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エイデン国からの使者 2

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 ロックさんから、クレヴァリー公爵領での内乱を教えられて三日が経ちました。


「奥様! 急いでください!」

「は、はい……!」


 わたくしはというと、朝からてんやわんやの大忙しでございます。


 といいますのも、今朝、夜がまだ明ける前のことでございました。

 なんと、コードウェルと国境を背にしているエイデン国からの使者が訪れ、エイデン国の第三王子が昼過ぎに来るとおっしゃったのです。


 あまりに唐突の訪問に、わたくしは驚愕しましたが、獣人たちが多く生活をしているコードウェルの人々は、それほど驚いたりしませんでした。

 というのも、獣人たちは人の何倍も、何十倍も機動力がありまして、そのせいか、行動が突然で唐突である傾向にあるそうです。そして、人のように面倒臭い形式にこだわったりなさいませんので、思い立ったが吉日で行動する方々です。


 ……人が何日もかけて馬車を使って移動しなければならないところも、獣人さんたちではあっという間ですからね。


 特に、エイデン国には長距離をあっという間に移動できる「鳥車」というものがあるそうです。

 簡単に申しますと、鳥の獣人さんたちが馬車のようなものを引いて空を飛ぶのです。

 そのため、空が飛べない獣人も、あっという間にひとっ飛びでこちらへやってこれます。


 エイデン国の王族は、白虎の獣人さんの一族だそうです。

 そのため空を飛べない第三王子殿下は、鳥車でいらっしゃいます。


 第三王子殿下がいらっしゃるまでに支度を整えなければならないわたくしは、もう、大慌てでございます。


 グレアム様はそんなに気を張らなくてもいつも通りでいいとおっしゃいましたが、メロディが目を血走らせて却下しました。「男と違って女はいろいろ大変なのです‼」と叱りつけられたグレアム様は閉口し、わたくしの支度はすべてメロディ主導で行われることとなりました。


 外部から人が来るから、一日中わたくしの警護をするようにとグレアム様から指示が出されたオルグさんが、室内の慌てぶりに、扉の外で笑っている声が聞こえます。

 朝からお風呂に入って、丁寧に髪を洗われた後で、香油を使って全身をマッサージされ、マーシアがこんなときもあろうかとわたくしのために仕立てていた豪華なドレスに着替えます。グレアム様の髪の色に合わせて、銀糸で緻密な刺繍が刺されているドレスです。


 わたくしの髪はコテでくるくると巻かれて、瞳の色に合わせた赤紫色の宝石の髪飾りでまとめられました。ロードライトガーネットという宝石なのだそうです。

 普段はあまりお化粧もしませんが、今日は念入りにおしろいをはたかれて、目元にも口元にも色を入れることになりました。


 すべての支度を終えたときには、昼前になっていました。

 エイデン国の第三王子殿下は昼過ぎにいらっしゃるとのことですので、グレアム様とわたくしは先に昼食をとることにいたします。


「……すごいな」


 グレアム様は着飾ったわたくしを見て、ぽつりと一言おっしゃいました。

 はい、すごいのです。わたくしも鏡を見てびっくりしました。どこのお姫様かと思うような、豪華な仕上がりです。


「お美しいでしょう?」


 ふふん、とメロディが笑いました。


「あ、ああ……まあ、そう、だな」


 歯切れ悪くお答えになったグレアム様の顔が赤くなります。

 メロディ、グレアム様がお困りのようです。わたくしも鏡を見たときに、確かに普段の自分と比べて綺麗かもしれないと感動しましたが、それはあくまでわたくしの主観であり、わたくしよりお美しいグレアム様からしたら大したことないはずです。誉め言葉を強要してはいけません。


 先ぶれを持ってこられたエイデン国の使者様は、お部屋でお食事をおとりになったそうで、ダイニングで昼食をとるのはわたくしとグレアム様の二人だけです。

 バーグソン様も、元領主様ですので、エイデン国の第三王子殿下の到着に合わせてこちらへ来られることになっていますが、まだおつきではありません。


「グレアム様、エイデン国の第三王子殿下は白虎の獣人さんだとはお聞きしましたが、どのような方なのでしょう?」

「ん? ああ、そうだな……」


 ここはエイデン国と陸続きですので、かの国からはたまに来訪があるそうです。特に今は、エイデン国で少々きな臭い動きがありますので、戦争に発展しないよう、仲良くしておくことも大事なお仕事なのだそうです。


「名前はエイブラム殿下で、年が俺より二つ下だから二十四だな。あとはその……少々変わっているというか、うん、変な王子だ」

「変、ですか……?」

「ああ。いろいろとな。そのうちわかる。……あとは、大丈夫だとは思うが、オルグ」

「わかっています。その時は身を挺して守りますので」

「といいつつ楽しそうな顔をするな。いいか、前みたいに壁を破壊するなよ?」

「あはは、前はちょっと、やりすぎましたね」


 わたくしの背後で護衛してくださっているオルグさんが、頭をかいて笑います。


「ちょっとじゃありませんよ。まったく……」


 デイヴさんが「はー」と疲れたような顔で息を吐きました。


 ……壁を破壊? やりすぎた? いったい何のことでしょう。


 わたくしの頭の中で「?」が大量発生いたしますが、どなたも詳しい説明をしてくださいません。

 グレアム様は「そのうちわかる」とおっしゃいますし、お会いして直接見ないとわからない問題なのでしょうか。


「それにしても、このタイミングってことは、十中八九クレヴァリー公爵領の内乱の件ですかね? あ、奥様そのソーセージ美味そう。一個ください」

「こらオルグ! 奥様のお食事を取ってはいけません!」


 デイヴさんが叱りましたが、わたくしがすでにオルグさんにお皿を差し出した後でした。

 オルグさんが素早くソーセージを一つつまみ上げて口の中に放り込みます。

 デイヴさんが額に手を当てました。


「奥様、オルグを甘やかしてはいけません。こいつはすぐに調子に乗りますから。旦那様もですよ。旦那様が普段からあまり気になさらないから……」

「堅苦しいのは好きじゃない。ああ、それで、内乱か……。そうだな、おそらくその件で何か言いたいことがあるのだろう。デイヴ、ロックに現状を聞いてまとめておいてくれ。報告が必要になるかもしれん」

「わかりました。……オルグ、もうそれ以上奥様のお食事を取ってはいけませんよ。メロディ、見張っておきなさい」

「もちろんよお父さん。次に同じことをしたら拳をお見舞いするわ」

「……それもそれでどうかと思いますが、オルグはそのくらいしないとわからないかもしれませんね」


 デイヴさんがメロディに後を頼んで、報告書作成のためにダイニングから出ていきます。

 オルグさんはどこ吹く風です。けろっとした顔で「じゃあ残ったらください」と言っています。今日の昼食はわたくしには少し多いくらいですので、おそらく残ると思いますが、わたくしの食べ残しでいいのでしょうか?


「オルグ、アレクシアの食事を狙うな。キッチンに行って料理長に何か作ってもらえばいいだろ?」

「頼みすぎて、作ってくれなくなったんですよ」

「……今日は特別俺が許可したと言っておけ。おそらく夜中も警護に付くことになるだろうからな、特別手当のようなものだ」

「やりぃ!」


 オルグさんがにやりと笑います。

 メロディが「またそうやって甘やかす」と嘆息しましたが、わたくしは、こういう和気あいあいとした雰囲気は賑やかで好きです。


 エイデン国の第三王子殿下がいらっしゃると聞いて、朝からずっと緊張していましたが、この雰囲気のおかげか、少しだけ肩の力が抜けました。


 ……エイブラム殿下。どんな方なのでしょう?




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