第2章 ルリのバースディミーティング(2)
「それではルリさんの5年のバースディを祝って、皆さんとハッピーバースディを歌いましょう。いち、に、さん、し、はい!」
大合唱が始まった。
『Happy birthday to you Happy birthday to you Happy birthday dear Ruri Happy birthday to you』
歌い終わると、用意していたバースディケーキ上の5本のロウソクをルリさんが吹き消す。だけど息が弱くて、なかなか消えない。再びヤジが
「もっと強く!」
「あと1本!」
四度目で5本のロウソクが消えた。またまた、嵐のような拍手である。そして5年の記念メダルと仲間が寄せ書きしてくれた色紙を、司会からルリさんへ渡され二人は握手する。ここでも大きな拍手であった。
年齢性別や境遇はまちまちだが、ここにいる33人の苦しんでいる病名は同じである。人間とは不思議なもので、ここは一種の運命共同体となる。
ただでさえバースディでお目出度いのに、ワンデーメダルの仲間が現れた。しかもバースディのルリさんにアドバイザーを依頼し、それを二つ返事で承諾する。こんなことは百万に一回もない。参加しているほとんどの人がハッピーになっていた。
ここでAS用語を解説したい。アメリカで生まれたASは考え方が日本と違う。すこぶる合理的で宗教的である。教本の作者はアメリカ人で、キリスト教徒であった。その影響で神の言葉がよく出る。
この神はキリストを言っているのではなく、その人が信じている神を指していた。また神を信じない人はそれでも構わない。この辺が日本人には、難しく感じてしまうのかもしれない。
ASの出版図書はアルコール依存症だけでなく、薬物、ギャンブル、摂食障害等の自助グループでも利用されている。また一般にも、広く読まれている人生本だ。
しかし日本では知名度がなく、書店には置いていないため無名である。和約をわかりやすく意訳的にして、日本人向けにすることを考えて頂きたい。
しかし本家のアメリカASが許可しないだろう。むやみに解釈の仕方を変えるなと。ここが民族の違いによる言語や宗教、風習により差異が出る。難しいの一言だ。
『アドバイザー』から説明しよう。日本語で言うと助言、相談者である。指導者まではないのだが、アドバイザーによっては指導者と勘違いされている人もいた。
規則は同姓だけである。異性の場合は恋愛関係に発展するリスクがあるためだ。依頼する人よりソーバーの長いほうが無難だが、別に定めはなく構わない。
助言される方は『アドバイジー』と呼ばれる。アドバイザーを依頼されたら、極力受けるように教本には書かれているが、断っても構わない。
自分にある程度の自信がなければ、相談に乗ったり助言を言うことは難しい。また住む世界が違う人からの依頼も、同様である。
アドバイザーとアドバイジーの相性も必要だろう。これが合わずに、アドバイザーを解消するケースは多い。人間関係の難しさはどこの世界も同じである。
アドバイザーに心がけてもらうことはアドバイジーに、命令をしないと言うこと。アドバイザーはティチャー、つまり指導者ではなく助言者なのだ。やるやらないの選択はアドバイジーにある。
またアドバイザーを持たない人もいた。それでも30年以上飲んでいない。アルコールの絶ち方は人それぞれで、正解も百人百色である。
次に『ハイヤーパワー』だが、アルコールを止めていると不思議なことが起きるのだ。何が起きるかは人それぞれである。三つ例を挙げよう。
①飲酒要求に負けてコンビニへ行き、酒瓶に手を伸ばしたら、後ろから名前を呼ばれる。振り返ると誰もおらず、ハッと気づく。何も買わずにすみ、スリップを免れた。
②偶然もハイヤーパワーといえる。初めてのミーティング会場へ行ったら、幼馴染の小学校の同級生がいた。二人は励ましあって、スリップの危機を乗り越える。
③※ラウンドアップに行くと、劇的な出会いが待っていたりする。自分が探していたアドバイザーや結婚相手、死ぬまで付き合うことになる盟友等だ。これから歩む人生に左右するターニングポイントといえる。
※ラウンドアップ
二泊三日の研修親善会で、300人前後の人々が参加する。
偶然性や思い込み、あるいは潜在意識から良い方向に進んだときに、ハイヤーパワーが働いたと解釈する傾向である。自分で書いてみて、今一よくわからない文章だ。
日本では吉兆が起こると、神様のお陰と祈るであろう。ハイヤーパワーも、これに準ずると考えればよい。ハイヤーパワーの源は『Dream come true』にあるのではないだろうか。
ゴッドパワーと言わないところが無神教の人を考えている。筆者はハイヤーパワーを未知の力→不思議な力→天の力→『神様の贈り物』と意訳した。
そしてワンデーメダルは病院から退院した方、スリップしてしまいやり直しする方に差し上げる。ワンデーメダル1枚ですめばハッピーなことだが、そういう方は珍しい。筆者は3人しか、確認できていない。
中には10枚持っている強者もいる。そんなにスリップしても、ASのミーティングに参加するのだ。なぜなら、断酒したい気持ちがあるから。しかしアルコールの魔力は強く、飲んではいけないと心で強く思っても、飲んでしまう人間の弱さがある。
その人の意志が決して弱いのではなく、依存症の病気が我慢することを放棄させているのだ。その我慢を教えてくれるのがAS等の自助グループである。