハント様がいなければ生きていけません」
ラドリーは荷造りをする俺の肩に後ろから手を回してくる。豊満な胸が背中に当たり服の中に手を滑り込ませてくるが、流石に荷造りがやりにくくて仕方がない。俺はラドリーの手をそっと払いのける。
彼女がこうも俺に盲目的なのは、俺の天賦の影響だ。彼女もかつては俺を差別する側の人間だった。
俺は幼少期のある日、皿を落としてしまったことがある。それも大量に。間違いなく後片付けが大変になることを覚悟した次の瞬間、それらは全て割れなかった。
その時にはただの偶然と思った。しかし、ある日には嫌がらせで泥水を被ったこともあったが、服は汚れなかった。
これは偶然ではなく天賦ではないかと疑った俺は、その時の感覚を反芻し、様々な物、そして一人のメイドにそれを試してみた。そうするとそのメイドはそれ以来、俺を差別することはなかった。
俺の天賦はおそらく、法則や理屈などを度外視して“起こった物事を否定する能力”だ。俺が赤子の頃に受けた天賦の鑑定で無能力者と認定されたのは、俺の天賦を鑑定できなかったことになったからだと結論付けた。
「後にしよう、ラドリー。それに皆を見返すにしても今更だし、天賦に気が付いた頃にはこの宮殿には愛想が尽きていた。いずれ出ていくつもりだったしね」
「でしたら、私もハント様の旅に連れて行ってください!冒険の知識は無いですが、私がご奉仕できるような事なら何でも……!」
「気持ちは嬉しいけど、危険だよ?もしこの宮殿の居心地が悪いようなら連れていく。けれど四六時中一緒にいることは出来ない」
「はい!それでも構いません!少しでもハント様と一緒にいられるのであれば……」
ラドリーは頬を染めて言う。俺としても、天賦の影響で彼女の人生を変えてしまった以上面倒は見なければならない。
今までの検証で俺の天賦について分かったことがいくつかある。その中でも特に扱いに気を付けないといけない点は“天賦の対象が生物の場合、その生物に有効なのは一度だけ”という事と“生物にかけられた天賦は自分で解除が出来ない”という事。
使い方によっては人格すら操作し、人生を変えてしまうほどの力だ。差別されていたとはいえ、俺はラドリーの人生を変えてしまったという点において多少は罪悪感を持っている。荷造りを終えた俺は立ち上がり、ラドリーに声をかける。
「さて、準備はできた。もしラドリーも行くなら用意をしておいてくれ」
「もちろんすでに用意は済ませてあります。私もすぐにでも出発できます」
「じゃあ、今日はもう寝よう。お疲れ様、ラドリー」
「……ハント様」
ラドリーは俺をベッドに押し倒し、俺に馬乗りになる。まずい。天賦の影響下にあるラドリーの性欲は尋常じゃない。
「ラドリー、明日の朝には出発だ。さすがに今日はゆっくり休んで……」
「だからこそですよハント様。明日に備えてしっかりと栄気を養うべきです♡」
「いや、それ栄気の使い方間違って……」
俺の言葉を意に留めることなく、ラドリーは獣のように腰を振り続けた。されるがままの俺は、本当に明日の朝に出発できるかが心配だった。
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