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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
竜の巫女と言われても困ります!

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バラボア国王との謁見 1

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 ……それにしても困りましたね。


 目の前には、同性のわたくしでも恥ずかしくなるほどの曲線美を余すことなく披露していらっしゃるファティマさんがいらっしゃいます。

 食事のあと水浴びを勧められたので、続き部屋のバスルームへ向かうと、お風呂の世話をしてくださるとかでファティマさんもいらっしゃったのです。


 てっきりメロディがしてくださるようなものを想像したわたくしは、目の前で豪快に服を脱ぎ捨てたファティマさんに絶句いたしました。

 驚いている間にわたくしの服もはぎとられ、あれよあれよという間に大きなバスタブへドボンです。


 クウィスロフト国などで使われているバスタブと違って、ここはとっても広いので、お風呂のお手伝いをくださる方も一緒に入る風習なのかもしれませんが、視線のやり場に困ってしまいますよ。

 こちらのお風呂の勝手がわかりませんのでお手伝い下さるのは助かるのですけど、緊張して頭の中が真っ白になりそうです。


 それに、水風呂に慣れていないせいか、なんだか寒いです。

 ふるふると震えておりますと、それに気づいたファティマさんがバスタブの端っこにある、小さな丸いものに触れました。


「温めましょう」


 そう言って、ファティマさんが丸いものに魔力を流します。ファティマさんは魔術が使えるみたいですね。そして、どうやらこのバスタブは、バスタブ自体が魔術具のようでした。ファティマさんが魔力を流した途端、ファティマさんが触れた丸いものが赤く光って、水が入浴するのにちょうどいいくらいのお湯になりました。あれは火の魔石のようです。


 ……これは、グレアム様が興味を示されること間違いなしですね!


 バラボア国は暑い国ですので水風呂に入る方が多いみたいなのですけど、砂漠というのは不思議で、日中は焼けるほど暑いのに、夜になると急激に冷え込むのだそうです。ですので、夜に入るときはこうして水をお湯に変えるのだとか。


 ちなみに今は夕方です。

 窓の外は、蝋燭の炎よりもずっとずっと濃いオレンジ色に染まっていて、圧巻なのですよ。クウィスロフト国ではこれほど見事な夕空を見たことがありません。


 ぽかぽかと体が温まってきて、わたくしはふーっと息を吐きます。

 ここにきてずっと緊張して疲れていたからか、お腹が満たされて、お風呂で体が温まると途端に眠気が襲ってきます。


 うつらうつらしている間に、ファティマさんがわたくしの髪を洗って、バスタブの中で、肩や腕などをマッサージしてくださいました。

 気持ちよくて、眠気がさらに増していきますよ。


 ……考えなければならないことがたくさんあるのに、眠気には抗えません。


 ファティマさんによると、今日は疲れているだろうからこのまま休んで、明日、バラボア国の国王陛下に謁見だそうです。


 ……謁見。とっても緊張しそうですし、粗相をしそうで怖いですが、嫌ですとは言えませんよね。


 国王陛下に謁見した後で、今後のお話もするのだそうです。主に、風竜様のお目覚めに関することだとか。お話したところで、わたくしは風竜様を目覚めさせる方法は知らないのですけど、風竜様が目覚めるまでわたくしは帰してもらえないみたいなので、何が何でも方法を探らねばなりません。


 せめてホークヤード国にいるグレアム様にお手紙を届けたいのですけど、ファティマさんに聞くと、距離が離れすぎていることと、ホークヤード国とバラボア国は友好国ではないので、気軽に鳥の獣人さんを遣わすことはできないのだそうです。

 連絡を取り合うにしても、いろいろ小難しい手続きを介した後でになるので、たった一通の手紙を届けるためだけにそこまでのことは行えないと言われました。


 ……竜の巫女様であればすぐに風竜様を目覚めさせることができるはずですから、長くても数日の辛抱ですなんて言われたらそれ以上は何も言えませんよ。期待に満ちた目を向けられると心苦しくて仕方がありませんし。だって、わたくし、期待されているように風竜様を目覚めさせることができるとは思っておりませんもの。


 切実にここにガイ様を呼んでいただきたいです。

 けれど、ガイ様の存在は秘密なので、そんなお願いを口にすること自体憚られます。


 ……ああ、ダメです。これ以上は頭が回りません。


 お風呂から上がって、さらりとした着心地の薄い夜着に着替えます。薄くて心もとないには心もとないのですが、涼しくていいですね。

 ファティマさんに夕食をどうするか訊ねられましたが、軽食とはいえさっき食べたばかりですし、何より眠くて仕方がないのでお断りします。


「わたくしは隣の部屋におりますので、何かあればお呼びくださいませ」


 ファティマさんが何やらいい香りのするお香に火を入れてから、丁寧にお辞儀をして部屋を出ていきました。

 ベッドに寝転がりますと、まだ夕方なのにあっという間に夢の世界に引きずり込まれます。


 ――アレクシア。


 夢の中で、グレアム様が優しく抱きしめてくださいました。




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