セイレンの襲撃 5
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「さあ、姫! サンゴキノコを作りに行きますよ!」
しばらくして部屋にやってきたドウェインさんはびっくりするほど上機嫌でした。
……ファシーナ様とどんなお話をしたのでしょうか。気になりますが、聞くのが怖い気も致しますのでそっとしておきましょう。
「サンゴキノコが完成したら、ようやく腕輪を外していただけますね!」
意気揚々と庭へ向かうドウェインさんの後を、グレアム様と手をつないで追いかけます。
グレアム様が優しく目を細めて、つないでいない方の手でわたくしの頬をするりと撫でてくださいました。
「迷惑をかけたな。ありがとう」
ご迷惑をかけられたなんて思っていませんよ! グレアム様はいつもわたくしを守ってくださいますから、たまにはわたくしがグレアム様のために頑張る日があってもいいと思います!
でも、グレアム様に「ありがとう」と言われるのは嬉しいので、ふにゃりと頬が緩んでしまいます。
顔を見合わせて微笑みあっていると、「何をしているんですか」とドウェインさんの焦れた声がしました。
あのぅ、そんなに慌てなくてもサンゴキノコは逃げていかないと思うのですけど……。
ドウェインさんがキノコに夢中になっているときはキノコしか見えていませんので、機嫌が悪くなる前に急ぐことにいたしましょう。
庭に降りると、ドウェインさん監視のもと、わたくしは桃色サンゴに魔力を注いでいきます。
「姫、慎重にお願いしますね」
本当に、ファシーナ様とどんなお話をしたのでしょうね。
ドウェインさんはサンゴキノコが欲しいようなので、もともと真剣ではあったのですが、今日はいつになく熱のこもった目をしていますよ。
「ここまでくると成長が早いのですね」
サンゴキノコの赤ちゃんは、少しずつですが大きくなっていっています。
サンゴキノコの赤ちゃんが発生するまではまったく変化がなかったので不安だったのですが、目に見えて変化が出ていると楽しくなってきますね。
グレアム様も興味津々ですよ。
「これは本当にキノコなのか? 不思議で仕方がないんだが」
「ですよね。キノコの形はしていますけど……キノコなんでしょうか?」
ひとまず、混沌茸と同類でなければそれでいいのですけどね。
まだ安心はできません。完成した直後に「ぐげげげげげ」とかい言い出さない保証はないのですから。
「キノコですよ。私の勘がそう告げています!」
いえ、ドウェインさんは魔物の一種である混沌茸も「キノコ」に分類して平然と食べていたので、その勘は信用できません。
……この方、形がキノコだったら全部キノコ認定するんじゃないですかね。
おしゃべりしている間に、サンゴキノコは直径五センチくらいの大きさまで育ちました。
あの、ここで一つ疑問が……。
「どのくらい大きくなったら完成なのでしょう」
わたくしの疑問に、グレアム様とドウェインさんが沈黙しました。
今の段階でもキノコの形はしているのですよ。ちゃんと傘も開きましたし。もういいんでしょうか。それとももっと大きくなるのでしょうか。謎です。
「さすがにまだ小さい気がしますよ」
「……食卓に並ぶ一般的なキノコの大きさだと思いますが?」
「いえ、きっとまだ大きくなるはずです。優勝を目指して限界まで大きくしましょう」
優勝ってなんですか? ドウェインさんは一体何と戦っているのですか?
わたくしはファシーナ様との勝負に勝ちさえすればそれでいのですよ。ファシーナ様はサンゴキノコの大きさについては言及しなかったはずですし。
「もういいんじゃないですか?」
「俺もそう思う」
「ですよね?」
さっさとサンゴキノコを見せてグレアム様の腕輪を外していただかねばなりませんので、悠長に大きさとか考えてられないです。
でも、ドウェインさんはあきらめきれないのか、「ちょっと確認してきます」とおっしゃって城の方に走っていきました。風の魔術を使っているのか、驚くほど早いです。
そしてこれまたあっという間に戻ってきます。
「わかりましたよ姫! 成長しきったら、自然にサンゴから外れて落ちるらしいです」
「つまり、そこまで成長させなければならないと?」
「女王はそう言っています」
ゴールまでの道のりは長いですね……。
キノコ一つ作るのがこんなに大変なんて思いもしませんでしたよ。
でもこれ以上グレアム様に不自由な思いはさせられませんから、意地でも今日中に仕上げちゃいますよ!
魔力を注ぐと、むくむくとキノコが大きくなっていきます。
休憩して魔力を注ぎ、お昼ご飯を食べてはまた注ぎ……。延々と魔力を注ぎ続けて数時間。
それは、突然でした。
わたくしの手のひらの大きさまでキノコが成長したと思ったら、突然、桃色サンゴがぱあっと光輝いたのです。
驚いて魔力を注ぐのを止めたわたくしの目の前で、サンゴキノコが桃色サンゴから外れてポロリと下に落ちました。
どうやら、完成したようです。






