パーティーはキラキラでにぎやかでちょっぴり緊張します 4
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ダリーンの記憶に出てきた金髪に赤い瞳の魔術師は、ドウェインという名の魔術師だった。
もちろん、この名前が偽名である可能性も高い。
だが、そんなことよりも、このドウェインという魔術師がアレクシアの名前を知っていて、アレクシアについて情報を集めているということが問題だった。
(アレクシアは知らないと言っていたから、あちらが一方的にアレクシアを知っているということか?)
クレヴァリー公爵家で暮らしていた時、アレクシアはほとんど邸の外へは出なかった。
だからもしかしたら、コードウェルへ移動する旅の途中で知り合いになった男かもしれないとも思ったのだが、知らないと言うのだから知らないのだろう。アレクシアが嘘をつくとは思えない。
ダリーンの記憶では、コルボーンを出てから王都まではドウェインとずっと一緒だった。
ドウェインはクレヴァリー公爵家にも立ち寄り、邸の中をいろいろ調べて回っていたようだ。
そして、最終的に、クレヴァリー公爵に、記憶を覗く魔術をかけた。そこまでしてアレクシアの情報が欲しかったようだ。
ドウェインは、魔術をかけられて壊れた公爵とダリーンを置いて、そのまま公爵家を出ていった。
ダリーンは壊れた公爵を刺し殺したが、その時には姿を消す魔術が解けていたので使用人に見つかり通報され、捕縛された。
(……顔色一つ変えず記憶を覗く魔術をかけることができる人間ははじめて見た)
何度か経験したことのあるグレアムですら、他人の記憶を覗くのは苦痛を伴う。
それなのにドウェインは眉一つ動かさなかった。あまりにも淡々としすぎていて、グレアムですらぞっとしたほどだ。
ドウェインという魔術師がアレクシアについて調べていることを、アレクシアに伝えるべきかどうかはまだ迷っている。
知らない誰かが自分について調べているのは、気分のいいものではないだろう。
気持ち悪いし、恐怖を感じてもおかしくない。
今のところ、アレクシアについて調べているという情報を伏せて男の顔だけは知らせたので、それらしい男を見かけたら警戒はしてくれると思う。
いつまでも秘密にしておくことはできないだろうから、どこかで伝える必要はあるが、できればドウェインを捕らえた後で伝えたい。その方が恐怖が大きくないだろうから。
「お待たせしました、グレアム様!」
玄関の壁に寄り掛かってぼーっと考え事をしていると、アレクシアがメロディとともに玄関ホールに降りてきた。
(……ああ、可愛らしいな)
今日は、デイヴィソン伯爵家のパーティーだ。
淡いグリーンのドレスはふわりと軽い布地が幾重にも重ねられているデザインで、動くたびにしゃらしゃらと揺れる。
髪は一つにまとめられ、金色の蝶の髪飾りが挿してあった。光の魔石をあしらった髪飾りだ。金色の蝶に同化していてぱっと見ではわかりにくいが、よく見れば光の魔石が輝いているのがわかる。見る人間が見れば度肝を抜くほどの価値のある代物だ。
首には青い水の魔石の首飾り。手首には赤い火の魔石と白い土の魔石をあしらったブレスレット。
左手の薬指に光る結婚指輪には闇の魔石と土の魔石。
(……魔石のアクセサリーをこれほど身にまとった令嬢はほかにいないだろうな)
魔石のアクセサリーはとんでもなく高価な上に、魔石は魔力がこもっていないと輝かない。魔術師の女性は好んで身に着けるが、それでも高価すぎて数を揃えるのは不可能だ。さらに言えば、希少な闇の魔石と光の魔石をアクセサリーにしようなんて考える人間はまずいない。というか魔石そのものが手に入らない。
デイヴィソン伯爵家のパーティーには魔術師も来ているだろうから、きっととんでもない注目を集めるのは間違いなかった。グレアムの金色の目とアレクシアの金光彩の入っている目も相まって、おそらくほとんどの人間は近づいてこないだろう。
「どうです? よくお似合いでしょう?」
メロディがどや顔で胸を逸らす。
「ああ、よく似合っている」
グレアムが答えると、アレクシアがぽっと顔を赤く染めた。
いつまでたってもちょっとしたことで照れるアレクシアが、たまらなく可愛い。
できれば抱きしめてしまいたいが、メロディが妨害するのはわかっているので、うずうずしながらもなんとか衝動を抑え込む。
(ドウェインの目的はわからないが、アレクシアに接触させるものか)
手を差し出せば、アレクシアがはにかみながら小さな手を乗せる。
緊張しているのだろう、肩に力が入っていた。
無理もない。アレクシアにとってははじめてのパーティーだ。幼いころから目の色のことで散々嫌な思いをしてきたアレクシアにとって、貴族が大勢集まるパーティーは恐ろしいだろう。
だが、それでも、否が応でもアレクシアへの他人の目はこれから変わる。
なぜならスカーレットが、次期王をグレアムの子にすると発表したのだ。
グレアムの妻であるアレクシアは、順当に考えれば国母になる。子供ができない可能性もあるが、その時は王家の誰かを養子に取ればいいだけで、どちらにせよ、次期王の母になるのだ。
利に敏いものほど、目の色を恐れてアレクシアを遠巻きにするような愚かな真似はしない。
アレクシアは良くも悪くも、これから女王の次に注目される女性になるのだ。
(とはいえ、アレクシアは注目されればされるほど萎縮しそうだからな)
近づいてくる相手を見極めて、アレクシアに負担がかからないようにしなくては。
今日は魔石の武装が人除けになるだろうが、アレクシアが常に魔石のアクセサリーを身に着けているとわかるとその効果も徐々に薄まってくる。
「アレクシア。俺がずっとそばにいるから、大丈夫だ」
隠せるものなら、ずっと腕の中に隠しておきたいがままならないものだと、グレアムは小さく苦笑した。






