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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
竜の巫女と言われても困ります!

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これは魔術具? それとも鍵? 2

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 お城に戻ると、案の定メロディがカンカンに怒っていました。


「こんなに大量のガラクタをどうするつもりですか⁉」


 メロディが指さす先には、グレアム様が骨董市で購入した壊れた魔術具の欠片が山になっております。

 グレアム様とわたくしは夫婦ですので、ホークヤード国のお城でも一部屋を一緒に使っております。

 貴賓室なのでとっても広いお部屋です。だから購入した魔術具の欠片があっても別段狭くはないのですけど……、せっかくの綺麗なお部屋の一部だけが、まるでゴミ捨て場のようになっているのがメロディは気に入らないのだと思います。


「ガラクタじゃない」

「どう見てもガラクタですよ! 何の役に立つって言うんですか。この……この……ええっと、フライパンを半分にぶった切ったみたいなものとか、ねじの頭だけのもののようなものとか、極めつけは何ですかこれ! 土偶ですか⁉」

「調べてみないと俺にもわからんが、とにかくガラクタじゃない」


 グレアム様は宝物をガラクタ呼ばわりされてムッと眉を寄せます。

 そして文句を言っているメロディを無視すると、さっそく壊れた魔術具の欠片の山に近づいて、何やら分類をはじめました。

 どういう基準で分けているのかわたくしにはさっぱりわかりませんので、お手伝いはできません。

 メロディはこめかみをもみながら、はーっと息を吐き出しました。

 わたくしよりもグレアム様と過ごしてきた時間がはるかに長いメロディは、何を言っても無駄だと悟ったようです。


「奥様、あの魔術具馬鹿は放っておいて、お茶にしましょう。お疲れでしょう?」


 わたくしよりもメロディの方がはるかに疲れた顔をしていますけどね。

 メロディがベルでメイドを呼ぶと、ティーセットを運んできてくださるようにお願いします。


 ……グレアム様はしばらく魔術具の欠片たちに夢中になっているでしょうからね。他にすることも思いつきませんので、お茶をしながらのんびりしましょう。


「古代の魔術具というのは、今の魔術具と違うのでしょうか?」


 お茶が運ばれてきて、ぐったりしているメロディと一緒にティータイムを楽しみながらぼそりとつぶやけば、グレアム様が嬉しそうに振り返りました。


「ああ、違うぞ。今の魔術具は生活に直結したものが多いが、昔の魔術具は宗教的な儀式に用いたり、あとは建造物のトラップに使われていたりするものが大半なんだ。だが、使える状態で発掘されたものは今のところ一つもなく、多くの謎に包まれている。見てみろ。これは比較的状態がいいものだが、残っている紋から推測するに、トラップ用の魔術具だ。侵入者を撃退するのに使っていたものなのだろう」


 グレアム様がそう言って、メロディが「土偶」と呼んだものを手に取ります。


「その土偶が飛んだり転がったりするとでも?」


 メロディが投げやりな感じで返しましたが、グレアム様は嬉しそうに大きく頷きます。


「なるほど、その可能性もゼロではないな。俺としては火を吹いたり、何か飛び道具を放ったりするのかと思っていたが……」

「…………はあ」


 ぶつぶつと考察をはじめたグレアム様にメロディがため息です。

 ああなれば満足するまで梃子でも動きません。


 ……グレアム様は嫌がりそうですが、本当に、キノコを前にしたドウェインさんそっくりですよ。人間、何かへの興味が特出していると、皆様あのようになるのでしょうか。まあ、グレアム様の場合はドウェインさんと違って周囲の人たちに多大なる精神的ダメージを与えたりはしませんから、可愛いものだと思いますけどね。


 せっせと壊れた魔術具の欠片を分類していたグレアム様が、ふと、途中で手を止めました。

 何か気になるものがあった模様です。


「なんだこれは」


 わたくしたちからすれば、あの山すべてが「なんだこれは」状態ですが、グレアム様は違います。そのグレアム様が「なんだ」というくらいですから、よほど不思議なものが出てきたのでしょう。


「どうされました?」


 気になって問いかけると、グレアム様の手には一つの黄金色の鍵が握られていました。


 ……あんな鍵、お店にありましたかね?


 キラキラして、装飾も凝っている鍵はとても美しいです。

 ソファから立ち上がってふらりと近寄りますと、グレアム様が幾何学模様のからくり箱のようなものを手に教えてくださいます。


「この中に入っていたんだ」


 なるほど、箱の中に隠されていたんですか。

 からくり箱は見るからに複雑そうなので、店主さんは開けられなかったのかもしれないですね。


「この中央のものは魔石ですかね?」


 鍵の持ち手の中央には、緑色をした半透明の石がはめ込まれていました。輝きはありませんが、エメラルドや翡翠などといった宝石ではなさそうですので、魔石かもしれません。


「見たところ風の魔石のようだ」

「魔術具でしょうか?」

「どうだろうな」

「魔力を込めてみたらわかりますかね」

「そうかもしれないが、ここではやめておいた方がいいだろう。トラップ系の魔術具だったら危ないだろうからな。コードウェルに帰って、しっかり準備をしたうえで実験した方がいい」


 この鍵のようなものがどんなトラップを発動するのかはわかりませんが、もしかしたらびっくりするような危険なものかもしれませんからね。さすがに他国で問題は起こせません。


「でも、可愛らしい鍵ですね。ドレスの襟元に飾ってもいいかもしれません。紐をつけて首飾りしにしてもいいですね」


 あれだけガラクタと怒っていたメロディも、鍵には興味津々です。

 グレアム様はちょっと考えて、鍵をわたくしに渡しました。


「帰るまでは実験できないからな。それまでならアレクシアの装飾品にしたければしてもかまわん」

「よろしいのですか?」

「ああ。むしろこうも小さいと、この中に置いておくと埋もれてどこかに行きそうだからな。アレクシアが持っていてくれれば助かる」

「そういうことでしたらお任せください」


 グレアム様が「なんだこれは」というくらい不思議な鍵です。コードウェルに帰るまで、わたくしが責任をもってお預かりいたしますよ! グレアム様の宝物ですからね!

 でも、こんな小さな鍵が魔術具なのだとしたら、本当に何に使うのでしょう。


 ……あ、でも、何に使うのかはわかりませんが、グレアム様は魔術具の小型化の研究もしていますからね、何か役に立つ情報が得られるかもしれませんね!





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