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[第五部完結]【書籍化】大魔術師様に嫁ぎまして~形式上の妻ですが、なぜか溺愛されています~  作者: 狭山ひびき
大魔術師様の妻は譲りません!

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月夜の歌声 3

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 次の日、わたくしとグレアム様は昨日同様、海に向かいました。

 ガイ様は水があまりお好きでないこともあり、本日はホテルでお過ごしになるそうです。

 そのため、メロディとマーシアはガイ様のお側についています。

 ロックさんとオルグさんは今日の昼はお休みです。グレアム様がせっかくリゾート地に来たのだからと、護衛が不要のときは自由にするようにとおっしゃったのです。


 ……ふふ、グレアム様お優しい!


 ホテルの周囲のお店には屋台もありまして、食べることが大好きなオルグさんは、屋台で食べ歩きをするとおっしゃっていました。ロックさんは特にすることが思いつかなかったので、オルグさんについて行くそうです。


 わたくしたちは、海岸から見える小島に向かうのですよ!

 一番近い小島でも、泳いで向かうには厳しいほど距離があります。そもそもわたくしは泳いだことがございませんので、泳いで向かうのは到底不可能です。ですので、もちろん、魔術で向かいます。

 空を飛ぶときは、いつもグレアム様が抱きかかえてくださるのですが、今日は自力で頑張りますよ。魔術の練習はずっと続けてきましたし、グレアム様からも上達したとお褒めの言葉を頂いたのできっと大丈夫なはず。


 ……いつもはお城の周りを一周するだけでしたので、それよりも距離のありそうな島まで向かうのは少々不安ではありますが、グレアム様が手をつないでくださるので頑張れます!


 わたくしは風の魔術を使って、ふわりと体を浮かせました。

 グレアム様はいつももっと早いスピードで飛ぶのですけど、今日は不慣れなわたくしに合わせてくださってゆっくりです。

 ふふ、下を見ながらゆっくりと飛ぶのも、楽しいものですね。

 グレアム様がお側にいてくださるからか、最初は緊張しましたが、一度飛び上がってしまえばそれほど緊張しなくなりました。

 眼下にきらめくエメラルドグリーンの海を楽しむ余裕もありますよ。


「あっ、グレアム様、イルカです!」


 イルカという動物は昨日はじめて目にしました。

 このあたりに群れで生息しているようで、たまにぴょんと海面から飛び上がる姿が見えるのです。

 見えるのは動物の方のイルカですが、グレアム様によると、イルカの獣人さんもいらっしゃるそうですよ。ただ、海の動物の獣人さんは、海で暮らしていらっしゃることが多いそうです。海底にはそんな海の獣人さんたちが暮らす町があるのだとか。

 ホテルの方が言うには、海の獣人さんたちの暮らす海底の町は、わたくしたちが向かっている小島――カペル島の近くの海だそうです。魔術を使えば、人間でも陸で暮らす獣人でも向かえるそうですので、帰る前に一度見てみたいなと思っています。


 ……グレアム様が許可くださったらですけどね。


 グレアム様はあまり「だめ」とはおっしゃいませんが、危険なことは決して許してくださいません。海の底にある町が危険でないかどうかはわたくしにはわかりませんので、そこはグレアム様のご判断に任せることになります。


 まだ見ぬ海底の町に思いをはせている間に、カペル島に到着しました。

 ここは一時間もあれば外周を回りきることができる大きさの無人島で、アーレ地方が旅行者たちでにぎわう時期には、キャンプをして楽しむ方でにぎわうのだそうですが、現在は閑散期ですので誰もいらっしゃいませんでした。

 ホークヤード国はクウィスロフト国よりも温暖な国ですが、ちょうど社交シーズンがはじまったころですからね。貴族の方々は、リゾート地ではなく王都に集まるのですよ。そして、貴族が移動し、王都がにぎわうので商人たちも王都に集まる傾向があります。貴族でも商人でもない方々は、収穫期を終えると冬支度へ移行しますから、呑気に旅行している暇はないのです。


 ……あ、社交シーズンと言えば、ホークヤード国王からお招きを受けていたのを思い出しました。


 来月、ホークヤード国の王都へ行かねばなりません。

 ジョエル君からハイリンヒ山のことを聞いたホークヤード国王が、感謝の意を込めてグレアム様をお招きになったのですよ。

 ガイ様のことは公にしないことになりましたので、ハイリンヒ山の噴火を止めたのは、ジョエル君たち火竜の一族とグレアム様ということになっているのです。

 グレアム様は社交がお嫌いなのでちょっと嫌そうでしたが、ほかの国と仲良くするのも王族の務めだとかで断ることはできませんでした。

 あと、ホークヤード国は瞳の色や獣人に対する偏見がありませんからね。面倒だとおっしゃりながらも、憂鬱ではないみたいです。


「こっちの砂浜の方が白いですね!」


 カペル島の砂浜に降り立ったわたくしは、まず真っ白な砂浜に驚きました。


「このあたりはサンゴが多いからな。サンゴが多いと砂浜が白くなると聞いたことがある」

「へえ!」


 サンゴ! 知っていますよ! 昨日教えてもらったのです。わたくしが見たのはアクセサリーに加工されたものでしたが、赤やピンクや白などの色があってとても綺麗でした。

 クウィスロフト国は海に面していませんので、サンゴのアクセサリーはあまり売られていません。貴族の間で最近人気が出ているそうですが、輸入に頼らなければならないため、市場には並ばないそうです。グレアム様が女王陛下のお土産にいくつか買って帰るとおっしゃっていました。


 グレアム様が土の魔術で海岸に日よけを作ってくださったので、わたくしたちはその下で一休みすることにしました。

 海岸に寝そべって、何もせずにグレアム様と一緒に空を眺めるのは、なんだか贅沢な気分です。

 海の音と風の音が心地いい……。


 グレアム様にぺっとりとくっついていると、だんだん眠たくなってきます。

 わたくしがうとうとしはじめたことに気が付いたのでしょう、グレアム様がわたくしたちの周囲に風の結界を張りました。

 カペル島にも強い魔力の気配はないので、弱い魔物しか生息していないと思われますが、念のためなのでしょう。

 グレアム様がわたくしの方に寝返りを打って、わたくしを腕に抱き込みました。

 額に一つと唇に一つ、口づけが落ちてきます。


 ……あ、グレアム様も目がとろんとしているので、眠たくなってきたのですね!


 グレアム様の魔術でしょう。結界の中にはそよそよと心地よい風が流れています。

 日よけで日差しも遮られていて、下はふかふかの砂浜。

 もう抗えません。わたくしたちはそのまま、お昼寝タイムを取ることにいたしました。





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