第6話 ~赤砂の大砂漠~
晴天の下、カモメは鳴く。ゆらりゆらりと身を任せる。眼前に映るは赤砂の大地。流れ流されいつしか少年は海岸に流れ着く。
ルシウス「……ん……ゴホッ! ゴホッ!」
陽の光は肌を焼き付けるほど熱く眩い。
ルシウス「ここは……これは砂?」
ルシウスは体を起こすと足元の砂を一握りすくう。状況を把握できるほど意識が回復した。赤砂の海岸、流れ着くボロボロの木材、ルシウスはこれまでのことを思い出し、これからのことを考える。
ルシウス「さて……船の残骸で流れついたはいいもののこれからどうするか……そうだ! 船が流れついてるなら食料があるかもしれない!」
ルシウスは残骸を漁り始める。
ルシウス「お! あったあった!」
半刻程の時間が経ったころようやく食料と飲み水を見つけた。
ルシウス「航海用の保存食と真水の水筒が2日分……なんとかこれで街を探すしかない…よし出発だ!」
ルシウスは服を絞り、荷物をまとめて歩き出した。
歩み出した砂漠の旅路は果ての地平線まで続いている。
ルシウス「にしてもこの赤い砂……間違いない……ここはセト大砂漠だ……街まで水は無いと思った方がいいな……水を考えて使わなきゃだ……」
セト大砂漠、ミルアルヴからクラケリア海域を越えた先に広がる大砂漠。この赤き砂海はメテオラシアで唯一無二の絶景である。
ルシウス「……ハァハァ……全然街が見えないなぁ……」
太陽が空の頂まで上がりきった。白熱する太陽が肌を焼き付ける。何歩も足を進めようが希望は見えない。
ルシウス「……ま……ずい……」
限界だった。強烈な陽の光、尽きた水、そしてここに来るまでルシウスは海にしばらく流され残る体力は僅か。意識はフラつき膝から倒れ込んだ。
ルシウス「……水……」
熱された砂が火傷するほどに熱い、しかしその熱さも意識共に薄れていく。
???「……お……い! …おー…い!」
声が聞こえた。聞こえるが途切れ途切れだ、意識は朧げで今もフラついている。まるで声の主に担がれるかのようにフラついている。ゆらりゆらりゆれている。
――――――――。
ルミネ「んーもう! お兄ちゃん! これからルシウスを探しに国を巡ることになるんだから! ちゃんと覚えてよね!」
エルド「すまん、すまん!」
ルミネはメテオラシア全域の基本情報と地図が記されている本をエルドに渡した。
ルミネ「じゃぁ私はガレアスさんの支度の手伝いに行ってくるから」
エルド「お、わかった、じゃぁそれまでこれ読んでるわ」
ガレアス「お!嬢ちゃん助かるのう」
ミルアルヴからオリハル鉄王国までは道が整備されている。故に馬車を利用することが出来る。安価で安全なルートのため利用する人が多いが、肝心の馬車はそこまで多くない。その為長い待ち時間が発生する。
エルド「はぁ、まったく、俺って不甲斐無いなぁ……勉強は宮廷にいた頃から苦手で真面目にしてこなかったけど、ちょっとは兄貴らしいところ見せてぇよなぁ…よし!いっちょ頑張るか!」
そう独り言を呟く。気が乗ったエルドは渡された本を開いた。
エルド「ふむふむ……なるほど」
文章に目を通して理解しようとしていた。
エルド「えーっと、まずメテオラシアは大きく4つの大陸と1つの島嶼群、そして2つの広い海で構成されている…と、今俺がいるのがこの中央にある"セント•メトシエラ大陸"。
ここは温暖な気候で大平原と魔物の多い森林、貴重な鉱石が取れる山脈、世界最大の火山、大陸中央に存在する巨大ダンジョンが特徴。資源が多い。この山脈の麓が"オリハル鉄王国"かぁ、んで海は挟んで反対側にあるのが"ストームグランデ大陸"。
とにかく熱い気候で赤い砂漠、発光するジャングル、そしてその二つを隔て、地底へ行ける大渓谷がある。おまけに神代歴から吹き続ける謎の巨大嵐、もしかするとこのセト大砂漠にルシウスがいるかもしれないのかぁ。ジャングルの方は故郷の"神聖エルガルド王国"、追放されたからここは通りたく無いなぁ、そして遥か東、前ルシウスが言ってた"ブリザルデ平原"がある。"アイスヴァイク大陸"。
神代歴の遺跡が多く残る雪と氷に閉ざされた魔法の原点、確かここは世界で2体しかいないドラゴンのうちの1体がいる伝説があったような…。でも奥地は全ての生き物を瞬時に凍らせる領域だからなぁ。生身で行きたく無い場所だぜ…。そしてどの陸地とも遠く離れた、"スカイフォール崩落大陸"最も星が降る大陸。
古すぎて測定不能の鉄の遺物、まるで溶けたような建物の炭化跡、空気中の魔力濃度が高まると光る結晶の花、生物や魔物はほとんど生息しない世界……相変わらずここだけはバカな俺でも不思議に思うわ。んで"ストームグランデ大陸"のジャングル、その西に"オーシャンベルト島嶼群"。
数百の島々から構成される島嶼群、カラフルな草木が特徴、近隣のジャングルの植物から派生して進化したため、夜間に発光する植物が大半。ほうほう、ここがあれか、ギルドのお姉さんの言ってた"四季国"がある場所ねぇ、んで"セント•メトシエラ大陸"、"ストームグランデ大陸"、"アイスヴァイク大陸"の3大陸を隔てる広大な海が"クラケリア海域"。
深い海で入り組んだ海溝が多くある。伝説によると船を沈める化け物がいると…ルシウス大丈夫かなぁ…そして最後に"セント•メトシエラ大陸"の南、海上•海底遺跡が多く確認されている海域。"アビサル海域"。
海底から多くの神代武器や魔石といった遺物が引き上げられる。海底に巨大な円柱状の遺跡があるが激しい激流のため近づくことが出来ない。地元の伝承によると2体のうちもう1体のドラゴンが遺跡に眠るらしい」
エルドはため息と共に本を畳む。
エルド「疲れたー! まぁでも少しは賢くなったかな?」
ルミネ「お兄ちゃん! 馬車来たよー!」
エルド「おっ丁度いいねいくか!」
馬車が到着した。
御者「オリハル行きです。3名ですね。500ゴールドになります」
ガレアス「ほれ」
3人は馬車の後ろに乗り込む。御者が後ろを確認すると馬に鞭を打ち付け鉄の王国へと進みだす。
馬「ヒヒィィーン!」
――――――。
???「おー……い」
ルシウス「ん……」
???「お……い……お……おい! 君! ボクが見えるかい!?」
重い瞼を開ける。
???「うぉ! 起きた! 起きた!」
ルシウス「君は……」
目を覚まし体を置き上げると目の前に獣人族の少女がいた。
猫のような耳、褐色の肌、青みがかった短い黒髪も翠緑色の瞳。見たところ現地の人のようだ。
ルシウス「君が助けてくれたのかい?……」
???「うん! そうだよぉ! 砂漠で君が倒れていたからボクの家のベットまで連れてきたんだー♪ あっ! 自己紹介しなきゃ! ボクの名前はフェリス•サフィアナイル♪ 砂漠のツアーガイドをしてるんだぁー♪ フェリスでいいよぉー、君は?」
ルシウス「僕はルシウス。見ての通り駆け出しの冒険者ですよ。ここまで運んでくれてありがとう! よろしく。」
フェリス「うぉぅ! よろしくぅ!」
彼女の陽気さが疲れた体に応える。
フェリス「それで気になるんだけどぉ、なんで砂漠のど真ん中にいたの? 危ないよ?」
ルシウス「それは……」
ルシウスがこれまで身に起きた出来事を話した。ミルアルヴでの出来事、ここまで流された経緯、赤砂の大地を彷徨っていた理由も全て。
フェリス「ふぇぇ……それはとんだ災難だねぇ……。それにしてもそんな強い魔物を倒したの? 凄いよぉ♪」
ルシウス「ありがとう」
フェリス「んで、これからどーするの?」
ルシウス「仲間を探す旅に出ようと思う」
フェリス「そうかぁー……」
フェリスは視線と肩を下を落とす。
ルシウス「……なんでそんな残念そうなの!?」
フェリス「実はね、最近ツアーのルートに強い魔物が出てね……お客さんが来ても案内出来ないし困ってるんだぁー、チラチラ……あー誰かー助けてくれる優しくて強い人はいないかなぁー、どこにいるんだろうなぁーチラチラ……」
ルシウス「……」
フェリスのあからさまな態度にルシウスは困惑するも気を引き締めた。
ルシウス「……はぁ、はいはい! わかった! やるよ」
フェリス「やたぁぁーぅ!」
フェリスは両手を天に掲げ猫が鳴くように喜びだした。
砂岩レンガの家は文化を感じさせる。流れ着いた場所、因果が実った結果なら運命なのかもしれない。新しい出会いは因果の揺らぎ、先の未来は神さえも決定することはできない。
赤砂を歩く猫の家《フェリスの家》にて