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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
大魔術師様の形式上の妻になりまして

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内乱の仲裁と異母姉の婚姻 2

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「放しなさいよ! 嫌だって言ってるでしょ‼ 無礼者‼ 汚らわしい手で触らないで‼ ちょ、重たい! なんで上に座るのよ‼」


 キャンキャンと甲高い声で叫ぶ女に、グレアムはうんざりしていた。


(しっかしまあ、語彙力の少ない女だな。かれこれ一時間も同じようなことしか言わん。……というか叫び続けていて喉が枯れないのか?)


 鳥車の、グレアムの足元。

 そこには、縄で芋虫のようにぐるぐる巻きにされた一人の女が転がされていた。

 その上に、エイブラムが当たり前のように腰かけて、もぐもぐと菓子を食べている。


 ぐるぐる巻きにされてエイブラムの椅子にされている女の名は、ダリーン。アレクシアの異母姉である。


 こうしてみれば、アレクシアと似ている部分がないわけではない。

 アレクシアよりも濃い金髪に碧い瞳。ほっそりとしているアレクシアと比べて、全体的に少し丸い。吊り上がり気味の眉に、若干左右がゆがんでいる唇。


(アレクシアの方が百倍は美人だが、鼻の形は少し似ている)


 しかし、少し似たところがあると言っても、アレクシアを虐待していた女だ。

 もっと言えば、さっきからさんざんがなり立てていて、品性の欠片もない。


(だいたい無礼者ってなんだ。無礼なのはそっちだろうが)


 エイデン国の第三王子と、この国の王弟であるグレアムに向かって「無礼者」「汚らわしい」などと、ただの公爵令嬢がよくも言えるものだ。

 公爵家のくせに、娘の教育一つろくにできないらしい。


(だから芋虫にされるんだ。……ふ、いい気味だがな)


 グレアムたちは今、女王との話し合いを終えてクレヴァリー公爵領へ向かっている。

 本当は、ダリーンを連れてくるつもりはなかったのだが、連れて行った方が話が早いだろうとエイブラムが言い出し、急遽一緒に連れていくことにしたのだ。


 しかし、クレヴァリー公爵家のタウンハウスに向かうなり、ダリーンは「金目‼」と悲鳴を上げて、汚らわしいだのなんだのと騒ぎだした。グレアムたちがまだ名乗る前とはいえ、他国の王子と自国の王弟に対してのあまりに無礼な対応に、エイブラムがキレたのは当然の結果と言える。


 エイブラムは、王子とは思えないほど気さくだし、あまり形式にもこだわらないし、仲良くなれば多少の無礼にも目をつむる寛大な性格だが、初対面で愚弄されて黙っているほど温厚ではない。

 部下に命じて問答無用でダリーンを縄で縛りあげると、騒ぎだした彼女の母親も部下に命じて取り押さえさせた。


 その間にグレアムは青い顔をしているクレヴァリー公爵に、ダリーンをこのまま領地へ連れていくと説明する。

 すでに王命を聞かされているクレヴァリー公爵は蒼白だったが何も言わなかった。


 クレヴァリー公爵は、良くも悪くも貴族らしい男だ。

 アレクシアと異なり、ダリーンのことはそれなりに可愛がっていたようだが、王命に逆らってまで娘をかばおうとはしない。そうすることで、公爵家に損害が出ることがわかっているからだ。むしろこの王命に従っていたほうが利益が大きいのである。


 スカーレットはさすがというか、計算高いというか、少しとはいえ領地を没収されるクレヴァリー公爵を納得させる策をすぐさま考えた。

 アレクシアに続き、ダリーンまで王命で嫁がせるのである。この男がアレクシアをどのように扱っていたのか知っているグレアムにしては面白くないが、建前上はその功績に対する褒美が必要だ。


 スカーレットは、王家預かりになっている複数の領地のうち、王都に近いところにある小領地をクレヴァリー公爵に与えることにしたのである。

 こちらはもともととある伯爵が治めていた領地だが、四十年ほど前に罪を犯して爵位を剥奪され、領地は王家に没収されていた。

 クレヴァリー公爵家は、公爵家らしく複数の爵位を持ち、ほかに伯爵と子爵の名も持っていたが、さらに追加でもう一つ伯爵の名が与えられるのである。


(与えたところで、跡継ぎはもういないからな。姉上のことだ、適当なところで公爵の親類から扱いやすいものを据えるつもりだろうが、目先の褒美としては充分すぎるだろう)


 スカーレットもずるがしこいことをするものだが、これにより、クレヴァリー公爵はこちらの手の内だ。内乱についても、ダリーンの婚姻についても、彼はもう何の口出しもしないだろう。


「おーい、この女を俺に対する不敬罪でしょっぴいてくれー」


 エイブラムに対してさんざん「金目!」だの「汚らわしい獣人!」だの騒いでいた公爵夫人に容赦なく猿轡をかませて、娘と同じく芋虫のように縛り上げると、エイブラムがその体を床に蹴飛ばした。

 縛られて手も足も動かせない公爵夫人は、ごろんごろんと玄関ホールを転がって悲鳴を上げる。

 クレヴァリー公爵はさらに青ざめたが、さっと自分の妻から視線をそらした。


(この男はあれだな、どこまでも情のない人間のようだ)


 自分に火の粉が降りかからないよう、妻も切り捨てるのだろう。

 助けてくれない夫に、転がされた公爵夫人が目を見開く。

 どうやらこの公爵夫人は、グレアムが王弟で、エイブラムが王子であることを知らないようだ。

 だが、いちいち名乗ってやるのも面倒臭い。


「おい。夫人の方は姉上のもとに運んでおけ。娘の方はこのまま連れていく」


 グレアムが命じると、コードウェルからついてきていたロックが、荷物のように公爵夫人を抱え上げた。

 悲鳴を上げて何やら騒ぎ出したが、猿轡をされているので「んー!」というくぐもった声にしかならない。


 ダリーンはぎゃんぎゃん騒ぎ立てたが、なすすべなく鳥車に連行されて床に転がされた。

 ダリーンは嫁がせるという使い道があるから連れていくが、夫人の方はどうなることか。エイデン国の第三王子に対する不敬罪だからな、投獄されるのは間違いない。クレヴァリー公爵は連帯責任を問われる前に夫人と縁を切るだろう。ロックの調べではもともとどこかの伯爵令嬢だったらしいが、生家も、他国の王族に対する不敬罪を働いた娘をかばいはしないはずだ。


(五年は投獄だろうな。……殿下が大げさに騒げばもっと伸びるだろうが。罰が終わり、出られたとしても、まともには生きて行けまい)


 だが、グレアムに情けをかけるつもりはさらさらない。

 この女が自分やエイブラムに対して不敬を働いたのは間違いないし、なにより、ずっとアレクシアを虐待していたのだ。それだけで万死に値すると、グレアムは思う。


「放しなさいよ、汚らわしい‼」

「うっせーよ!」


 鳥車に押し込められてもぎゃんぎゃん騒いでいるダリーンの背中を、エイブラムが容赦なく踏みつけた。


「力加減を考えないと、背骨が折れて死ぬぞ」


 グレアムは端的に事実だけを告げるような無感動な声で言って、エイブラムを追って鳥車へ向かう。

 鳥車なので数時間もあれば公爵領に到着するとはいえ、数時間もこのやかましい女と同じ鳥車に乗るのかと思うとグレアムは憂鬱だった。



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