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第1章 AS入会(3)

 アッと言う間に三か月が経ち、飲まない生き方を模索する日々が続いた。信七郎にとっては現在、断酒の※ハネムーン期で比較的楽に過ごせている。

※筆者注:ハネムーン期とは断酒して3~6ヶ月間の期間をいう。再飲酒するリスクは低い。


 先日はルリと、他のグループのミーティングに参加した。彼女はASに繋がったのが5年前で、三回目の退院からである。初回二回とも、依存症という悪魔の病気を認めず、短期間で再飲酒する悪循環に陥っていた。

 飲む度に、酩酊状態にまで飲み続ける典型的なアル中である。ある日の朝、起床して自ら病院に行き主治医に頼んで、三度目の入院をした。

 ルリはこのときに覚悟を決めたようだ。己がアルコール依存症であると認める。そうでもしないと、自分の人生は真っ逆さまに滝のように落ちてしまうと。

 そのために入院して、スタートからリセットする必要があった。これが重要な『気付き』であり、アルコールを拒絶する強い意志となり、絶酒する決意となる。

 あれから5年の歳月が過ぎ、ルリは飲まない生き方を続けるていた。彼女は昨年から、このグループのチェアパーソンに就任している。

 チェアパーソンを直訳すると議長であるが、ASではグループの方針や目標の提案、司会など決める権限があった。しかし強制力はなく、会員の合意が必要である。

 期間は1年乃至ないしは2年の輪番制で、同一人が何年も継続することを禁止はしていないが、好ましくないとされていた。グループがいくつか集まってエリアがあり、ここで委員会が毎月実施されていた。

 上永谷グループは12のグループで、横浜南エリアに所属する。神奈川には5エリアがあり、神奈川ゾーンを形成していた。そしてゾーンは全国に10あり、現在711グループが存続している。

 会員数は定期的にチェックしていないが、およそ8000人と予測された。ASの組織的なことは後の章で説明する。 

 

 3ヶ月が経過して信七郎は悩んでいた。現在飲酒要求がなく、奇跡的に絶酒が継続している。しかし朝から浴びるように飲んでいたのは半年前で、スリップ(再飲酒)してもおかしくない。

 いつ来訪するかわからない招かざる客に、信七郎は恐れを抱いていた。しかしこのときはまだ、解決策を導き出せずに悶々と過ごす日々である。

 ところがルリに誘われて行った新横浜グループのミーティングで、思わぬスピーチを聴く。話した方は60代後半で、ソーバー(絶酒歴)が10年以上あり、彼のスピーチを要約する。

「今まで何と、多くの行動しない後悔をしたことか。自分の臆病さや自己中心から、何も行動せずに過ごしたことを変えようと思った。

 動かないで後悔するなら、動いて後悔しようと心に決める。つまり迷ったらGOだ。思い立ったら吉日と考え、何でも行動を起こすのである。

 その後やることなすことが当たり、周りの人たちが私を見る目に変化が生じる。この結果、俺自身が生きていく自信をつけることができた。この自信がすごく大きく、自分が以前と違ってきて変わりつつあると実感する。

 なぜそうなったのか、それは我々に不思議なことが起きるハイヤーパワーしか思いつかない。アルコールを止めていれば、ハイヤーパワーの恩恵に預かれる可能性は誰にでもある。俺みたいないい加減な人間にも、起こり得るのだから」

 信七郎はこれだと思った。今まで色々な人のスピーチを聞いたが、あまり心に響く言葉がないのだ。今まさに心の鐘がジャンジャンと鳴り響いている。

 そして自分なりに、先行く仲間の言葉をアレンジした。

『自分が思い付いたことで実行可能であれば、すぐに行動する。どうしようか迷った場合も、すぐ行動する。実行不可能と判断した場合は何が足りないか吟味し、実施に向けて努力する』

 このようなマニュアルを作った。そして、ここからタイトルのトリプルフェイスが誕生する。

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