砂漠の国バラボア 1
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
新作「悪役令嬢は断罪回避のためにお兄様と契約結婚をすることにしました」の投稿を開始いたしました。
こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
https://ncode.syosetu.com/n6089jh/
「アレクシアが消えた⁉」
ホークヤード国の王太子ドニと、空気を冷やし循環させる魔術具を見学していたグレアムは、息せき切ってやってきたメロディの報告に目を向いた。
「はい! 忽然と目の前から消えてしまわれました! 現在ジョエル様がサロンの中に手掛かりが残されていないか探っていらっしゃいます……!」
肩で息をしながらメロディが早口でまくし立てる。
「ドニ殿下、すまないが!」
「もちろんだ。私も父に報告したらすぐに向おう」
グレアムはドニに一言断ると、メロディとともに駆けだした。
他国の城の中を走るなど褒められた行為ではないが今はそんなことを言っている場合ではない。
先ほどまでアレクシアがいたというサロンへ飛び込むと、青い顔をした王妃クロディーヌと、ルイーズ、ミシェルの三人と、部屋の中で直立不動で目を閉じているジョエルがいる。
どうやらジョエルはアレクシアの魔力の気配を探っているらしい。
何が起こったのか問い詰めたい気持ちは山々だが邪魔をすべきでないと判断して、グレアムはクロディーヌに向き直った。
「何があったんですか」
「そ、それが、わたくしにもはっきりとは……」
青い顔をしながらクロディーヌが言うには、昨日骨董市で手に入れた鍵の形をした魔術具らしきものにアレクシアが魔力を込めた瞬間、あたりが光に包まれて、気がついたらアレクシアが消えていたというのだ。
鍵の魔石に魔力を通してほしいとミシェルとルイーズが無理にねだったらしい。
実際にこの目で見ていないから定かではないが、あの鍵が正しく魔術具で、いまだに魔術具としての機能を持っていたと考えるのが自然かもしれなかった。
しかし、魔力を通した瞬間、誰かを消してしまったり飛ばしてしまったりする魔術具など聞いたことがない。
アレクシアが今どうなっているのか、生きているのか死んでいるのかすらもわからず、グレアムは発狂しそうになった。
そのとき、アレクシアの魔力を探っていたジョエルが目を開けて、額に浮かんだ汗を拭った。かなり集中していたようだ。
「何かわかったか⁉ 何があった⁉ アレクシアはどこだ⁉」
「まってくれ、順を追って説明する」
ジョエルは飲み残しの紅茶を仰ぐと、息を吐いた。
「まず、アレクシアの魔力を探ってみたが、私が探れる範囲内にアレクシアの魔力は感知できなかった」
「探れる範囲はどのくらいだ」
「王都がギリギリ入るくらいだな」
「……そうか」
アレクシアもだが、ジョエルも魔力探知の能力に優れているらしい。グレアムではさすがに王都全域からアレクシアの魔力を探すのは不可能だ。
「アレクシアが身につけていた鍵の形をした魔術具が何らかの動作をしたのだと思うが、私もはっきりとはわからない。ただ、あれには風の魔石しかついていなかった。だから姿を消すものではないと思う」
「そうだな」
アレクシアが目の前から消えている以上、考えられるのは二つだ。
アレクシア自身が消えてしまったか、どこかへ飛ばされたかである。
前者の場合、風の魔術だけでは不可能だ。姿を消す魔術を魔術具に付与しようと思えば、作ったことはないが、理論上は光と闇の魔石を用いる必要があるだろう。
となると、どこかへ飛ばされたという可能性が高いが……。
(部屋の窓は閉まっている)
窓が開いていたのだとしても、飛ばされたのであればジョエルが気づいて追うはずだ。
「メロディ、至急ロックに連絡をしてアレクシアを捜索させろ」
ジョエルが魔力感知できなかったのだ。ロックたち諜報隊が探っても見つけ出すのは難しいかもしれないが、それでも何もしないではいられない。
「とにかく、あの鍵型の魔術具が何なのかを調べないことにはどうしようもない。骨董市は今日もやっていたな? 俺は昨日の店主がまだいないかどうかを確認してくる」
「ならば私はもうしばらく魔力を探ってみよう」
「頼む」
グレアムは踵を返すと、一度部屋に戻って幾何学模様の箱を掴んで走り出す。
今の手掛かりはあの店主の老人だけだ。
(俺の失態だ! あんなもの、持たせるんじゃなかった……!)
パッと見たところ危険そうな魔紋は描かれていなかったから大丈夫だと思っていた。
アレクシアにも魔石に魔力を込めるなと伝えておいたし、第一古い魔術具で動作するものは一つも出土されていないと聞くからだ。
強くねだられたら断れないアレクシアの性格をもっと考慮すべきだったと思う。
(頼む、まだいてくれ……!)
グレアムは城を出たところで魔術で空に飛びあがると、骨董市が開かれている南の広場に急いだ。






