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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
大魔術師様の妻をやめるつもりはありません

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火竜の末裔 2

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 ドウェインさんは南に向けて移動しています。

 どうやら、火竜の一族は現在ホークヤード国を拠点としているそうです。

 数年で移動する流浪の民だそうですから、いつまでホークヤード国を拠点とするのかはわかりませんが、彼らは各地を転々としながら、眠りについた火竜を目覚めさせる方法がないかを探っているとのことでした。


 ……眠っている竜を目覚めさせる方法ですか。それがわかれば、火竜様だけでなく、クウィスロフト国の地下でお眠りになっているという水竜様もお目覚めになるのでしょうか?


 竜がなぜ眠りについているのかは知りません。

 ですが、竜が眠りにつき、この世界から姿を消して久しいのです。ここにきて各地で竜が目覚めはじめたら、人々はパニックになりませんかね。


 ドウェインさんはうっとりと、早く火竜様がお目覚めになってくださればいいのにとおっしゃっています。

 クウィスロフト国の人々は強すぎる魔力を恐れる傾向にありますが、魔力至上主義的な考えを持っている火竜の一族は、これはこれで問題があるように思えますね。何かにとりつかれているようでちょっと怖いです。


 わたくしはドウェインさんとともに馬車に揺られています。

 時にはドウェインさんが魔術をかけて姿を消したりもします。

 つまり、姿を消す魔術でわたくしが逃げ出すことはできそうもありません。


 ……困りました。隙を見て姿を消す魔術で逃げようと思っていたのですが、ご自身が使えるだけあって、ドウェインさんは姿を消していても気配を察知することができるようです。


 気配を完全に消す風と火を含めた四属性の複合魔術はわたくしはまだ習っておりませんから、姿を消しての逃亡は難しそうです。

 グレアム様のように、空をビュンと飛べればいいのですけど、少し体を浮かせることはできても自由に空を飛ぶこともまだできません。

 グレアム様から教わった護身術でやっつけるという荒業も思いつきましたが、ドウェインさんの方が強いのでこれも無理です。


 ……何か方法はないでしょうか。何か。


 南が近づくにつれて、わたくしの中に焦りが生まれてきます。

 ドウェインさんにさらわれて三日。ホークヤード国まではまだまだ時間がかかるのはわかっているのですが、王都から離れれば離れるほど不安が大きくなるのです。


 ……グレアム様は、わたくしを探してくださっているでしょうか。探してくださっているに決まっています。自力で逃げ出せなくとも、何とかしてグレアム様に居場所を伝えなくては。


「姫。このあたりは宿がないから、今夜はあの神殿に泊まりましょう」


 日が傾きはじめて、ドウェインさんが馬車を降りながら言いました。

 この馬車はこのあたりの農家の方の荷馬車で、雇ったものではありません。ドウェインさんは農家さんに礼金を渡して、道の途中にぽつんと立っている神殿へ向かいました。

 神殿は、旅人に宿も提供しているのです。

 ドウェインはフードもかぶらず、堂々と歩き回っていますが、どうも、わたくしとご自分の周囲に風と光の複合魔術の結界を張って、上空からは姿を見えなくしているようです。つまり、鳥の獣人さんの諜報隊の方たちからは見えないのです。おかげで、諜報隊の方がすぐに気づいてくださるだろうと言うわたくしの見込みはすぐに外れました。……ずるがしこいと思います。


「あ! 姫、見てください!」


 神殿に向飼って道を歩く途中で、ドウェインさんが嬉しそうな声を上げて立ち止まりました。


 ……またですか。


 ドウェインさんが何に興奮しているのか、わたくしはもうわかっています。

 キノコです。

 畑のあぜ道に、ひょこっと顔を出している明らかに毒キノコっぽい見た目の赤いキノコを見つけて、ドウェインは駆けていきます。


 ……この方、本当に不思議な方です。だってキノコが好きなんです。毒キノコだろうと当たり前のように口に入れるんです。そして毒に当たって腹痛を起こしたり痙攣しながら笑うんですよ。変人です!


 本人曰く、毒キノコの方が美味しいのだそうですが、わたくしはいくら美味しくても、毒キノコは嫌です。

 ドウェインさんはキノコを食べ終えた後で魔術でご自身を解毒しますが、どうせ解毒するのならキノコに解毒の魔術をかければいいと思うのですよ。なのに、毒もスパイスだと意味不明なことをおっしゃるのです。……この方との旅はとっても疲れるので、姫だの王だのを抜きにしても、そろそろ開放してほしいです。


 笠の大きい赤いキノコを嬉しそうに握りしめて戻ってきたドウェインさんに、わたくしはこっそりため息です。いっそ毒キノコの毒にやられてしばらく動けなくなってくれませんでしょうか。そうすれば逃げ出せるのに。


 ドウェインさんは歩きながら、生のままキノコを頬張っています。

 そして突然けたけたと笑いだしました。

 どうやらこのキノコは笑いキノコだったようですね。

 笑いながらキノコを食べるドウェインさんはものすごく不気味です。

 農作業の片づけをしていた農家さんが奇妙なものを見る目でこちらを見てきます。


 ……こんな変な方と一緒にされているようで、わたくしはとっても遺憾ですよ。クレヴァリー公爵家で暮らしていたときは常に飢えておりましたが、さすがに毒キノコには手は出しませんでしたからね! 毒もスパイスとかいう変人さんと一緒にしてほしくないです! しかもこの方は誘拐犯ですよ! わたくし、今、攫われているのです! そうは見えないかもしれませんがっ!


 変人さん、もとい、ドウェインさんは、笑いキノコを食べ終えると満足したようにぺろりと唇をなめて、魔術でご自身の解毒をしました。


「ああ、美味しかった」

「そうですか……」


 ドウェインさんは繊細な見た目とは裏腹に、樹海の奥深くでも平然と暮らしていけそうな図太い方だと思います。


 ……いっそ眠りキノコを食べてぐっすり眠ってくださればいいのに。さすがに眠りキノコだと、解毒する前に眠ってしまうでしょうからね。


 そこまで考えて、わたくしは存外これは妙案である気がしてきました。

 そうです。眠りキノコを食べていただけばいいのです。毒キノコも平然と食すドウェインさんですから、眠りキノコもきっと当たり前な顔をして食べると思うのですよ。

 眠りキノコがどこにあるのかわかりませんが、きっと山に入ればそれらしいものが手に入るはずです。

 神殿を少し行った先に山が見えますから、神殿に宿泊した翌日にキノコ狩りにお誘いしたら、もしかしたら行く気になるかもしれません!



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