風竜様起床大作戦! 5
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砂漠は歩きにくいので、五センチくらい地面から体を浮かせるといいというシュロ様のアドバイスを受けて、わたくしは魔術で軽く体を浮かせました。
ガイ様もシュロ様も流れるように魔術を使われています。
わたくしを含めガイ様もシュロ様も魔術で周囲に結界を張って、結界内の空気の温度も調整しておりますので暑くはありません。
「どこまでも砂ばかりで、帰り道がわからなくなりそうですね」
「安心するといい、我が方角を覚えているし、最悪飛べばわかる」
「そうですね。頼りにしていますガイ様!」
「うむ」
「アレクシアはガイの嫁ではないならいったい誰の嫁なんだ?」
「アレクシアは水竜の末裔の嫁だ」
「水竜……ああ、クウィスロフトの」
竜の方は、あまり居場所を公にはしないそうで、竜同士であってもどのあたりにいるのかわからないことが多いそうですが、水竜様だけは別なのだそうです。ずっとずっとクウィスロフト国の地下でお眠りですから。
「クウィスロフトか……。あの国の食べ物は、そういえば食べたことがないな」
「グレアム様――夫と相談して、ご招待しますよ」
「そうか。悪いな」
シュロ様は一番目に寝ること、二番目に食べることが大好きなのだそうです。竜は食事をしなくても生きていけるそうですが、ガイ様同様、三食きちんと食事がしたい派なのだとか。
「あ!」
しばらくガイ様とシュロ様と歩いていますと、わたくしの魔力探知センサーに何かが引っかかりました。
「魔石です!」
「魔石? ……ああ、確かにな。光属性か」
「光ですか! 大変です! 採りに行かなくては!」
ガイ様が気配を探って属性まで言い当ててくださいました。光属性と闇属性の魔石は貴重なので、ぜひ取りに行きたいです。グレアム様が喜びます!
「待て待てアレクシア」
魔力の気配のする方へ駆けだそうとすると、シュロ様がそう言ってわたくしを押し留めました。
「光属性の魔石が欲しいのか? バラボア国には光属性の魔物が多いんだ。ついて来い」
……なんと! 貴重な光属性の魔石――いえ、魔物が多いのですか⁉ グレアム様が聞けば喜びのあまり踊り出しますよ!
「あてがあるのか?」
「五百年前の記憶だから今どうなっているのかは知らんが、もう少し歩くと周囲をアカシアの木に囲まれた岩山があったはずだ。魔物がよくたむろしていた。そこに行けばまとまって手に入るかもしれない」
「それは素晴らしいです! ぜひ行きましょう!」
あと数日でこちらにいらっしゃるグレアム様のために、光の魔石を手に入れるのです。
……あ、でも、バラボア国のものですので、採取した後でサラーフ様に頂いていいか確認しなければなりませんよね。全部は無理でも、少しだけでも分けてくださると嬉しいのですが。
シュロ様のご案内で歩いていきますと、巨大なアカシアの木に囲まれた岩山が確かに存在しました。
木陰で休んでいた魔物も見つけましたが、シュロ様とガイ様が近づくと慌てたように飛び起きて一目散に逃げていきます。
……そうですよね。だって、世界に六体しかいない竜がお二人もいるのです。それは逃げたくもなるでしょう。
自分よりも強い魔力を恐れて近づかないとは聞いていましたが、転がるように逃げていく魔物ははじめてみましたよ。
……って、うん?
「ホホホホホ」
女性の高笑いのような声が聞こえて、わたくしは首を傾げて目を凝らします。
見れば、アカシアの木を駆け上がっている赤と白のキノコが……。
……あ! あれは噂のエウリュアレーですよ!
ほぼ垂直に立っている木をかけ上がっていくキノコにゾッとしますが、混沌茸の「ぐげげげげ」よりはましな気がします。……あの奇声を発して走るキノコを見てましと思えるなんて、わたくし、ドウェインさんにかなり毒されてしまったのでしょうか。
「ドウェインのキノコの親戚がいるぞ」
ガイ様の中ではすっかり混沌茸が「ドウェインのキノコ」になっているようです。
「ガイ様、あれはエウリュアレーというキノコだと思います。サラーフ様が教えてくださいました」
「ほう? まああれも魔物の一種のようではあるが……ずいぶん珍しい属性だな」
「わかるのですか?」
混沌茸もそうですが、複数の属性の魔力を均一に持っている魔物は魔力を感じづらいのです。混沌茸は風と火の属性を均一に持っている珍しい魔物でしたので、エウリュアレーももしかしたらと思っておりましたが、何の属性を持っているのでしょう。
「光と土だ」
「ということは、光と土の複属性の魔石を得られる可能性があるのですか」
「確率は低いが、ゼロではない」
……うぅ。エウリュアレー。できれば近づきたくありませんでしたが、複属性の魔石はものすごく貴重です。ましてや光と土なんて、これを逃せば二度とお目にかかれないかもしれません。光属性自体が貴重ですから。グレアム様にお見せしたら喜んでくださること間違いなし!
わたくし、今回のことでグレアム様に多大なるご迷惑をかけてしまいましたし、ここは腹をくくってエウリュアレーを捕獲すべきでしょうか。
いえでもそんなことをすればまずドウェインさんが騒いで面倒くさいことになりそうな気もします。
そして複属性の魔石に釣られたグレアム様が、ドウェインさんにエウリュアレーの栽培を許可してしまいそうです。
……エウリュアレーをそのまま持ち帰るのは危険ですね。
わたくし、コードウェルの美しい城の中で「グゲゲゲゲ」と「ホホホホホ」の大合唱を聞きたくありません。ましてや我が物顔でこの二種類のキノコが城の中を駆け回るようになったら卒倒してしまいます。
「あのキノコがここにいるということは、ここに複属性の魔石が落ちている可能性が高いということですよね」
「そうだが、あの手の小物が生む魔石など小指の先ほどのものだ。砂に埋もれてなかなか見つからないと思うぞ。アレクシアの魔力探知でも、複属性だとうまく働かないのだろう?」
「でもガイ様、キノコを捕まえて帰るとあとあと悲劇が待っていると思うのです」
「……なるほど」
「グレアム様は複属性の魔石を喉から手が出るほど欲しがっていらっしゃいますので、できれば一つでいいから見つけて差しげたいのですよ」
「そういうことなら仕方がない。これ以上妙なキノコが増えるのは我も勘弁だからな。シュロ、魔石だが、複属性の魔石を探してくれ」
「それは構わんが……あのでかいのはいらないのか?」
「え?」
シュロ様が指さした先には、人の顔ほどの大きさもある光の魔石がありました。
「なんですかあれは!」
以前見つけた。トロールの闇の魔石と同じくらいの大きさがありますよ!
「いります。ほしいです! グレアム様がお喜びに……!」
ああ、でも、この大きさの魔石であれば間違いなく国宝級です。それでなくても、クウィスロフト国では光の魔石は小さなものでも国宝扱いになるのですから。バラボア国に光の魔物が多くとも、あれほどの魔石はそうそう手に入りませんので、国宝扱いで間違いないはず。
……お城に持って帰っても、わたくしのものにならない可能性が高いですが、でもあの魔石をこのまま放置しておくのはもったいなさすぎます!
「あれはこのあたりに生息している黄金トカゲの魔石だろう」
「黄金トカゲ……」
名前からしてすごそうですね!
「黄金トカゲは、鱗が金色をしていてな、強度も高く、いい武具が作れる。だから昔は魔石になる前に狩られることが多かったんだが、運がよかったな」
「はい!」
あの巨大な魔石は絶対に持って帰ります。
あとはエウリュアレーの複属性の魔石を探すのです!
わたくしは砂地に座り込んで、必死になって魔石を探します。
小さな小さな魔石です。根気よく砂を掘り返して、それらしいものを探すのですよ。
ガイ様もわたくしの横で手伝ってくださいます。
シュロ様はふわりと宙に飛び上がって、岩山の方を探してくださるそうです。
「それにしてもアレクシア。そなた、いつもグレアムグレアムと、グレアムのことしか考えていないようだが、少しは自分のことを考えたほうがいいぞ」
「グレアム様が笑ってくださるとわたくしも嬉しいですよ」
ですので、これは自分のためでもあるのです。
けれど、わたくしの答えではガイ様は納得されませんでした。
「別にグレアムのために何かをするなと言っているのではなく……もっとこう、欲はないのか? あれがほしいとか、こういうことをしたいとか」
わたくしは砂を掘る手を止めてうーんと首をひねりました。
……美味しいご飯はいつもいただいていますし、着るものもわたくしが頼まなくてもマーシアやメロディがご用意くださいます。お菓子もいただけます。先日はグレアム様に旅行にも連れて行っていただきました。わたくし、充分すぎるほどいただいているので、これ以上を望んでは罰が当たると思うのですよ。
「グレアム様もマーシアやメロディたちも、もちろんガイ様もいて、わたくし、これ以上ないくらい幸せです」
「そうか! ……いや違う、そうじゃなくて」
ガイ様は一瞬満足そうなお顔をされましたが、慌てて首を横に振りました。
「アレクシアは無欲すぎる。もっと自分のことを考えていいと思うのだが」
そうおっしゃいますが、昔と比べるとわたくしとっても我儘で贅沢になったと思うのですよ。
ガイ様はやれやれと嘆息して「先は長そうだ」なんておっしゃいますが、これ以上の我儘はダメだと思うのですけどね。
わたくしは砂を掘るのを再開します。
たまに小さな魔石は出てくるのですが、どれも複属性ではありません。
……やはり、そう簡単には見つからないのでしょうか。エウリュアレーを捕獲するしかありませんかね。……その先の未来は簡単に予測できるので、ものすごく嫌ですけど。
空を見上げると、少しずつ西の空から夕焼けが広がってきています。
夜になると魔物が活発になるので長居はできません。ガイ様やシュロ様がご一緒ですので大丈夫でしょうけど、いつまでも帰らないとお城の皆様が心配なさいますもの。
わたくしがあきらめて、先ほどアカシアの木に登って行ったエウリュアレーの捕獲に移ろうとしたそのときでした。
「アレクシア、一つだけだがあったぞ」
岩山を調べに行っていたシュロ様が、小さな小さな魔石を手に戻ってまいりました。
「魔力を通してみろ」
手のひらに乗せていただいたので魔力を通しますと、金色と白のマーブル模様に輝きました。
「すごいです。綺麗ですね!」
「俺からお前へ贈ったものだと言えば取り上げられたりはしないだろう」
「ありがとうございますシュロ様!」
「……ちっ」
ガイ様が悔しそうに舌打ちしました。もしかしなくてもシュロ様と勝負をしている気になっていたのでしょうか。
「ガイ様もわたくしの我儘を聞いてくださってありがとうございます」
「うむ。まあ、アレクシアが満足ならそれでいい」
わたくしたちはシュロ様が見つけてくださった複属性の魔石と、それから巨大な光属性の魔石を持ってお城へ戻りました。
すると、出迎えてくださったファティマさんがわたくしたちの持ち帰った巨大な魔石に目を丸くした後で、こうおっしゃいます。
「先ほど連絡が入りまして、明後日の夜、アレクシア様の夫君がご到着されるとのことです」
「グレアム様が!」
わたくしはつい大きな声を上げてしまいました。
……やっと、やっとグレアム様に会えます‼
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