王都へ向かうことになりました 6
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中庭から戻って少ししたところで、アイヴァン様がいらっしゃいました。女王陛下のお支度が整ったそうです。
宰相閣下自ら案内してくださるのは恐れ多い気がいたしますが、本件についてはアイヴァン様も話し合いに参加なさいますのでそのついでだとか。
公爵家で起こったことですので、下手に情報は出せないため、一部の人間にしか真相は知らされていないらしいです。
すべてがつまびらかになった後で、女王陛下がどこまでの情報を開示するかを決めるのだそうです。
女王陛下との謁見ですが、案内されたのは城の応接間でした。
今回は内緒話もしますし、謁見の間は使わないそうです。
応接間にはすでにお茶とお菓子が準備されていて、甘いいい香りがいたしました。
「いらっしゃいグレアム! 相変わらず綺麗な顔!」
グレアム様が部屋に入りますと、ゆったりとソファでくつろいでいらした女王陛下が立ち上がり、駆け寄ってグレアム様を抱きしめました。
グレアム様は嫌な顔をして、べりっと音がしそうな勢いで女王陛下の顔を手のひらで押します。
「弟にまで欲情するな! 節操なしがっ」
「失礼ね。さすがに弟にそんな感情は抱かないわよ。ただの再会の抱擁よ。アレクシアもよく来たわね。顔を見せて頂戴。……あら、以前あったときと比べてずいぶん顔色がよくなったわ。きっとグレアムにたくさん愛されて――」
「んんんっ!」
「なによ」
「王なんだから、あまりあけすけな言い方をするな!」
「今は身内しかいないじゃないのぉ」
「宰相がいるだろう宰相がっ」
「ああ、そういえばいたわね」
女王陛下は口をとがらせてから、仕方なさそうにソファに戻りました。
アイヴァン様は「あけすけなのはどっちもどっちでしょう」と小声でぼやいています。
席に着きますと、メイドがお茶を入れてくださいました。
そして、室内に四人だけになったところで、女王陛下が口を開きます。
「それで早速本題なんだけど、クレヴァリー公爵家で何があったの? わかる?」
「魔術師の、それも力の強い魔術師の関与が疑われるが、それ以外はあまり有力な情報は持っていない」
「調査できそう?」
「試してみるが、時間がかかるだろう。目的も定かではない。ダリーンの聴取は?」
「まだ。だって、自分は悪くないの一点張りで、なにも教えてくれないんだもの。この件はあなたに任せるから、聴取もお願いするわ。あなたならどうにかできるでしょ?」
「魔術を使えば可能だが、ダリーンの体に負担はかかるぞ」
「構わないわ。公爵を殺したのは間違いなさそうだし、たぶん処刑になるでしょうから」
……処刑。
さすがにその可能性は考えておりませんでしたので、わたくしは思わず息を呑みます。
すると女王陛下がわたくしを見て、にこりと微笑みました。
「あなたに飛び火しないようにするから心配しないで。ただ、公爵家の相続のことでは手を煩わせてはしまうけど」
「は、はい……」
何と表現すればいいのでしょう。
処刑という言葉が怖くて、でもやっぱり悲しいとは思えなくて、ぎゅっと膝の上で拳を握り締めますと、グレアム様がそっと手のひらを重ねてくださいました。
「アレクシアにダリーンの処罰を伝えないわけにはいかないが、少しはアレクシアの気持ちも考えてくれ」
「……この程度、慣れてくれないと困るんだけどね」
「アレクシアは王妃になるわけじゃない。慣れる必要はない」
「国母も結構立場は重いのよ?」
「俺はアレクシアを国政に関わらせるつもりはないし表に出すつもりもない。それが義務だというのなら、俺の子を次期王にするという話はなしだ」
「ちょ……! ああもうっ、わかったわよ。悪かったわ。余計な口は挟まないわよ」
女王陛下はやれやれと首を横に振りました。
……わたくしがしっかりしていないせいで、申し訳ございません。強くならなければと思うのですけど、まだ心が追いつかなくて……。
グレアム様は気にしなくていいとおっしゃってくださいますけど、異母姉が処刑されると聞いても悲しくならない自分自身の感情が、以前ほどではなくともまだ不安なのです。
こうあるべきだというわたくしの中にある常識と、そうならない感情の乖離に、自分自身のことがよくわからなくなってしまうのです。
「それで調査は任せるけど、コルボーンの方はどうするの?」
「あっちはできれば被害者という形で処理してくれ。エイデン国の手前もある」
「……そうね。下手なことをして、エイデン国を刺激するのはまずいわね。でもそうなると跡継ぎ問題が面倒くさいことになるわね。できれば跡取りには貴族の血が流れていることが好ましいわ」
「それはおいおいブルーノを交えて話し合えばいいだろう。クレヴァリー公爵家を公爵の親類の誰かに譲るのであれば、そこの縁者の誰かを嫁がせてもいい。クレヴァリー公爵家の相続問題と並行して進めれば問題ない」
「まあそうね。わたくしの長女はまだ十二歳だし、代わりに嫁がせるのは酷だもの」
「王女が嫁げば箔はつくがな。さすがに十二歳を二十九歳に嫁がせるのはな。もらったブルーノも困るだろうし」
王女殿下が嫁げば、女王陛下がコルボーンに目をかけていると対外的にアピールできます。ですが、わたくしもまだ十二歳の王女を嫁がせるのは可哀そうだと思います。いくら貴族令嬢や王女が政略結婚の道具と言われるとはいえ、もう少し大人になるまで待ってあげてほしいです。
「この話はあとにしましょう。今すぐ決めなくてはいけない問題でもないし。関与している魔術師を特定して捕らえてからでも遅くないわ」
「ああ。まずはダリーンの聴取からだな。任せてもらえるのなら好きにさせてもらう。公爵家の相続については、アイヴァン、アレクシアが困らないように調整しながら進めてくれ。俺もアレクシアもクレヴァリー公爵家はいらんから、誰かに継がせる方法で動く予定だ」
はい。親戚の誰かに公爵家を譲るのは、クレヴァリー公爵家の相続の話が出たとき、わたくしとグレアム様で決めたことです。わたくしは不要ですし、グレアム様も管理する土地が増えると面倒くさいから嫌だとおっしゃいましたから。
ただ、コルボーンのことがありますので、獣人に対して差別意識の少ない方に継いでいただきたいです。
そうなるとやはり、デイヴィソン伯爵の長男のエルマン様が一番いいと思うのですよね。
「かしこまりました。書類は大方整えていますので、あとは相続される方との調整ですね。何度か会っていただくことになりますが、グレアム様はご一緒――」
「当たりまえだ」
「わかりました。では、グレアム様も同席する方向で日程を調整いたしましょう」
アイヴァン様はすでにデイヴィソン伯爵とエルマン様に内々に話はしていたそうです。
お二人とも、わたくしがよければエルマン様が継ぐ方向で問題ないとお答えになったとか。
ただ、公爵家を継ぐにあたってわたくしの意向を確認したいのだそうで、直接会って話がしたいとおっしゃったらしいのです。
社交シーズンの季節ですから、デイヴィソン伯爵とエルマン様は王都に滞在中ですので、予定を調整すればいつでも会えるとのことですが――
「それなら、ちょうどいいわ」
いつ予定をつけようかとアイヴァン様がお考えになっていると、女王陛下がポンと手を叩きました。
「三日後、デイヴィソン伯爵家でパーティーがあるから、顔見せもかねていってらっしゃいな」
それはいいとアイヴァン様が頷く横で、グレアム様が嫌な顔をなさいました。
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