王都へ向かうことになりました 5
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「あっちの廊下はギャラリーだから見ても面白くない。中庭に向かおう」
グレアム様が城の奥へ続く廊下をさして言いました。
ギャラリーとは、歴代の国王陛下の肖像画が飾られている廊下です。初代から続くので、とんでもない数だそうで、皆がこちらを見ているような顔をしているから、夜に出歩くととても不気味な場所だとグレアム様が苦笑します。
グレアム様と手をつないで歩いていると、すれ違う人々がとても不思議な顔をしてこちらを見ます。
グレアム様は気にしていないようですが、どうも、金色の目を恐れているというよりは、変なものを見たような顔をしている気がするのですが、気のせいでしょうか。
中庭にはキンメツゲで作られたトピアリーがあちこちに点在していました。犬の形や馬の形、兎など、とても愛らしいです。
トピアリーに囲まれるようにして鳥かご型の四阿があり、その中で十四、五歳ほどの少年が本を読んでいました。
銀色の髪に青い瞳をした、綺麗な少年です。
魔術を使用しているのでしょう、風と火の魔力の気配がしました。グレアム様が周囲の温度を調整するときに使用する魔術と同じだと思います。
「なんだ、リンジーじゃないか」
「リンジー? ……あっ! リンジー殿下!」
お会いしたことはありませんが、リンジー殿下のお名前は知っています。スカーレット様の一番上のお子様です。確か十四歳のはず。
リンジー様はグレアム様の声に顔を上げて目を丸くしました。
「叔父上? お久しぶりです。いらしてたんですね。……そちらは?」
グレアム様とともに四阿に足を向けますと、リンジー殿下が本を置いて立ち上がりました。
本当に綺麗な顔立ちをしていらっしゃいます。線が細い方なので、女性と言われても信じてしまいそうです。
ほかのお子様同様に、お父上は定かではないのですが、噂によると、昔に一時ほど城に滞在していた吟遊詩人ではないかと言われています。女王陛下は公表なさっていませんので真実かどうかはわかりませんが。
「妻のアレクシアだ」
「妻……。ご結婚なさったとは聞いていましたが、そうですか。おめでとうございます」
リンジー様はわたくしを見てにこりと微笑みました。
わたくしが慌てて腰を折りますと、「堅苦しくなさらなくて結構ですよ」とおっしゃいます。
見た目通り穏やかな方のようです。そして、この目にも偏見がないのでしょうね。気にしていらっしゃらない気がします。
「読書……いや、楽譜か?」
「はい。新しい譜面を覚えておりました」
「ああ、リンジーは楽器を奏でるのが好きだったな」
「ええ、ヴァイオリンが。もう少し大人になったら、演奏の旅に出たいのです。……母上が許してくださったらですが」
「姉上は別に反対なんかしないだろう。ただ、旅に出るなら身を守る魔術はもう少し学んだ方がいいな。……無駄が多い」
グレアム様がリンジー様が発動している温度を調整する魔術の気配をたどりながらおっしゃいます。
「魔術はあまり得意ではないんですが……」
「魔力は多い方なんだ。練習すれば問題ない。教師はついているんだろう?」
「ええ、魔術師長が時折。魔術学校にも春から通う予定です」
「あのじじいが直接見てるのか。じゃあ才能があるんだろう」
「……厳しいですけどね」
リンジー様は魔術の練習があまりお好きではないみたいです。
グレアム様に才能を褒められても、嬉しそうではありません。
「時折、父が手紙をくれるんです。公表しておりませんから、母上がこっそり手紙を届けてくださいます。……父上が、もう少し大きくなったら一緒に旅をしようと。だから、魔術は苦手ですが、頑張るつもりではいます」
「……そうか」
公表はしていませんが、スカーレット様はどなたがどの男性のお子様なのか、きちんと把握していらっしゃるのですね。
この口ぶりですと、噂通り、リンジー様のお父様は吟遊詩人なのでしょう。
「旅が許されたら、叔父上のコードウェルにも行ってみたいです」
「いつでも来ればいい。雪深いところだがな」
「一面銀世界で、綺麗なところだと、父上の手紙にありました」
「まあ、そうかもしれないな」
リンジー様は愛おし気に楽譜の表紙を撫でます。
「……王子は、本当なら国のために尽くさなければなりません。そんな僕が、自由に旅がしたいというのは、間違っているのでしょうね」
「俺も今まで好き勝手に生きてきたんだ。気にするな」
グレアム様が手を伸ばして、ぽんぽんとリンジー様の頭を撫でました。
リンジー様ははにかむように微笑みます。
グレアム様はあまり王城を訪れませんが、リンジー様と仲がよろしいのでしょう。
ほんわりと微笑まれて「叔父上をお願いしますね」と言われたわたくしは、ちょっとだけ緊張しましたが、なんだか心がぽかぽかと温かくなるのを覚えました。
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