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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
竜の巫女と言われても困ります!

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砂漠の国バラボア 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ここは一体、どこでしょうか。

 三百六十度見渡す限り、黄金色の砂地が広がっています。

 そしてわたくしの眼前には、砂と同系色の岩で作られた、大きな山のようなものがありました。


 茫然と砂地とその山のようなものを見上げておりましたわたくしは、じりじりと焼けるような熱を覚えて、急いで日陰に向かいました。

 と言いましても、さらさらと、一切水を含まない砂に足を取られてまともに進めませんが、何とか岩で作られた山の影になっているところに入り込み、ふーっと息を吐きます。

 日差しがびっくりするくらい強いのです。

 そして、信じられないくらいの暑さに、汗が滝のように流れます。


 どこまでも続く砂丘と、背後の岩の山以外に、これと言って目立つものはありません。植物らしきものも見当たりませんでした。

 わたくし以外の人もいらっしゃいません。


 ……本当に、ここはどこなのでしょう。何がどうなっているのでしょうか。


 わたくしはついさきほどまで、ホークヤード国のお城にいたはずです。サロンで、クロディーヌ様たちとお茶会をしていたのです。


 ……そうです! 鍵‼


 わたくしはハッと左手を見下ろしました。

 左手に握り締めている鍵の形の、魔術具なのかよくわからないものに魔力を通したのです。

 見れば、鍵の持ち手に埋め込まれている緑色の石がほのかに輝いておりました。


「この鍵のせいでしょうか……?」


 この鍵に魔力を通した直後に景色が変わったのですから、これが原因である可能性が濃厚です。

 わたくしは鍵を再び首にかけて、うーんと唸りながら自分の身に何が起こったのか推測してみようとしましたが、何一つ思いつきませんでした。

 と言いますか、暑くて思考がまとまりません。


 ……こういう時こそ魔術の出番ですね!


 わたくしはグレアム様から教わった魔術を試すことにしました。

 ホークヤード国に向かう鳥車の中で教わった、空気を冷やす魔術です。

 わたくしは自分の周囲に小さな結界を張りますと、水の魔術を用いて空気を冷やしてみます。


 ……はあ、生き返ります。


 ひんやりと涼しくなった空気に息を吐き、わたくしは自分の手のひらの上に水を生むと、こぼれて服が濡れるのも構わずに飲み干しました。だって、汗をかいたせいなのかすごくすごく喉が渇いているのです。

 ふう、と一息ついたところで、わたくしは改めて周囲を見回しました。

 わたくしはあまり世界のことに詳しくありませんが、クウィスロフト国やホークヤード国には、このように砂しかない地域はなかった気がします。

 となると、ここはわたくしの知らない国かもしれません。


 ……どうにかして場所を特定しないと、魔術で飛んで移動することもできませんね。せめて方角がわからなければ、ただ彷徨うだけになってしまいます。


 ですが、誰かに聞こうにも人の姿はありません。


「……しっかりしなさいアレクシア。とにかく、情報を集めるのですよ」


 不安に押しつぶされそうになりますが、ここでめそめそしていても仕方がないのです。

 どうにかして情報を集めて、グレアム様のもとに戻らなくてはなりません。

 大丈夫です。きっとグレアム様も、わたくしのことを探してくださるはずですもの!

 これがグレアム様に嫁ぐ前のわたくしでしたら、きっとこのままここで死ぬのだろうと、すぐに諦めたかもしれませんが、今のわたくしは魔術が使えます。そして、グレアム様がいらっしゃるのです。死にたくありません。


 ……情報を集めるにしても、日差しの照り付ける砂地をあてもなく移動するのは危険そうです。魔術で飛ぶにしても日差しを遮ることはできませんし、空気を冷やす魔術を使いつつ空を飛ぶのは、わたくしには少々難易度が高そうです。


 これでも以前に比べるといろんな魔術が使えるようになりましたけれど、いくつもの魔術を同時並行で使用するのはまだ慣れていませんもの。


 ……せめて、日が陰るまで待った方がいいですね。


 けれど、ここでただ日が陰るのを待っているのも落ち着きません。ぼんやりしている時間がもったいないです。


 ……ひとまず、この不思議な山を調べてみましょうか。


 わたくしは背後の岩で作られた山を見上げました。

 わたくしの身長よりも大きな岩をいくつも積み上げて作られている、巨大な山です。自然にこのようなものができたとは思えないので人工物だと思うのですけど、いったい何のために作られたのでしょうか。


「家でもなさそうですものね」


 日向になっているところは日差しが強すぎるので、わたくしはとりあえず陰になっている面を探ってみることにしました。

 ただのオブジェにしては大きすぎるので、もしかしたら中に入れるかもしれないと思ったのです。

 ぺたぺたと岩肌に触れて確認しながら歩き回っていますと、ある一か所に来たところで、わたくしの首に下げている鍵が緑色の光を放ちました。


「……もしかして、この山に反応しているんでしょうか?」


 わたくしは少し考えて、鍵にもう少し魔力を込めてみました。

 すると鍵の輝きが強くなって、同時に岩を引きずるような重たい音がしたかと思うと、目の前の岩が両開きの扉のように左右に動きはじめたのです。


「まあ……」


 この岩を積み上げた山には、魔術がかけられていたのでしょうか。

 開いた岩の奥には階段がありました。

 でも、変ですね。上に昇る階段ではなく、降りる階段ですよ。

 ということは、この巨大な岩の山は、地下にも何かが作られているということでしょうか。


「本当に何のための建造物なのでしょうか……」


 ちょっと怖いですが、他に調べられそうなものはありませんので中に入ってみるしかありませんね。

 岩壁に手をつきながら、危険がないかを確かめつつ、ゆっくりと階段を下りていきます。


 外は灼熱地獄ですのに、中はとてもひんやりしていました。

 空気を冷やす魔術は解除し、けれども危険があるかもしれないので結界の魔術だけは周囲に張り巡らせたまま、左手に光魔術で光球を作ります。暗いところでも見える闇の魔術を使おうかとも考えたのですが、結婚指輪の闇の魔石を媒介とする必要があり、光魔術よりも集中力を要するので止めておくことにしました。

 属性を持っていない闇と土の魔術は、他の属性の魔術を使うよりもわたくしには難しいのです。グレアム様は属性をお持ちでない闇の魔術も息をするように扱われますけどね。


 ……それにしても、階段は一体どこまで続いていくのでしょう。


 人が一人通るのがやっとの細い階段は、まだまだ終わりが見えてきません。

 この砂地にこれほど深い地下空間を作るなんて、これを作った方はすごいですね。

 終わりの見えない階段に、だんだん怖くなってきます。

 階段は折れながら続いているため、振り返っても入り口は見えません。


 ……階段を降りている間に入り口が閉じて閉じ込められたらどうしましょう。


 ふと、そんな不安が胸をよぎりました。

 閉じ込められても、最悪魔術で入り口を破壊することは可能ですが、壊したら誰かに怒られるかもしれませんし。

 ここがどこかはわかりませんが、他国のような気がするので、不用意に破壊して国際問題になったりしたら大変です。


「……引き返しましょう!」


 怖くなったわたくしは、どこまで続くのかわからない階段を降りることを諦めて踵を返します。


 ……ほら、不法侵入かもしれませんからね! そうです。誰かに断りなく勝手に歩き回ってはダメだと思います!


 臆病風に吹かれた自分を納得させる言い訳をしつつ、せっせと降りてきた階段を上ります。

 降りるときはいいのですが、上るのはしんどいですね。

 風の魔術で飛んでもいいのですけど、狭いので……。わたくしのコントロールではあちこちぶつかりそうなので諦めます。

 降りる時の倍くらいの時間をかけて、せっせと階段を上っていきますと……よかったです! 入口は閉まっていませんでした!


 しかし、わたくしは考えが甘かったのかもしれません。

 ほっと息を吐き出しつつ外に出たわたくしを待ち構えていたのは、異国風の服を着た、知らない方々でした。





☆ご報告☆


「王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います」のノベル④巻が2024年9月に発売予定です!

どうぞよろしくお願いいたします!!

挿絵(By みてみん)

出版社 : 主婦と生活社 (2024/9/6)

発売日 : 2024/9/6

ISBN-13 : 978-4391163599

あらすじ:

呪いの指輪の謎解きと、甘く幸せな結婚準備。

恋に不慣れな天才令嬢と長年の恋を実らせたい王子のロマンチックラブ第4巻


サイラスとの結婚を目前に控え、妃の仕事である宝物庫の管理業務を引き継ぐことになったオリヴィア。数々の歴史ある品のなかに、実在しないと思っていた伝説の呪いの指輪を見つけ興奮するオリヴィアだったが、ある日その指輪が忽然と姿を消してしまう。容疑者として名が上がったのは──ティアナ!? 王妃・バーバラのとある変化も相まって疑問が疑心を呼ぶ王宮で、オリヴィアの辿り着いた真実とは? 結婚式に向けてサイラスとの距離もぐっと縮まる、王宮ラブロマンス第4巻。

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