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エイデン国からの使者 4

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 エイブラム殿下が何と言いますか、この通り自由人ですので、グレアム様も形式に一切こだわらず、自ら応接間に殿下を案内されました。

 コードウェルのお城には応接間が複数ございますが、中でも一番広くて豪華な二階の応接間にご案内です。わたくしがここに来た時に使った応接間とは違って、触れるのも恐ろしくなるような高価な調度品に溢れています。


 ……ローテーブルに使われている装飾ですが、あれ、本物の金や宝石ですよね。ソファもふかふかですし、アンティークの棚には高そうな飾り物がたくさん並んでいます。


 デイヴとメロディが運んできたお茶やお菓子も、いつもとは違う食器が使われていました。

 ティーカップもお皿もとにかく高価そうです。……わ、割ってしまったらどうしましょう。


「おー、サンキュー」


 エイブラム殿下は、さすが王子殿下だけあって、高そうな調度品にも食器にも頓着なさいません。触れるだけで割れそうな繊細なグラスをわしっとつかんで、ぐびぐびと豪快にアイスティーを煽りました。


「お代わり!」

「……ここは茶屋じゃないんですけど?」


 メロディがじろりとエイブラム殿下を睨んでから、グラスにお代わりを注ぎました。お代わりを要求されることがわかっていたのか、ピッチャーでアイスティーを用意しているあたり、メロディはできるメイドです。


 わたくしとグレアム様、バーグソン様の前には、温かい紅茶が出されました。

 ここは寒い地域ですからね。わたくしたちは、普段はあまり冷たいものは飲みません。しかし、獣人の中にはとても暑がりな方もいて、どうやらエイブラム殿下もそうみたいです。


「それで、殿下。急に来るのは毎度のことなので別にいいとして、用件は?」


 ……急に来られるのはいいんですね。グレアム様、お心が広いです。


 普通、他国の王族が唐突に訪問してきたら困ると思うんです。お迎えの準備をする時間が取れませんから。でも、お二人にとってはこれは普通なのでしょうね。


 グレアム様も王弟ですので、もちろん王子の称号をお持ちです。王子同士、仲がいいのでしょうか。賓客の相手をしているというよりは、遊びに来た悪友を適当にあしらっている感じがします。

 エイブラム様はスコーンにたっぷりのクリームを塗って、一口(大きいのに一口!)で口の中に押し込みますと、お代わりのアイスティーを飲みながら答えました。


「ああ、そうそう。まずは親父からの伝言をそのまま伝えるわー。『そちらで起こっている内乱騒ぎについて、エイブラムをよこす故、よろしく頼む』だってさー」

「それだけか⁉」

「こんだけ言えばわかんだろって親父が」


 すみません、わたくしにはさっぱりわかりませんでした。

 しかしグレアム様にはエイデン国の国王陛下の意図が伝わった様子で、がしがしと頭をかいていらっしゃいます。


「……南に住んでいる獣人から、そちらに連絡が入ったわけか」

「そーそー。助力を乞われたんだけどさー、さすがに他国の内乱には加担できないじゃん? だからうまい具合に仲裁して来いって親父に丸投げされてよー」


 エイブラム様とグレアム様のお話を聞きながら、わたくしはバーグソン様に視線を向けました。

 すると、わたくしの困惑具合に気づいたバーグソン様が小声で説明くださいます。


 つまり、クレヴァリー公爵領で武力蜂起した獣人が、エイデン国に使いを送って、自分たちに手を貸してほしいと嘆願したようです。


 エイデン国は獣人の国です。

 獣人といえど、他国の国民であればエイデン国の管轄外ではありますが、現在のエイデン国の国王陛下は、獣人の保護に動かれていらっしゃるそうです。


 といいますのも、過去にクウィスロフト国で獣人に対する迫害があったように、よそでも似た事例が発生することがあるのです。


 人より優れた身体能力を持つ獣人に対して、人は恐れや劣等感を抱きやすい。

 そうした背景から、人は獣人たちを管理し、抑えつけようとする傾向があります。

 クウィスロフト国のように迫害するまでに至らなくとも、多少なりとも差別的な意識が生まれることは珍しくないそうです。


 もともと獣人は人と比べて数が少ないですが、他国にいる獣人は、そういった差別的な意識により、少しずつ数が減っているのだそうです。

 理由は……考えたくないところですね。

 そのため、エイデン国の国王は、他国の問題というのは承知しつつも、獣人と人との間に何らかのトラブルが発生したとわかった場合、介入することがあります。


 今回の内乱は小規模ですが、内乱を起こした獣人の嘆願を受けて、エイデン国王は介入することにしたそうです。もともとクウィスロフト国は獣人に対して当たりが強い傾向にあるので、それも理由ではあるのでしょう。

 そして、その介入に、第三王子のエイブラム様が派遣されたということらしいです。


「スカーレット女王に連絡してほしいんだけどさ、その前に、今どんな状況よ? うちでも偵察部隊をやったにはやったが、詳細まではつかめてないんだよなー」


 そのとき、デイヴさんが紙の束を持って応接間に入ってきました。

 心得ているとばかりにグレアム様に向かって一つ頷いてから、クレヴァリー公爵領の内乱の報告をはじめます。


「武力蜂起した獣人は、南の国境近くの村に砦を築き、そこを拠点としている模様です。もともとこの村は獣人たちが暮らしていたところのようですね。今のところ双方死者は出ておらず、公爵軍の方に多少の負傷者が出たくらいで留まっていますが、獣人が拠点としている村の周囲を公爵軍が固めています。また、昨日の昼、クレヴァリー公爵より女王陛下に国軍の派遣要請が出されました。まだ受理はされていないようですが、こちらは時間の問題でしょう」

「王都からクレヴァリー公爵領まで馬を駆けてどのくらいだ?」

「馬で向かった場合は二週間足らずでしょうな。馬車を使っても、急げば三週間ほどかと」

「あー……じゃあ、三週間くらいで内乱は制圧されそうだな。さすがに人数差が大きすぎるし、国軍の魔術師が派遣されたら分が悪い。なあグレアム」

「姉には急ぎ殿下が仲裁に来られたと連絡を入れさせるが、さすがに蜂起までしたんだ、なかったことにはできんだろう」

「だよなー。どーすっかなぁ……。あいつらの要望は封土だろ。小さくても土地が与えられれば満足するんじゃん?」

「だが、国の立場上、蜂起した武力集団の要求だけ飲むわけにはいかない」

「まあなあ。そんなことすりゃあ他がつけあがるわなぁ。他んとこでも、同じように自分たちに封土をよこせって騒ぎが起きるだろうよ。……だがよー」

「わかっている。……クレヴァリー公爵側にも充分に非がある。調べさせたところ、クレヴァリー公爵領での獣人の扱いはひどいものだった」

「そこがわかってんならいーんだよ。でもよー、それで交渉できるのか?」

「姉に対する交渉は可能だろうが、これだけで封土を渡すのは無理だ。気に入らなければ武力行使に出ればいいと、獣人たちに周知するも同然になる」

「んじゃさー、古典的でわかりやすい方法を取るっきゃないわよな」


 古典的で、わかりやすい方法?

 わたくしが首を傾げますと、グレアム様は嫌な顔をしました。


「アレクシアはすでに俺に嫁いでいる」

「もう一人残ってんだろ」

「……あれは一応、公爵家の跡取り娘だぞ」

「んなもん、公爵家ともなれば親戚なんてわんさかいるだろうよ」

「……お互いが、嫌がると思うぞ」

「貴族なんだから、好き嫌いは二の次だよなあ? 獣人の方は俺がまあ説得するし?」

「………………まあ、周囲に対して、一番説明しやすい方法なのは確かだが」

「だろ?」


 ……ええっと、何のお話をしているのでしょう?


 エイブラム殿下はにやにや笑っていらっしゃいますが、グレアム様は眉間にしわを刻んでいますし、バーグソン様はこめかみを押さえて頭痛を我慢するような顔になっています。


 デイヴさんは額を押さえて天井を仰ぎました。

 わたくしが首をひねりつつエイブラム殿下に視線を向けますと、殿下は笑いながらぱちりと指を鳴らしました。


「つーことで、クレヴァリー公爵んとこの娘と、内乱起こした獣人の代表を結婚させて、小さな封土を与える方向でよろしく!」


 え?

 結婚?


 クレヴァリー公爵のところの娘はわたくしと異母姉しかおりません。

 わたくしは王命でグレアム様に嫁いでおりますから、つまるところ――異母姉と?


 ……ええええええ⁉


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