表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第三話 直貴、不本意ながら狼になる(一)

「がおおおおおっ!」

「きゃああっ!」


 デートを邪魔された上にお化け要員に駆り出された直貴は、半ばやけになって、訪れる客たちを全力で脅かしにかかる。


 彼氏を連れてきた寮の住人は特に念入りに男のほうを脅かした。

 最初のうちは女子を脅かしていたが、その分わざとらしく「きゃあっ」などと悲鳴を上げて彼氏の腕にしがみつく。

 それを見ていたら無性に腹が立って、途中からターゲットを彼氏に変える。


 情けなくもおびえる彼氏にがっかりしちまえっ。


 狼男に変身したブラック直貴は、図らずも女子三人組が期待した以上の働きをした。日頃のストレスがいい仕事をさせたのは言うまでもない。



「ナオくん、お疲れさま。お客さんもそろったから、前座のお化け屋敷は終わりにするわね」

 不意に廊下の明かりがつき、優香が食堂から出てきた。


「前座だって?」

「これからあたしたちライブをするの」


 三人はいつのまにかライブ用衣装に着替えている。

 まさかこのあと、楽器のセッティングまでやれというのか。


 第一直貴は何も準備をしていない。自分のシンセサイザーやノートPCは部屋に置いたままだ。

 それともお化け屋敷で入場者を怖がらせている隙に、勝手に部屋に入って、楽器を持ってきたのだろうか?


 ライブをするつもりなら、あらかじめ一声かけてくれなければ。



 それよりも一番の気がかりは奏音だ。約束の時刻から一時間以上が過ぎている。

 連絡も入れずにすっぽかしてしまった。


 このままで良い訳がない。

 好きな女の子を放って、どうして三人組のわがままにふりまわされなくてはいけない?


 こんなのはおかしい。

 ここで厳しい態度をとらなくて、いつとるというんだ?


 直貴は決意した。こんな仕打ちを受けておいて、それでもいい人でいる必要はない。


「おい、ぼくのスマホは?」

「それなら食堂にいる千絵里が持ってるわ」


 直貴は食堂に駆け込み、奥のステージで薫と打ち合わせをしている千絵里のところまで、観衆をかき分けて行った。


「あ、ナオくん、お疲れ。実はライブだけど……」

「ライブって何の話だよ。ぼくは一言も聞いてないよっ」

「あたりまえさ。だってサプライズ……」


「うるさいっ! サプライズってどういう意味だよ?

 あれほど予定があって協力できないと言うのを無視して、無理やり手伝わせるのがサプライズなのか?」



 千絵里がいつものように口を挟んで言い負かそうとする。

 都合のいい言い訳なんて聞きたくない。千絵里をキッとにらみつけて阻止し、直貴は続ける。


 相手は女の子だし、せっかく音楽に興味を持ってくれたんだと思って多少のわがままは我慢してきた。でももう限界だ。

 今まで抑えていた不平不満が、せきを切ったようにあふれ出す。


「いい加減にしろよ。これ以上ぼくをふりまわさないでくれ。

 人のことなんだと思ってるんだ? きみらの執事か? お守り役か?

 ぼくは忙しいんだ。こっちにだって予定があるんだ!」


 そう怒鳴りつけると、直貴は千絵里が持っていたスマートフォンをひったくる。

 急いで着信履歴をチェックすると、予想通りの結果が表示された。


「あちゃー」


 数回の着信履歴とメールが一件届いている。奏音からだろう。開くのも恐ろしい。

お読みいただきありがとうございました。

もし気に入っていただけたら、評価やいいね、ブックマークなどをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ