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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
緊迫の新婚旅行へ向かいます!

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火竜の眠る山 3

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 次の日、わたくしとグレアム様、ロックさん、オルグさん、そしてドウェインさんはハイリンヒ山を目指して出発しました。


 ハイリンヒ山は、デネーケ村から歩いて二時間ほどの場所にあります。

 木の根っこがたくさん飛び出している森の中は、足場が悪くて歩きにくいので、わたくしはグレアム様に抱きかかえられています。


 歩けますよと言ったんですけどね、一回だけ木の根っこに足をとられて転びかけてしまって、心配したグレアム様が下ろしてくれなくなりました。


 ……グレアム様、重くないでしょうか? わたくしを抱えて二時間も歩くなんて大変です。途中で休憩は取りますが、それでも疲れてしまうと思うのです。


 わたくしはグレアム様の体力が心配になりますが、同時にグレアム様にぴっとりとくっついていられることが嬉しいとも思ってしまいます。……こんな時に、不謹慎ですよね。


「それにしても、ここ……魔石がたくさんありそうですね。あちこちから強い魔力を感じます」

「なに?」


 ただグレアム様に抱きかかえられているだけというのも申し訳ないので、何かお役に立てないかと周囲の魔力を探っておりますと、あちこちからすごく強い魔力を感じるのです。純粋な魔力なので魔石になったばかりのときの魔力だと思います。


 わたくしの発言に、グレアム様がぴくりと反応しました。

 見上げますと、ものすごく採取に行きたそうな顔をしています。

 ですが、ドウェインさんにさきほど「キノコを採りに行くな!」と怒ってしまった手前、自分だけ魔石を取りに行くことはできないのでしょう。残念そうに肩をすくめました。


 村から一時間ほど歩いたところで、わたくしたちは休憩をとることにします。

 ロックさんとオルグさんが、飲み物と軽食を入れたバスケットを持ってきてくださいましたので、それを頂くことにしました。

 わたくしはグレアム様に地上に下してもらって、グレアム様が土の魔術で作ってくださった椅子に座ります。グレアム様のお隣です。


「姫、キノコ……」

「我慢してください。ハイリンヒ山に到着した後は、帰るまでは自由時間を差し上げますから」


 深い森の中は方向感覚がなくなってすぐに迷ってしまいそうなので、ドウェインさんの案内は不可欠なのです。その案内役がキノコを求めて右に左に歩き回ったら、いつまでたってもハイリンヒ山にはたどり着けないじゃないですか。


 ドウェインさんによると、ここ最近、このあたりには、真っ赤な炎が燃えるような形をしたキノコが生えているらしいです。昔は生えていなかったので、地質に変化が出たのか、どこからか胞子が飛んできたのかは知らないそうですが、新しいそのキノコはドウェインさんをいたく感動させたのだそう。

 ちなみに名前がわからなかったためドウェインさんは勝手に「炎のキノコ」と呼んでいます。


 その炎のキノコは、食べると体がぼっと熱くなって、とっても辛いのだそうです。笑ったりしびれたり痙攣したりするよりは、周囲をギョッとさせない反応なので、わたくしはその「炎のキノコ」については何も言いません。ただ探しに行くのは案内を終えてからにしてほしいだけです。


 ドウェインさんはキノコの入っていないサンドイッチを少々不満そうに口に入れて、近くの木の幹にひょこっと生えている黒いキノコを恨めし気に見やりました。


「キノコ……でもあれは普通のキノコなんですよね」

「普通のキノコって何ですか」

「毒じゃないキノコです。人間はあれが珍味らしいですけど、私からすれば物足りないんですよね」

「珍味?」

「ああ、生だとあまり見かけないかもしれませんね。保存がきかないので乾燥させて売られますし。というか、市場にはあまり出ないかもしれませんね」


 ドウェインさんのその発言に興味を覚えたのがオルグさんでした。オルグさんは食べることが大好きですからね。珍味と聞いて反応せずにはいられないのでしょう。


「奥様奥様、何のキノコなんです?」

「さあ? ドウェインさん、何て名前のキノコですか?」

「芳香茸ですよ」


 芳香茸ですか、わたくしは聞いたことがありませんが、有名なのでしょうかとオルグさんを見れば、オルグさんが目を見開いていました。


「芳香茸ですか⁉ 乾燥させたこんな小さなものが一つで金貨何枚もする超高級食材じゃないですか‼」

「そ、そうなんですか?」


 わたくしは思わずグレアム様を見てしまいました。

 グレアム様も肩をすくめて頷きます。


「味はあまりなく、香りを楽しむキノコだ。先ほどのドウェインの発言を訂正するなら、芳香茸を乾燥させるのは、日持ちがしないだけではなく、乾燥させないと強い香りが出ないからでもある。しかし、生えている状態のものははじめて見たな」

「感心している場合じゃないです旦那様‼ 採って帰るべきですよ! これだけで金貨何十枚……! というか食べたいです!」

「だがな……」


 グレアム様がちらりとドウェインさんを見たので、わたくしも視線を追います。


 ……あ。ドウェインさんがすっごく恨めしそうな顔をしています。自分はキノコ狩りを禁止されたのに、オルグさんはいいのかと言いたそうな顔ですよ。


「毒キノコと芳香茸じゃあ比較対象になりませんよ‼」


 オルグさんは何が何でもそこにある芳香茸がほしいようです。

 グレアム様は考えこんで、それからやれやれと息を吐きました。


「ドウェイン、休憩を終えるまでの十分間なら、キノコ採取をしてかまわん。それならいいだろう」


 ドウェインさんはぱあっと顔を輝かせて「もちろんです」と答えると、すごい勢いで森の中に入っていきました。

 オルグさんはオルグさんで、鼻歌を歌いながら芳香茸をとって、サンドイッチが入っていた籠の中に入れていきます。

 ロックさんはあきれ顔で、そんなオルグさんを眺めていました。


「アレクシア。ほら、もう一つくらい食べたほうがいい」


 グレアム様は我関せずで、わたくしに小さめのサンドイッチを勧めます。

 わたくしはサンドイッチを食べながら、ドウェインさんのキノコ知識も役に立つことがあるのだなと、ちょっぴり感心してしまいました。




お読みいただきありがとうございます!

新連載開始しました。

よかったらこちらもよろしくお願いいたします。


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