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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
大魔術師様の妻をやめるつもりはありません

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パーティーはキラキラでにぎやかでちょっぴり緊張します  3

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

「おかえりなさいませ、グレアム様。……その手! どうされたんですか⁉」


 クレヴァリー公爵邸に戻ってきたグレアム様を出迎えたわたくしは、グレアム様の左手にぐるぐるとハンカチが巻かれていることに気がついてぎょっとしました。

 ハンカチにはうっすらと血がにじんでいます。

 慌てて駆けよって手を取ると、グレアム様が大したことはないと言って笑いましたが、血がにじんでいるのですから大したことないわけではないと思います。


「アレクシア、ダリーンの記憶だが」

「そんなことよりも先に手当てをしましょう! マーシア! 傷薬と包帯をお願いしますっ」


 報告はいつでも聞けますので、まずは傷の手当です。

 きちんと消毒して薬を塗っておかないと、傷が化膿して大変なことになります。

 グレアム様は大げさだなとおっしゃいますが、大げさではございません!

 グレアム様の腕を引っ張ってダイニングに異動しますと、わたくしはそっと手のひらのハンカチをほどきました。


「ひどい怪我じゃないですか!」


 わたくしが青くなった横で、傷を覗き込んだメロディが怪訝そうな顔をします。


「拳をこんなに握りしめるほど、何か嫌なことでもあったんですか?」


 どういうことでしょう。拳を握り締める……?

 首をひねって、わたくしはハッとしました。この傷、爪痕です! ぎゅって手を握って爪で怪我をしたのです。でも、何故?


「ダリーンの記憶は糞だった」

「あー……」


 メロディはそれだけで合点したようですが、わたくしにはよくわかりません。

 マーシアが持ってきてくれた消毒薬を脱脂綿に含ませて、痛くないように慎重に消毒していきます。


「しみないですか? 大丈夫ですか?」

「ああ」


 グレアム様が優しく目を細めて微笑みます。

 痛いはずですのに、どうしてそんな顔で微笑むのでしょう。

 消毒を終えて、薬を塗ると、きつくならないように気を付けながら包帯を巻いていきます。

 傷を塞ぐ魔術はあるのですが、グレアム様がそれはあまり使わない方がいいというのです。魔術で傷を治してばかりいると、人が持つ回復機能? というものがだんだん怠けて使い物にならなくなるのだとか。なので、よほど命に関わるような大怪我でない限り、魔術で治癒はしないようにと言われています。


 手当てが終わると、マーシアが二人分のお茶を入れてくれました。

 お茶を飲んで一息ついたところで、グレアム様が席を立ちました。


「アレクシア、俺の部屋に行こう。悪いがアレクシアと二人きりにしてくれ」

「…………今日は特別ですよ」


 メロディが不服そうな顔をしながらも頷きます。

 異母姉の記憶についてお話しするのでしょう。もちろんわたくしに異論はございませんので、グレアム様とともに二階に上がりました。

 部屋に入って、ぱたんと背後で扉が閉まるなり、グレアム様がぎゅっとわたくしを抱きしめます。


「グレアム様……?」


 どうなさったのでしょう。

 わたくしを抱きしめたグレアム様は、わたくしの肩口に額をつけて微動だにしません。


「しばらくこのままでいさせてくれ」

「はい……。あの、お姉様の記憶で何か?」


 異母姉の記憶は気分の悪いものだったらしいです。どのようなものだったのかは存じませんが、グレアム様が不快な思いをなさったのはわかります。


「……嫌なものばかりだった。あんなものはもう見たくない」


 グレアム様の声がかすかに震えていらっしゃいます。

 わたくしがそっと背中に手を回しますと、グレアム様の腕の力がさらに強くなりました。


 ――どのくらい時間が経ったでしょうか。


 グレアム様はふぅっと細く息を吐いてから抱擁を解きました。


「悪い。……話をしなくてはな」


 手を引かれて、ソファに異動すると、グレアム様がわたくしを膝に横抱きにして座ります。

 左手、痛くないのでしょうか。

 わたくしの背中を支えるように添えられている左手の傷が心配です。


「ダリーンの記憶を覗いてわかったが、やはり魔術師が関与していた。……アレクシア、この魔術師に見覚えはあるか?」


 グレアム様が光の魔術で幻影を作り出します。

 虚空に浮かび上がった幻影は、金色の髪に赤い瞳をしたなかなか端正な顔立ちの男性でした。


「いえ、わたくしは存じ上げません」

「そうか。……そうか。ならいいんだ」


 グレアム様は思案されているような声でおっしゃってから幻影を消しました。


「クレヴァリー公爵を殺害したのはダリーンで間違いなかった。魔術師の協力でコルボーンから逃げ出したダリーンは王都へ向かい、クレヴァリー公爵を刺殺した」

「でも、何故……」

「恨みだ。自分をコルボーンに追いやった恨み、助けてくれなかった恨み。そのような感情が見て取れた」

「そうですか……。あの、つまりお姉様は、魔術師の方を雇ったということですか?」

「雇った、か。……そうだな。というより交換条件というものだったのだろうが、魔術師側からダリーンに接触したようだ」

「交換条件……。それは一体……」

「なに、たいしたことではない。ともかく、関与した魔術師の顔はわかった。この国の人間ではないだろうが、姉上にも伝えたから近く指名手配されるだろう。だが、魔術師が捕縛されるまでは気を抜かない方がいい。デイヴィソン伯爵家のパーティーが終わり、公爵家の後継問題が片付いたらコードウェルに戻ろう。王都よりコードウェルの方が安全だ」


 たいしたことではないと言いながら、グレアム様は何かを警戒していらっしゃるようでした。

 強い魔術師が関与しているのなら、捕縛にはグレアム様のお力が必要です。

 コードウェルに戻っても、グレアム様はたびたび王都へ出向くことになるはずですので、それでしたらすべてが片付くまで王都に滞在していたほうがいいと思うのです。

 それなのに、不便を承知でコードウェルに戻ろうと言うのですから、グレアム様が警戒する問題がまだあるのです。


 ……教えてくださらないので、わたくしには教えられない重要機密なのでしょう。


 グレアム様はわたくしの額にちゅっと口づけて、頭のてっぺんに頬を寄せてぎゅっと抱きしめます。


「心配しなくとも大丈夫だ」


 ぽつんと落とす言葉は、まるでグレアム様がご自身に言い聞かせているように聞こえました。




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