エイデン国からの使者 3
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「いよぅ! 元気だったかグレアム!」
そろそろご到着と聞いて玄関でエイブラム殿下の訪れを待っていましたところ、そんな掛け声とともに玄関扉がバターン‼ と激しく蹴破られました。
蹴破った扉から弾丸のように突っ込んでいらっしゃったのは、がっちりとした背の高い体躯の男性でした。彼はそのままグレアム様の前まで走っていき、大きく拳を振りかぶります。
「きゃああ‼」
わたくしは思わず悲鳴を上げました。
なぜなら、男性がグレアム様に殴りかかったのです。
しかしグレアム様は平然とした顔で、その重そうな拳をパシッと受け止められました。
……なにが、どうなっているのでしょう?
目を丸くして、おろおろとバーグソン様を見ますと、疲れた顔で首を横に振っていらっしゃいました。
「毎回そんな挨拶をするのはどうかと思いますがね、エイブラム殿下……」
挨拶⁉ これが挨拶だったのですか⁉
というか、この方がエイブラム殿下なのですか⁉
グレアム様に拳を受け止められてにやにや笑っていらっしゃる方の髪は白い色をしていらっしゃいました。生え際だけが黒いです。そして瞳はグレアム様のような金色。身長は、グレアム様より少し高いでしょうか。グレアム様もとても背がお高いので、それほど差異はないように見えますが。
「よう、じーさんも元気だったか? で……?」
ぐりん、とエイブラム殿下がわたくしの方を振り返りました。
にっと口端が持ち上がります。
反射的にびくりと体を震わせたわたくしの前に、オルグさんが回り込みました。
「久しぶりだな、オルグ!」
予想通りといいますか何と言いますか。
エイブラム殿下がオルグさんに殴りかかりました。
殴りかかるのがご挨拶らしいので、この流れからして、次はわたくしでしょうか。わたくし、オルグさんのように華麗に拳を受け止めることができるでしょうか。不安です。どうしましょう。
びくびくしておりますと、エイブラム様がぷはっと笑いだしました。
「あー、悪い悪い。メロディはともかく、嬢ちゃんには殴り掛からねえよ。吹っ飛びそうだからな」
「……それはどういう意味でしょうか」
わたくしのそばにいたメロディが、なかなかドスのきいた声を発してにっこりと微笑みました。笑顔が黒いです。怖いです。
「わたしもか弱い女ですが」
「俺の拳を平然と受け止める女がか弱いわけねえだろ」
メロディのこめかみがぴきってなりました。
けれどもエイブラム殿下はけろりとしていらっしゃいます。
「んで、この新顔の嬢ちゃんは?」
エイブラム殿下がグレアム様を振り返りました。
グレアム様がごほんと一つ咳ばらいをします。
「彼女はその、お、お、俺のつっ、妻の、アレクシアだ」
「……なんでそんな噛むんだよ」
「うるさい!」
グレアム様の顔が少し赤いです。
……でも、「妻」とご紹介いただけました。形式上の妻で、実態は伴っておりませんが、妻と呼んでいただけて嬉しいです。
「ふぅん」
エイブラム殿下がわたくしの顔を見て、ちょっとだけ残念そうになりました。
「いい魔力持ってるから、フリーなら嫁にもらおうと思ったのに、お前のだったのか」
「殿下はすでに嫁が三人もいるだろうが!」
エイデン国は一夫多妻制だそうです。獣人の女性は強い男性に惹かれる傾向にあるそうで、強い男性はとてもおもてになるそうです。つまり、エイブラム様はお強いのでしょう。
エイデン国は獣人の国王陛下が治めている国ですが、人間も住んでいます。というか、獣人と人間の間の垣根がないのです。そのため、獣人と人間で普通に結婚もします。獣人と人間の間に生まれる子は、七割が獣人の特徴を持っていて、三割が人間の特徴を持っているそうです。ただ、血が混ざっていますので、普通の獣人や人間とは少し違うところがあるそうですが、その違いも人によってまちまちで、一概にこうなるという決まりはないようです。
「まあいいや。とりあえず喉乾いたから茶ぁくれや。冷たいのがいいな。んで、親父からの伝言も預かってきてるから、そこんとこよろしく」
まるで、ちょっと友人宅に遊びに来たような雰囲気です。
形式にこだわるこの国の貴族と全然違って、とっても自由な感じがします。
「わかった。応接間でいいだろう? デイヴ、メロディ、飲み物を頼む」
「なんか甘いものもなー。腹減ったから、がっつりよろしく」
エイブラム殿下……本当に自由ですね。
メロディがぴきってなりましたが、どうやら毎度のことのようで、仕方なさそうに頷きました。
ええっと、うん、メロディ、よくわかりませんがファイトです‼






